映画『シン・仮面ライダー』ハビダット世界は愛着障害の世界観そのもの
あらすじ
“人類を幸福に導く”と謳う組織〈SHOCKER〉によってバッタオーグに改造された本郷猛は、緑川弘博士とその娘、緑川ルリ子とともに組織を裏切り、逃亡する。追ってくる敵を“プラーナ”によって得た力で殺してしまったことに苦悩する本郷。しかし、緑川弘が殺され、死に際にルリ子を託されたことで、『仮面ライダー』を名乗りルリ子と共に〈SHOCKER〉と戦うことを決意する。
監督:庵野秀明
キャスト:池松壮亮、浜辺美波、柄本佑
『シン・ウルトラマン』の感想記事でも書いたが、僕と庵野さんは「恐れ回避型」という愛着障害を持った同類だ。
僕が庵野さんの作品を観賞するポイントは一貫して「僕たち愛着障害者の問題をどう描いてくれるか?」であり、僕自身がこのnoteに一番記したいテーマも愛着の問題に関するものだ。
ゴジラ、ウルトラマン、仮面ライダーはオタク第一世代である庵野さんの自閉症的な世界と人生を支えて来たすごく重要なコンテンツだと思う。
それは日々この世の中で起こる事件や事故、自分の人生に携わる家族や友達よりも重要で、僕にもそういうコンテンツがいくつかある。
僕たちはそのコンテンツから得た情報やイメージを組み合わせて自分の世界観や思想を表現するのが好きだし、それを生きる喜びにしている。
今回のシン・仮面ライダーで気になったのは『ハビダット世界』という概念。
『ハビダット世界』は蝶オーグが理想とする嘘偽りのない本音だけの世界で、僕たち愛着障害者の世界観そのものだ。
僕たちが知覚して認識している世界は嘘と偽りだらけで構成されたとても息苦しい世界で、物事の本質や人間の本音にしか興味がない僕たちには生きづらい。
本心や本音は容易に人を傷つける。
だから定型発達の健常者たちが繰り広げる他者に対する気遣いや思い遣りは本心や本音ではなく、相手を傷つけない嘘と偽りで構成される。
僕たち愛着障害者は本心や本音にコミットして他者と関わろうとするから常に傷つき、常に相手を傷つける。
僕たち以外は、人を傷つけないための嘘と偽りを相手が真に受けるように日々研鑽し、本心や本音をひた隠しにして他者との間に信頼関係を築いていく。
彼らにとって本心や本音を言わない事は優しさであり、愛のある行動なのだろう。
本心や本音を言ってしまえば人の信頼関係はいとも簡単に壊れるし、これまで与え合った優しさや思い遣り、愛はすべて幻想だったと絶望し、ほとんどが裏切り行為や憎悪に転じる。
僕たち愛着障害者はたとえ地獄でも初めから本心や本音ばかりの世界を生きているから、健常者たちよりも人に裏切られる絶望や孤独に対して耐性があると思う。
無差別殺人によって母親を失った蝶オーグもおそらくそんな世界を生きて来たから、人類救済の方法として『ハビダット世界』という概念を想像するに至ったのだろう。
愛着障害は親に無条件の愛を与えられなかった者がなる病だ。
いくら親子と言えども、人間の利己的な遺伝子を考えたら人が人を無条件に愛する事はないと僕は思う。
所詮条件付きでしか人は人を愛せない。
人間は利己的な存在だからこそ他人には無条件の愛を求めるのだ。
特に子は親に無条件の愛を要求する。
親はその要求に対してなんとか無条件の愛を与えようと努力はするが、その努力は本心や本音をひた隠しにした嘘と偽りによってなされている。
嘘と偽りで無条件に愛している事、愛されている事を実感し合って、良好な親子関係、そしてそこから派生した他者との友愛や地域共同体の関係が成立する。
僕たち愛着障害者は無条件の愛を実感する事が出来なかったから、条件付きで他者に愛を求め、自らも条件付きでしか他者に愛を与えない。
他人から与えられる好意や賞賛は条件付きだから、僕たちはそれが優しさや思い遣りから来る行為でもそこに本当の愛を感じる事ができない。
それは愛ではなく嘘偽りで構成された虚しいものである事を僕たちは知っている。
そして叶わない事を承知しつつ、それでも無条件の愛を欲している。
庵野さんは仮面ライダーである本郷武や緑川ルリ子に自分の願望を託し、自分の本心や本音を蝶オーグに語らせた。
仮面ライダーは同類であるショッカー軍団(愛着障害者)を拒みつつ、人間社会(健常者)にも馴染まない特異な存在だ。
僕たち愛着障害者も常に孤独な状態で他者とこの世界に対峙し、愛を放棄して愛を希求する矛盾した状態で、自己統一を図ろうと葛藤している。
2号ライダーの一文字隼人は、その矛盾する自己である本郷武の願望と蝶オーグの本音を統一するバランサーとして存在し、映画のラストで相容れない2人の想いを引き受けたように見えた。
本郷武や蝶オーグと同じ孤独感を纏いつつ、どこか飄々と世渡りしている一文字隼人みたいな人物像が、愛着障害者として生きて来たの僕の理想像でもある。
一文字隼人がその後どう生きて行くのか?
そんな物語も観てみたいから続編を期待する。