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第二回教養のエチュード賞 結果発表

あなただけ今晩は、文筆家の嶋津亮太です。

文章によるコンテスト、第二回教養のエチュード賞の結果発表の時間です。まずはじめに、ご応募して下さりありがとうございました。感謝の気持ちでいっぱいです。応募された作品数は128作品。全て読ませていただきました。今回は一人につき一作品という規定を設けましたので、結果的には118作品を選考の対象にさせていただきます。



結果発表の前に

今回は『「読むこと」は教養のエチュード』と題し、全ての作品に感想を添えて紹介させていただくという企画を催しました。理由は参加してくださった方に「しっかり読んでいますよ」ということを伝えたかったから。ささやかではありますが僕からの感謝の気持ちです。

一つの記事にあたり7作品で編集しました。記事の並び(グループ分け)には明確な意図があります。僕の一番の望みは「できるだけ多くの人に全ての応募作品を読んでもらうこと」。各記事の上から1番、2番はこのコンテストをはじめる前から信頼を置いている書き手の方を選ばせていただきました(Twitterとの連携度の高さも考慮の上)。そこで7作品の中にフォロワーの少ない書き手を混ぜて、作風も含めて全体のバランスを調整しました。ですので「フォロワーの少ない書き手の作品が一人でも多くの人の目に触れますように」という願いを込めています。だって、みなさんこんなにも一生懸命書いてくださったのですもの!

だからこそ1番、2番の人には記事をSNSでシェアしていただきたいのです(不躾なお願いでごめんなさい!その分、みなさんには少し長めの文章を添えさせていただきました。どうぞよろしくお願いします)。



結果発表について

今回のコンテストは、素敵な物語が生まれ、なんと僕の「憧れ」のお二人が賞の選考に参加してくださいました。アートディレクターの千原徹也さんと写真家のワタナベアニさんです。


そして、当初の賞金額は10,000円でしたが、多くの方からのサポートにより総額54,000円にまで上がりました。コンテストを盛り立ててくださったみなさま、心より感謝申し上げます。



今回の賞金の分配は…

▷教養のエチュード賞(1名)   28,000円

▷千原徹也賞(1名)       10,000円

▷ワタナベアニ賞(1名)     10,000円

▷副賞(2名)          各3000円

プリマドンナ賞(1名)     僕によるインタビュー記事


です。



それでは、結果発表へ参りましょう。




***




◆教養のエチュード賞◆

▷『絶望的で最高 』
kirakirapinkingさん


何よりの決め手は、「この人の文章をまた読みたい」と思ったことでした。もしかしたら突然ふっと書くことをやめてしまうかもしれない。続けるも止めるも当人の自由なのですが、それを食い止めるのは誰かが対価を支払って「求めること」だと思います。この賞が彼女が「書き続けてみようかな」と思う〝きっかけ〟になればいい。そのような想いも込めました。だってこんなにも素敵な才能があるのだから。

▼紹介文より▼

言葉によって紡がれるイメージが楽しい。彼女の文章は映画のようだ。それは短いセンテンスが並んでいるだけでも。もっと言うと、単語が並んでいるだけでもそれを感じることができる。

一枚の写真ごとに多くの情報量が詰まっている。それは「物語」とも言える。つまり、写真の中にストーリーを感じ、その前後で言葉が楽しく踊る。「抽象」を小瓶に詰めて、無邪気に遊ぶ。それは確かな技巧の上に成立している。

「ずっと読んでいたい」そう思うだけでなく、「もっと読みたい」と思わせてくれる稀有な書き手だ。彼女の文章を読んで嫉妬する書き手は多いのではないだろうか。何せ、kirakirapinkingさんは読み手に、いとも容易く、軽やかに文章を綴っている印象を与えるのだから。読後感には清々しさとミルキーさだけでなく、わずかばかりの緊張感が残る。


いい文章は時間を忘れさせてくれる。僕を遠い場所へと連れ出してくれる。その旅は楽しい。僕にとって生きる喜びでもある。また遠いところへ連れて行ってほしい。




◆千原徹也賞◆

▷消費者が文化をつくる
ヤギワタルさん


▼千原さんからのコメント▼

ずっと、デザインすることや映画監督をするということを考えていると、それぞれのものを見るときに、通常の消費者とは、違う思考になっていることに気づきません。
作るために見ているということで、純粋に楽しんでいません。作る側の人と映画の話していても、作る側の目線で、このシーンが良かったという話になります。そう、意外に作り手は、消費者の気持ちをわかっていないんだなと、思いました。その部分をガツンとやられた文章でした。良い消費者のための学校、必要ですねw
入りたいですw無敵な製作者になるかも。




◆ワタナベアニ賞◆

▷『姉ちゃんにありがとうをこめて』
ほっころーむカフェさん


▼アニさんからのコメント▼

自分はSNS、noteで何を読みたいのかがわかった。経済がどうとか、5Gが消費を変えるとか、そういうのはどうでもいい。誰とも違う、「ひとりの人の人生」が読みたい。誰もがひとりずつ、人生という80年くらいの映画の監督・主演をしている。僕らは隣の映画館で上映されている映画を最初から最後まで観ることはないけど、ときどきその断片が流れてくるのだ。このお姉さんのお話を読んでいて、涙が止まらなくなった。ただそれだけで価値がある。審査して講評するなんて教養は自分にはないと思っているけど、涙が流れるのは、たぶん立派な何かのサインだ。いいものを読ませてもらいました。ありがとうございます。



◆副賞◆

▷『【ドビュッシーの夢】 』
ちゃこさん

この作品大好きなんです。小説と随筆の間にある文章たち。揺れるように、お互いの領域を行ったり来たりします。本当は「小説」だとか「随筆」だとかの枠組みなんて要らないのかもしれません。物語の力で言葉たちにドライブがかかります。いくつもの感情が複合的に混じり合って、言葉にならない余韻が残ります。それは文学です。ちゃこさんは「言葉」を届けたいのではない。この「後味」を届けたいのです。それは簡単には言葉で現わせません。それもそのはず、もとより、読み手は言語化されていないものを受け取ったのですから。


▼紹介文より▼

ちゃこさんの言葉は、誰の心にも確かに存在して。静かに、激しく、揺さぶる。僕の文学の定義は「一つの形容詞では表現できい文章」と考えていて。つまり「うれしい、かなしい、腹立たしい、淋しい」などが複合的になって、まとまった文章でなければ表現できない感情を描いたもの。この作品は、まさしくそうで。希望として映るのだけど、どこか淋しくて、悲しくて、でも、前を向いていて。表情と言葉のアンバランスさが見事で、胸が苦しくなる。

行動と言葉の矛盾は、叩きつける雨の中に立ち尽くしたような感覚を突きつける。そして彼女は「淋しい」なんて絶対言わないんだ。ドビュッシーの『月の光』の余韻に乗せてきらきらした言葉を綴る。なんてしおらしいことか!大好きな作品です。

Twitterコメントの「太宰治の短い小説」というのは『黄金風景』のこと。あの作品の終わり方は忘れられない(読んでみて)。そういえば、ちゃこさんの文章には太宰と同じ匂いと余韻がするんだよな、と。「自意識、エモさ、切れ味」みたいに書くととても短絡的で大変申し訳ないのですが、何より人を惹きつける情感がある。読後感に軽い自己嫌悪の後味を残す(これは本当にすごいことなの!)。そして太宰もちゃこさんも、それをエンターテイメントに調理するのが本当に巧い。




◆副賞◆

▷『価値観の違い、で済ませるのは簡単だけれど 』
ふらにーさん

知性に惹かれました。一つひとつの選択や行動の中に密度の高い思考が見えます。関係を修復するためにふらにーさんは思考します。学びます。相手の気持ちを推し量ります。目の前にある「コミュニケーション」の枠の外で、新しい「何か」を育てていきます。それがなんと愛おしいことか。

価値観のずれは誰しもに起こり得ることです。それを「わからない」と放っておくのか、それとも最善を尽くすのかによって生き方は変わってきます。より良い関係性の構築のためのコミュニケーションは、その枠の外で培ったものの土台で成立すると僕は考えます。それこそ〝教養のエチュード〟なんですね。

「エチュード」というのは音楽でいえば「練習曲」、絵画でいえば「下絵」という意味。つまり〝教養のエチュード〟は、「豊かな教養」という意味ではなく、「人生や心を豊かにするための訓練」という意味。ふらにーさんの思考と行動は、まさしく〝教養のエチュード〟だと言えるでしょう。


▼紹介文より▼

文章に散らばる思考の断片に知性を感じる。ふとしたことで「彼」と言い争いになった。どちらも悪くない。悪かったのはタイミングだけのような気がする。

ふらにーさんは「もっと良い手段(表現)はなかったのか」と考えを巡らせる。「彼」のことをもっと知ろうとし、喧嘩のきっかけとなったことについてより深く学ぼうとする。それこそが愛であり、〝教養のエチュード〟なのではないかと感じた。

人間は一人では生きることができない。相手のことを尊重するためには、相手のことを知る必要がある。「好き」には「知りたい」が含まれている。敬意をもって接するということは、「相手を知ろう」という行為がなければ成立しない。そこで行われる学びは〝教養のエチュード〟だ。相手の考えに染まるだけではない。自分の考えも尊重し、接点を拾い、相手の想いも推し量りながらなめらかなコミュニケーションを構築する。とても素敵なお話。




◆プリマドンナ賞◆

▷『ストレイシープのつぶやき』
ヤマシタマサトシさん

僕はプロのインタビュアーとして、人と会い、話を聴いて、文章を書いています。プリマドンナ賞は「そんな僕が会いたい人に会いに行って、インタビューをする賞」です。そのインタビューは記事になります。

ヤマシタさんの文章を読んだ時、感動しました。内容は「美意識」について。プロのデザイナーとして10年以上キャリアのあるヤマシタさんですから、もちろん日常から高い関心を持っているテーマだと思います。ですが、僕にとってこの作品は特別でした。

noteで細々と投稿していた頃、ヤマシタさんは僕を見つけて背中を押してくれました。その時の記事がまさしく同じテーマを扱っていたのです。想像ですが、ヤマシタさんはきっと「僕に刺さる作品」を意図的に送ってくれたのだと思います。そして実際、それは深く刺さりました。あの時の出会いが今に繋がった。そんな妄想を抱きました。

そのポイントが一番の選考理由ですが、もとよりヤマシタさんの考え方やプロデュース能力には普段から敬意を抱いています。誰に対するアドバイスも、事細かに的を得ている。課題の大小関わらず、潜在的な力を見抜いて、引き出してあげる。「この人に会って話を聴きたい。その秘密を知りたい」そう思って選ばせていただきました。


▼紹介文より▼

「美意識」の言語化と分析。これは「前に進む全ての創作者」へのエールだ。同時に、「僕」個人へ宛てた手紙のようでもある。今まで僕が思考してきたもの、そして、言葉にしてきたものに対する一つの答えのようだ。

普遍的なテーマを背景としながらも、杭を打つような形でポイントごとに「僕へのメッセージ」が埋め込まれている。つまり、僕へ「より深く刺さるように」設計された作品だ。

「ああ、ヤマシタさんっていいな」と思った。書き手には大きくわけて二種類いる。「自分が書きたいものを書く人」と「相手に伝えたいことを書く人」。ヤマシタさんは後者。もちろん、ヤマシタさんの中にも興味のあるテーマはあるし、それを書く技術もある。だけど、僕たちが目にする時には必ず「相手に伝えたい形」、あるいは「相手に伝わる形」になっている。そこには常に心配りが行き届いている。

具体的な点を述べはじめると、それだけで一つの記事になってしまうので多くは書かない。とにもかくにも、読み応えのある作品だし、僕はうれしいのである。



***



さて、これで全ての発表を終えました。みなさん、どうもありがとうございました。選んだ作品はこの数点ですが、僕が作品一つひとつに添えたコメントに嘘はありません。愛おしい作品ばかりです。教養のエチュード賞は、僕の新しい「好き」を見つけるコンテストです。決して作品の優劣を競うものではありません。だからこそ声を大にして言いたい。「あなたの作品と出会えてよかった」。そして、ご多忙の中、作品を選考してくださった千原さん、アニさんには心より感謝申し上げます。

僕は千原さんのやわらかくてあたたかい言葉が好きで、アニさんの「正直さ」に誠実に向き合い続けた言葉が好きです。前者はひゅっと心に入り込みやさしく馴染む、後者はひりっとした痛みを伴いながら前向きになれる。そんな二人が参加してくれた教養のエチュード賞。手前味噌ですが、僕は最高のコンテストだと思っています。

今回の第二回教養のエチュード賞では、思いもよらないたくさんの出会いや感動がありました。何度も言いますが、本当に、本当にありがとうございます。この賞に参加してくださったみなさんのおかげです(作品を応募してくださった人、作品を読んでくれた人、拡散してくださった人、サポートしてくださった人)。反省を含め、そのことについては後日、noteで書きたいと思います(118作品と真剣に向き合うことで得たことについてもね)。

そして、終えたばかりではありますが、早くも第三回教養のエチュード賞の開催を予定しております。次回もまた、第一回、第二回とは違ったおもしろい仕掛けを用意します。春先あたりを目途に考えています。どうぞ奮ってご参加ください。

それではまた、お会い致しましょう!



最後に、この賞にサポートしてくださったみなさんの名前をご紹介させていただきます。心より感謝申し上げます。必ず、何かの形でお返しします。


教養のエチュード賞へ

ワタナベアニさんより10,000円
illy/入谷聡さんより3,000円
奥村まほさんより1,000円
ひらやま❘cotoreeさんより1,000円
滝口あゆさんより1,000円
大麦こむぎさんより1,000円
サトウ・レンよりから500円
あきらとさんより1000円
仲高宏さんより3000円
池松潤さんより1000円
さんより1000円
しりひとみさんより500円


千原徹也賞へ

ワタナベアニさんより10,000円


ワタナベアニ賞へ

千原徹也さんさんより10,000円


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ここからは告知です。


千原徹也さんはFPM⽥中知之さんと共に⾳楽ユニット『トーキョーベートーヴェン』を立ち上げレコードデビューされました。第⼀弾はももさん(チャラン・ポ・ランタン)とのコラボレーションです。

そんな千原さんは只今、「千原徹也専属進行アシスタント(アルバイト)」を募集されております。ご興味のある方はぜひチェックしてみてください。



ワタナベアニさんは1月31日に『ロバート・ツルッパゲとの対話』を刊行されました。ぜひ、お手に取ってご覧ください。




「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。