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映画『ファンシィダンス』お山で悟った事

あらすじ

東京の大学に通う塩野陽平。ロックバンドを組み、ボーカルとして活躍していた彼だったが、実家の寺を継ぐために、弟と田舎の禅寺・明軽寺に入ることになる。しかし、そんな彼を待ち構えていたのは厳しい修行の日々だった。個性あふれる先輩たちに囲まれながら毎日を送る陽平のもとに、かつてのバンド仲間・アツシがやってくる。

監督:周防正行
キャスト:本木雅弘、鈴木保奈美


2014年に四国八十八ヶ所を巡り、無事に高野山で最後の御朱印を頂戴して結願した僕は、その貴重な体験を経た感慨に酔いまくり、ずいぶん悟ったような気になって「このまま仏門に入ろうか」などと軽はずみな考えを抱いていた。

精進料理と勤行付きの宿坊にお邪魔して、静謐さが保たれた質素な和室に案内されると、気分がさらに高揚して来てすっかりその気になり、道中で幾度も唱えて丸暗記した真言を本職のお坊さんの前で得意気に諳じてみたりしては、露骨に発心アピールをしていた。

旅の間はお大師様と同行二人のような感覚が本当にあったから煩悩を抑制する事が出来たけど、過酷なお遍路さんからの解放感で羽目をはずしたい気分にもなっている。

「ああ、ビール飲みてぇな!」

畳とお香の匂いが漂うだけの、テレビもねぇラジオもねぇ宿坊で退屈を持てあまし、もう発心を忘れている。

修行も兼ねた宿泊施設である宿坊にもお酒を提供するサービスあるが、所持金の乏しさで一番グレードが低い宿泊プランを選んでいたため、この欲望はなんとか抑える事が出来た。

そして次に湧いてきたのは「可愛い女の子とエッチしたいな♥️」という欲望だ。

かつて女人禁制だった高野山も今は世界遺産に認定されて老若男女誰でも足を踏み入れる事が出来る観光地になった。

それは大いに結構な事だが、この静謐が保たれた宿坊にも若い女人が何人か泊まり込んでいて、檜の浴場へ向かう彼女たちの浴衣姿と廊下ですれ違った時、僕が一番恐れていた煩悩がムラムラと湧いてきて、慌てて自室に戻ったのだが、ほぼ条件反射でスマホに保存していた横山美雪のエロ動画を観始めてしまい、写生する前に射精してしまったのだ。

高野山のような聖地で俗世間の欲望にあっさり負けてしまった僕は、盗んだ菓子折りをトイレで食べながら虚しい気持ちになる英峻に同化して、自分には仏の道もお山での生活も到底無理だ、と悟り、早々と高野山を降りた。

嗚呼、無情。

まぁでも、遥か遠い未来で全ての衆生を弥勒菩薩が救うのであれば、僕もお寿司を食べたりケンタッキーを食べたりしながら、それを気長に待っていればいいんじゃないか?

自惚れずに、自分がどうしようもない凡夫である事をきちんと自覚する。

そのために僕はこの映画のようなノリでお遍路さんと高野山に出かけたんだと思う。

ラストの陽平和尚よろしく、僕も今生はただ只管に煩悩の大海を泳ぎ続けるのだ。


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