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鳥居みゆき『夜にはずっと深い夜を』彼女に触発されて浮かんだ詩たち

概要

「きたないものがきらいなおかあさん」「真夜中のひとりごとが止まらないシズカ」「花言葉で未来を占う華子」「自分の名前が大嫌いな幸子」「同窓会で自分のあだ名を思い出せない佐々木さん」……。
壊れてゆく日常のすきまから世界はねじれ始める―。
過剰な愛と死への欲望に取り付かれた女たちが紡ぐ、狂おしいまでに悲しい孤独の物語。

著者:鳥居みゆき



【夜の口笛】


夜に口笛を吹くとお母さんが死ぬ。

そんな迷信を毒親持ちの友人に教えてあげたら、彼は毎晩口笛を吹くようになった。

ある日テレビを見ていたら、毒親持ちの友人が母親に包丁で刺されたニュースが流れた。

「口笛がうるさかったから」

友人の母親はそんな犯行動機を供述していて、迷信を信じていた僕は申し訳ない気持ちになった。


【ツインレイちゃん】


アタシには大好きなカレシがいる。

だけど愛想つかされて半年前に別れちゃった。

アタシは別れたくなかったから未練タラタラでそのカレシとの復縁を望んでる。

でもカレシには新しいカノジョが出来たらしくて、会う事も連絡も取れない状態。

無理やり会ったり連絡取ったりしたら重いよね?

ストーカーだって思うよね?

毎日会えない寂しさと新しいカノジョに対する嫉妬でいっぱい。

だからSNSで見つけた復縁をサポートしてくれる占い師さんにカレシとの復縁をお願いしてみたの。

「ツインレイって聞いた事ある?」

「元々一つの魂だった運命のカップルみたいな感じなんだけど」

占い師さんが言うには、アタシと元カレはツインレイだから何があっても結局は結ばれるらしい。

今別れて離れているのは2人の絆をより深めるためのお試し期間みたいなものなんだって。

元々アタシたちは一つなんだから、何も心配いらない。

占い師さんにそう言ってもらえてアタシはすごく嬉しくなった。

一回の占い鑑定料は30000円だった。

ちょっと高いと思ったけど、高い分本物だと思うの。

早く復縁出来るオマジナイもしてもらった。

どうせうまくいく。

ちょっと図々しいとは思ったけど、早くカレと復縁したかったから、アタシはまたカレシに連絡を取った。

「アタシとアナタはツインレイだから」って毎日メールを送り、返事を待ってる。

そしたらある日返事が来て、メールにはこう書いてあった。

「新しいカノジョとうまく行ってるから、もう一方的にメールとか送ってくんのやめてくれない?正直迷惑なんだよね」

アタシはそれを見てショックを受けたけど、これもアタシたちツインレイが絆を深めるための試練なんだと思い直して、今日もメールを送ったの。

そしたらまた返事が来た。

「元カノが出しゃばってアタシのカレシに手を出すな!カレはアタシのツインレイなんだからww」

たぶん新しいカノジョが書いたものだと思う。

ツインレイは2人で1つ。

この愛のない世界で真実の愛に目覚めるためにアタシたちは一度バラバラになり、再び結ばれる運命。

元カレはその真実の愛を邪魔する悪い女に騙されているんだと思うの。

目覚めさせてあげないと……

アタシは意を決して元カレの家に行った。

ベッドの上に裸になっている淫らなカレシと知らない女がいた。

「アタシとアナタはツインレイ。その女はアナタを騙そうとしているのよ!今すぐ別れて!」

「何しに来たんだよ!」

アタシたちツインレイの最大の試練かもしれない。

でもどうせうまくいく。

アタシはカレシの腕を取って知らない女から引き剥がそうとした。

「何してんだよ!アンタはもう終わった女なんだよ!離せよ!」

知らない女もカレシの腕を引っ張った。

どうせうまくいく。

アタシとカレシがツインレイなのは間違いないの。

ツインレイじゃないといけないの!

アタシが必ずカレを真実の愛に目覚めさせる!

そう思ったら力が漲って来た。

「痛い!よせ、やめろ!やめてくれ!」

アタシと知らない女が両側から強い力でカレシを引っ張り続ける。

苦しそうなカレシの顔。

すぐに解放してあげるからもう少しの辛抱よ。

アタシの爪がカレシの腕にしっかり食い込んでいた。

カレシの腕から流れ落ちる血が運命の赤い糸に見えた。

「ギャアアア~~!!」

ツインレイは必ず1つになる。

だからカレシの体は2つに裂けてアタシのところに戻って来た……


【赫~あか~】


白い雪原の平野の中に赫

赤ではなく赫

滲む想いのような色

泣き濡れた襦袢の色

ぬかるむ雪を踏みしめる時には血の想いをする

戒めを破ってまぐわう時の嗚咽は赫

瞽女たちが見る夕陽の色は赫だ


【指切りげんまん】


廓から眺める外の景色があまりに遠くて

女は狂おしいほどの情念を燃やす

一生を誓い合う男との

身も凍るような指切りげんまん

桐の小箱に小指を詰めて

どうか私を自由にしてください

嘘をついたら拳骨で一万回殴った後に針を千本飲ますことを承知してください

死んだらごめんなさい

誓約書の有効期限は貴方が死ぬまでですから

恋しくて恋しくて

指切りげんまん

愛する男の背中に深く深く爪を立てて


【赤線】

こっからこっちは往生やぞ

孫を売ったら次は子や

発情した野良猫は

赤線踏んだらタダでは帰れん

ドドメ色した襦袢の春猫

肉の褥でごゆるりなされ

青線下って鳩の街

ドンドンパンパンドンパンパン

ドンドンパンパンドンパンパン

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