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【書籍から学ぶ】闇雲なマネジメントに数やリソースを割かない!スキルベースの人材育成・活用を考えよう

こんにちは。スキイキ広報担当です。

今回は「書籍から学ぶ人材活用」シリーズ、「スキルマネジメント」をテーマにお届けします。

様々な業界・会社で人手不足が顕著になり、伴って、人材育成や即戦力獲得のニーズが一層高まっています。特に経営者やマネジメント層の方にとっては喫緊の課題にもなっていることが多いと思います。
育成は腰を据えて行なっていかなければなりませんが、雇用流動性が高く、また育成・蓄積すべきスキルレベルの問題なども含め、一筋縄ではいきません。即戦力採用であればスピーディーなこともありますが、売り手市場の今、これまでの手法が通用しづらくなっていますし、かといって単なる外注では何も社内に定着しません。

そこで、本記事では従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメントを取り上げながら、「スキル」に重点を置き、組織開発・人材開発につながるマネジメントの考え方、またその実践にも関わる考えるべき観点・示唆についてまとめます。

💡『スキイキ』とは…
マイナビが運営する、フリーランス・副業人材と企業をつなぐマッチングプラットフォームです。
専門性の高いスキルや経験を持つプロフェッショナルと必要業務に絞り協働関係を築くことで、企業が抱える人材・ノウハウ不足の解決をサポート。
両者の出会いを通じ、個人には活躍とキャリア形成の機会を、企業には変化の激しい時代にあった柔軟なチーム作りのカギを提供します。

『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』の概要

まずは、この本の概要についてご紹介します。

本書の著者は、スキルティ株式会社を代表取締役として経営する中塚敏明氏。

氏は、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)にてネットワークインテグレーションを手がけた後、独立後にネットワークエンジニアの養成スクールを開校。若い世代のエンジニア育成として、成長環境と組織力の関係、従業員エンゲージメントの向上影響に着目し、能力開発のためのスキルマネジメントシステムを考案・普及されています。

本書では、「離職率の低下」「売上・利益の増加」「労働生産性の向上」「顧客満足度の上昇」などへ貢献し得る人材・組織開発の視点として、“従業員満足度” ではなく “従業員エンゲージメント” にフォーカスし、それを高めるための「スキルマネジメント」の考え方や実践メソッドについて解説しています。

また、それをマネジメント層(管理職)の負担ありきで実現させるのではなく、従業員個々が能動的に獲得スキルを管理しつつ、仕組みによってそのPDCAを推進するというスキームに基づき啓発されています。

人手不足による実行力(リソース)課題はもちろん、専門性や即戦力性(ノウハウ)の確保にも頭を悩ませる企業が多い現代において、単なる働きやすさだけではなく、スキルに焦点を当て人材・組織を進化させていくための考え方の参考になるかと思います。



従業員エンゲージメントとは?従業員満足度との違い

そもそも「従業員エンゲージメント」とは何を指すか。
似た言葉として「従業員満足度」というのもあり、どちらも従業員への意識調査で用いられる指標・概念という点では共通しています。

本書では、従業員エンゲージメントのことを「企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い」と提唱しています。また、「『会社が目指す方向性や姿を物差し』として、従業員がそれらについての自信の理解度、共感度、そして行動意欲を評価する」のが従業員エンゲージメント(調査)であるとも示されています。

他方、従業員満足度については、「福利厚生や、職場環境、仕事内容、働きがいなどに対する従業員の満足度」を指し、「『従業員が自身の物差し』として、所属する組織、職場の常行、上司、自身の仕事などについて評価する」ことが従業員満足度(調査)であるとのことです。

従業員エンゲージメントと従業員満足度の主な違い

重要なのは “物差し” 、つまりそれぞれの基準の違いにあり、従業員エンゲージメントの物差しは単一であるのに対し、従業員満足度の物差しは従業員の数だけ無数に存在すると述べられています。
組織の目指す方向性・姿にいかに相互理解・共鳴されているかは明確ですが、単純な従業員満足度では個々の仕事観や大事にしていることが主観によって様々反映されてしまうということです。

今では「心理的安全性」というキーワードが珍しくなくなり、従業員がいかに職場環境や待遇に不満を感じづらいかという視点も注目されやすく、パフォーマンスを発揮しやすくするための土台として重要なものです。
しかし、個々全員の価値観に合うよう組織を変え続けることへのリソースには限りが無く、捉え方を誤ると、結果的に組織全体が単に都合が良い “楽” に流れてしまうという懸念も考えられます。

あわせて「キャリア安全性」という観点も最近は掲げられますが、働きやすさと同時に、従業員がスキルアップ・キャリア形成を図れること、またそれが組織のありたき姿と合致するものであるかが、双方にとって一層欠かせなくなってくるでしょう。



スキルマネジメントとは?組織・能力開発の仕組みづくりの考え

本書では、こうした従業員エンゲージメントに関する前提を踏まえ、それを高める打ち手として「スキルマネジメント」というテーマを掘り下げられています。

スキルマネジメントとは、従業員の能力開発と会社の方向性をすり合わせ、個々が自律的にキャリアを形成する、従業員目線による新たなマネジメント手法です。従来のマネジメントとは異なり、従業員によるセルフマネジメント・セルフラーニングを仕組み化、システムで推進するところに大きな特徴があります。

『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』より

この手法の要点は、基準が「個々の満足感だけではなく組織の方向性との合致」にあること、また改善・評価要素が「単なる働きやすさではなくスキル・能力開発」にあることが、この短い概要引用からも見て取れると思います。


同時に、マネジメント側のリソースの観点も見逃せません。
組織に必要な能力開発を行うというだけであれば、これまでもOJTOn the Job Trainingをはじめとした他の手法が多く見られてきました。しかし、人手不足も顕著な今、マネジメント層自身が実務負担を含めあらゆる板挟みに陥っているという現状も調査データにあらわれています。

そのため、本書のスキルマネジメント手法では、「マネジメント側のリソースに依存せず、組織の求める、また従業員にとっても培う意義に納得できるスキルアップ・キャリア形成方法を仕組みとして整備する」という考えに基づいてるのも特徴だと思われます。

この手法は、以下のような4つの仕組みの総称として「スキルマネジメントシステム」と紹介されています。

スキルマネジメントシステムを構成する4つの仕組み

それぞれの具体的な方法論は実際に読んでみていただければと思いますが、これらを可視化し、それを基に従業員自身がPDCAを回せるようなフォーマットが有効なようです。
下記は、新入社員が「社会人基礎力」を高める場合のサイクルの例になります。

  1. スキルマップとキャリアマップを使いPlan(目標設定)を立て

  2. ①の目標をもとに、身につける能力(スキルボックス)を意識してDo(実行・促進)

  3. スキルボックスのチェックリストを組み込んだ週報で達成・未達成の確認と振り返りCheck(進捗管理)を行い

  4. スキルボックスと連動した週報でAction(行動修正)を図る

  5. ①〜④を繰り返す



スキル視点で組織を開発する考え方のカギは?

さて、本書で言及されているものも含みますが、このスキルベースの組織開発・マネジメントの考え方は、実際に真似して導入するか否かに関わらず、改めて考えるべき観点・示唆に富んだものだと感じます。


企業理念・MVVの重要性

MVVは、ミッションMissionビジョンVisionバリューValue の頭文字をとった用語で、マーケティングやブランディングの世界で掲げられることも多いですが、人材の育成や採用・活用など組織開発でも重要なファクターです。
似た言葉として「企業理念」とも言われますが、本書では下記のように整理されています。

ちなみに私は企業理念とは、組織が大切とする考えや価値観を表す最も抽象的で上位の概念であり、ミッション・ビジョン・バリューを一言で表すものと考えています。

『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』より
企業理念はMVVをまとめて表す最上位の概念

これらは組織内の共通言語のようなもので、帰属意識はもちろん、スキルアップ・キャリア形成の意義理解にもつながりますし、組織の課題解決や目標達成への意欲の向上にも寄与するでしょう。
社内に限らず、社外のステークホルダーとの協働関係や行動の規範としても機能するのではないでしょうか。

しかし、組織にとって重要な将来像・行動指針の可視化ですが、反面、抽象的なものでもあり、こうしたものほど曖昧なままだと個々の解釈や理解の差があらわにもなりやすいものです。
つまり、MVVの策定は「人材の成長や業務推進における ”道標” (本書で言えばスキルマネジメントシステムによって設定したこと)がいかに組織の考えとリンクしているか」ということを伝え支えるのに欠かせない土台だと言えます。これが不足すると、その “道標” は組織にとって成長や業務の成果とは結びつきづらくなりますし、結果的に人材も然るべき評価をしてもらえないという、両者にとって好ましくない状態になりかねません。

経営者やマネジメント層にとって、MVVはなんとなく重要とはよく言われる・聞く、くらいのイメージの方も少なくないかもしれませんが、今一度その重要性・影響を見直すのもよいかもしれません。


組織・人材が培うべきスキルの見定めと育成者

従業員エンゲージメント調査(エンゲージメント・サーベイ)で自社の現状を可視化したり、策定したMVVを単に社内に掲げても、結局は適切な施策に落とし込まなければ人も組織も変わらないとも筆者は述べています。

「とにかく何か手を打たなければ」と焦燥感にかられた勢いだけで、コンサルティングを依頼したり、外部講師を招いたりしても、組織が目指すゴールへはたどり着けません。利益の最大化を実現させるには、会社の現状を把握したうえで、自社に適した、なるべくシンプルな施策に取り組むのが最良の策となります。

この手ほどきとしてスキルマネジメントシステムを解説されている内容になりますが、先述の通り、スキル重視であるからこそ、この考え方を組織開発や人材育成・開発に活かすには、まず「必要なスキルを設定・リスト化する」というステップが求められます。
新入社員などを対象にまずは社会的な基礎能力を育成するような際にはあまり困らないかもしれませんが、より実践的な各部門現場においては、そもそもこの “棚卸し” が難しいというケースもあるでしょう。

通常であれば設定する立場である上司・マネジメント層のリソース問題はもちろん、変化の激しいビジネス環境において、今、そしてこれから何が必要なのかに沿った専門性の高い知見・経験をマネジメント層自身が有しているとは限りませんし、既存の知見・経験が課題解決の材料になるはずとも言い切れません

そのため、培うべきスキルが何かという見定めも兼ね、社内のみで完結させず “外部人材” との協働体制を視野に入れるというのも有効になり得ると考えられます。
このとき重要なのは、単に講師やコンサルティングの依頼で解決しようとするのではなく、実際に現場実務に入ってもらえるようなプロフェッショナルを業務委託で招くということです。既に専門業務は他社に外注しているというケースもあると思いますが、外注ではスキルやノウハウの組織・人材への蓄積にはつながりづらいため、そうした専門業務を外部人材にリプレイスし、現場メンバーとともに協働してもらうという方法で、間接的にスキル獲得の学びとして寄与することも少なくありません。


組織・事業の理想像や行動指針、課題に則し、スキル重視で培うべきものを見定め、スキル重視で人材を活用し、スキル重視の学びの体制や仕組みを作る。
そうした考え方が今後の組織開発や人材開発のカギになり、またそのための施策の工夫について考えていくヒントになるのではないでしょうか。


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いかがでしたか。
人手不足が一層叫ばれ、従業員育成や即戦力確保が喫緊の課題になっている業界や会社も多いと思います。それと同時に、既存の手法にとらわれず、仕組みづくりや人材活用の工夫を行われているケースも増えています。

リソースを割くことで解決を図るのではなく、自社に必要なスキルは何か、どうしたらそれを社内に蓄積・定着できるか、単なる働きやすさだけではない要素に着目していくための参考にしてみてくださいね。

※参考書籍