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「大切なのは、自分がどう感じるか」文筆家・嶋津亮太さんに聞く、世間体に囚われないパートナーシップ

パートナーのことは大切だけど、ときどき「この人とずっと一緒にいていいんだろうか?」と不安になる。

「ふたりさえ幸せなら問題ない!」と思いながらも、世間体や他者からの評価を気にしてしまう。

相手の中身が好きで付き合い始めたのに、「もっと稼ぎのいい人を選んだら?」「家庭環境に問題がある人との結婚は心配じゃない?」なんて周りから言われると、好きな気持ちに自信がなくなってしまう人もいるのではないでしょうか。

「まずは相手とコミュニケーションをとって、周りではなく自分がどう感じるかを大切にしています」

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そう語ってくれたのは、文筆家の嶋津亮太さん。お仕事のマネージャーでもある奥様とは、13年もの年月を共に歩んで来られたとのこと。

18歳年の差があり、お互いに身体があまり強くないという嶋津さんご夫妻。これらの要素はお付き合いや結婚を考える上でのハードルになったり、周囲から好奇の目で見られたりすることもあるかもしれません。

世間体を気にせずありのままの相手を見つめ、関係を維持するには?
バイアスを取り払い、自分の気持ちを大切にできている理由は?

今回は嶋津さんに、既存の価値観に囚われないパートナーシップについてお聞きしました。

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嶋津亮太さんプロフィール|文筆家、"対話をデザインする"ダイアログ・デザイナー。イベント・講義レポート、インタビュー記事を中心としたライティング業の他、ラジオパーソナリティ、バーの経営者としても活躍。
『れもんらいふデザイン塾』講義レポート|POOL SIDE TALKレポート|秋山具義著『世界はデザインでできている』(ちくまプリマ―)構成|note内コンテスト『教養のエチュード賞』主催

「自分が一緒にいれば、彼女が傷つかずに済むんじゃないか」

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―奥様とはバーで出会った、とnoteで書かれていましたよね。第一印象で、「この方素敵だな」とビビッときたんでしょうか?

嶋津亮太さん(以下、嶋津):僕が働いていたバーに、妻がお客様としてやってきたんです。僕は小説や演劇が好きなのですが、妻に「今日はなにをされていたんですか」と話を振ったら、「お芝居を観てきた」っていうんですよ。演目を訊くと、「チェーホフの『かもめ』です」と。それで話が盛り上がりましたね。チェーホフの話ができるような人って普段なかなか出会わないので、運命的なものを感じました。

デートを重ねるなかで、彼女がそれまでの人生でどんなことをやってきて、今なにをしているのか、身の上話を聞くのがおもしろかったです。卓球のコーチや美容室の経営など、いろいろな仕事をしている彼女に、「そんなにたくさんのことを、一体どうやってこなしていたの?」と驚きました。

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嶋津:ユニークで才能がある人なので周りに人が集まってくるのですが、中には悪い人間もいて。彼女はとにかく人を信用するタイプで、それが最大の長所であり、短所でもありました。人が良すぎるあまり、騙されてしまうこともたくさんあったようです。20代前半で数千万の借金を肩代わりしたり、その後も仕事関係で騙されたり。地頭と人格の良さを活かして働いて、トラブルを乗り越えていました。

―壮絶な半生ですね……。

嶋津:出会った当時、僕は21歳で彼女は39歳だったのですが、その年齢では考えられないほどの体験を抱えていました。そんな人生を送る彼女に、「人」として惹かれた。

同時に、もうこれ以上辛い思いをさせちゃいけない、と思いました。彼女はもう傷ついちゃいけない人だ、って。こんなこと言うとおかしいかもしれませんが、僕が一緒にいれば変な傷つき方はしなくて済むんじゃないかなと(笑)。そこだけは自信があったんです。

長い目で見て、ふたりのペースでゆっくりと歩いてきた

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―18歳の差があって、しかも波乱万丈な人生を歩まれている奥様。嶋津さんご自身は彼女を魅力的に受け止めていても、周りになにか言われることはなかったですか?

嶋津:周囲からは、「奥さんが18歳も年上で、大丈夫なの?」と驚かれましたね。妻も同じようなことを言われていました。一緒にバーを経営しているので、店のお客さんからは好奇の目で見られることも少なくない。

でも、僕自身はなにごとに対しても楽観的なんですよ。「ふたりさえよければ、それでいいじゃないか」と思う。彼女の方がいろいろ気にしていたから、僕は髭なんて生やしちゃって少しでも大人に見えるように背伸びしていました。

外からの声に関しては、時間が解決するだろうと思ってやり過ごしました。僕が年をとったら、周りもあまり気にしなくなるだろうと踏んだ。18歳離れているとはいえ、21歳と39歳、30歳と48歳では受け取り方が変わってきますよね。僕が30歳になったら、きっと普通になる。

―最初から長期的な関係を見据えていらしたのですね。

嶋津:彼女は身体が弱くて、出会った当時は「もうあと5年くらいしか生きられない」とお医者さんに言われていたんです。とにかく働きすぎて、頑張りすぎて、寿命が縮まってしまっていた。その問題をクリアするためには、僕がそばで支えて、人生のリズムをゆっくりしたペースに合わせていくのがいいな、と思いました。

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―大変なこと、ハードルがたくさんあるからこそ、お互いを思いやって優しくできる部分もあるのですね。

嶋津:確かに、そうかもしれないです。僕も腸に病気を抱えていて、身体があまり丈夫じゃないんですよね。悪い油を使った料理を食べるとすぐにお腹を下すし、体調のコンディションにも波がある。人と比べて疲れやすい体質なので、身体がすごくしんどいときの感覚がわかるんですよ。僕が健康優良児だったら、妻のつらさをわかってあげられなかったかもしれません。

彼女は腎臓が悪いせいで、お手洗いから1時間出てこられないときもあります。それに対してイライラする人、怒る人もいるかもしれない。僕の場合、同じようにお腹が痛いときがあるから、しんどさを共有できる。

―自分だったら、仮に相手が病気を抱えていたら「背負って生きていけるかな……」と不安になったり、「支えてあげないと」とプレッシャーになったりしそうです。万が一別れてしまうことがあったら、見捨てたみたいにならないかな、とか。

嶋津:彼女は信じられないくらい純粋で、心がきれいなんです。その分、絶対に傷つけちゃいけない、と強く感じていましたね。彼女が特別な存在だったからこそ、覚悟ができたのかもしれません。

大切なのは、他人ではなく自分がどう思うか

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―なんだかんだ、世間体や周りの目を気にしてしまう人って多いと思うんです。相手を色眼鏡で見ない方法、その人自身を見つめて向き合うコツはありますか?

嶋津:まずは自分からコミュニケーションをとって、自分がどう感じるかを大切にしています。基本的に、僕は他者の評価や「周りがこう言っているから」という基準は重視していません。現時点でネガティブな印象を抱いている相手でも、今後イメージが変わるかもしれないですし。誠実な対話ができれば、誤解も解けるでしょうしね。

100%悪、100%善みたいな人ってあんまりいないじゃないですか。やりとりを続けるなかで、うまいこと相手の長所を引っ張り出して拡大すれば、善のパーセンテージが増えていきますよね。

―嶋津さんのnoteに、「奥様と出会うまではロクでもない人間だった」と書かれていたのが気になっていました。今の優しくて穏やかな嶋津さん像からはかけ離れたイメージです。

嶋津:「ロクでもない」というのは、つまり想像力が欠けていたんですよね。10代のころは、どんな言葉や表現を使ってどんな行動をしても、自分が楽しければいいという考えでした。それに対して、妻は「この人だったらこう思うんじゃないか」と予想して、先回りでケアができる。

付き合い始めのころは、自分の何気ない言動で彼女が傷つくのを見て、「あぁ、しまった」と後悔の連続でしたね。「こういうことで相手は傷つくんだ」と学びました。彼女と出会わずにいたら、無意識のうちにいろいろな人を傷つけていたかもしれないです。

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嶋津:たとえば、彼女は腎臓が悪いので、髪の毛を染められないんです。一方の僕は、出会った当時まだ大学生で、おしゃれを楽しみたい時期でした。カラーも入れていたし、いろいろと髪を遊ばせていた。

ある日、彼女がひどく落ち込んでいて。年下の彼氏ができたから、自分も若く見られなくてはいけない、合わせなくちゃいけない、と思ったみたいなんです。そんな彼女の姿を見て、僕、次の日美容室に行って丸坊主にしたんですよ。

―えぇーっ!?(笑)

嶋津:この髪型なら、なにも引け目に感じないだろうと(笑)。それ以来、髪は一度も染めていないです。

これは極端な例ですが、「相手の傷を軽減するにはどうすればいいのか」と試行錯誤を続けていくうちに、少しずつ優しい人間になれますよね。

日々のコミュニケーションから、多くのことを学んだ


―とはいえ、「この前こんなことを言って傷つけてしまったなぁ。次から気をつけよう」と思って、すぐ実行に移せるものですか?

嶋津:これはほんとうに、修行ですよね(笑)。いくら気をつけていても、うっかり人を傷つけることはあるじゃないですか。例えば、仕事をしているときって、それだけに集中しているから、話しかけられても無碍な受け答えをしてしまうこともあります。仕方ないと思いつつも、あとになって「悪いことしたなぁ……」と反省する。難しいですよね。

―今も修行の身なんですか?

嶋津:毎日が修行ですよ(笑)。人はわかりあえるようで、なかなかわかりあえない。それでもわかりあいたい、そんな思いで日々を過ごしています。

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嶋津:その点、妻は人をポジティブにさせるコミュニケーションが上手です。仕事で意見がぶつかったときも、ここぞというときは僕を立ててくれます。カウンセリングやコーチングに近いですね。話しているとわくわくするんです。すごいなぁと思うし、そういう部分で僕は年の差に甘えているのかもしれない。結局は、彼女の手のひらの上で転がされているんです(笑)。

彼女は僕のマネージャー的な存在でもあります。お店の経営にしても、ライティング業にしても、フリーランスで仕事をしていると、誰も僕を叱ってくれないんですよ。上司がいるわけでもないので、一歩踏み込んでお尻を叩いてくれるのは彼女だけですね。僕のことを世界で一番よく知っていて、適切で本質を突いたアドバイスをくれます。

ほんとうに、僕は彼女からさまざまなことを学びました。お仕事などでお会いした憧れの方はたくさんいますが、人生で一番影響を受けたのは彼女ですね。

インタビューを終えて

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嶋津さんの仰っていた、「他人ではなく、自分がどう感じるかを大切にする」という言葉が印象的でした。

世間が決めた常識に囚われるのではなく、想像力を巡らせ、ふたりだけの未来を思い描いてみる。
長い道の途中にハードルがあったとしても、お互いに至らない部分があっても、大切なのは「それでもパートナーが大好きで、ずっと一緒にいたい」という気持ち。

自分の心をしっかりと見つめて、目の前のパートナーと向き合うことができたら素敵ですよね。

取材・文:ふらにー(@fnz____
編集:村尾 唯(@yui3x9)
写真:ふらにー、嶋津さんご提供

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