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第17作「男はつらいよ寅次郎夕焼け小焼け」1976年松竹


第17作目にまいりましょう。

今回のマドンナは、太地喜和子。
1943年生まれの彼女は、本作撮影時33歳。
ちょうど女優として、脂の乗り切った頃ですね。
映画やテレビドラマにも多く出演している人ですが、個人的には舞台女優という印象が強い方。
文学座では、杉村春子の後継者として期待されていた実力派女優ですが、自動車事故で1993年に亡くなっています。
残念ながら、彼女の作品はあまり見ていないのですが、気っ風がよく、酒が強く、小股の切れ上がったいい女。
そんな彼女のイメージは、考えてみれば、そのまんま本作で演じた芸者ぼたんのキャラですね。
もちろん、このマドンナ役は、彼女にとってもおおいに当たり役となり、この役で彼女はキネマ旬報賞、報知映画賞を受賞しています。
ちなみに、播州龍野の芸者は、なかなか古い文化を持っているようで、美しい歌や踊りを披露することで知られており、この伝統を守る「ふるさと」プロジェクトもあるそうで、その文化は今でも受け継がれているとのこと。(from ChatGPT)
本作で、日本画壇の重鎮池ノ内青観画伯を演じたのが宇野重吉です。
劇団民藝を終生牽引しつつづけた演劇界の重鎮で、まさにこの役にはドンピシャリ。
ちなみに、劇団民藝は、1971年に分裂騒動を起こしていて、その際の当事者俳優が、この映画にはズラリ。
大滝秀治、佐野浅夫、宇野重吉、そして、おいちゃん役の下條正巳も劇団メンバーでした。
「男はつらいよ」シリーズには、劇団民藝出身の俳優が多く起用されていることは事実です。
米倉斉加年、樫山文枝、高田敏江などは劇団所属の俳優でしたし、騒動の前に退団はしていますが、おばちゃん役の三崎千恵子も、元劇団員でした。
実は宇野重吉とおいちゃん役の下條正巳は、この騒動では袂を分かち合った関係でした。
映画撮影時に、当時のしこりが二人に残っていたかどうかは想像するしかありませんが、共演シーンでは、おいちゃんが汚いナリの青観(宇野重吉)に、顔を顰めるというシーンがあって、この経緯がわかっていると、なかなか楽しめるシーンではありました。
サプライズ・キャスティングとしては、青観の若き日のマドンナとして登場するのが岡田嘉子。
この人は、戦前の銀幕の大スターで、かなり波乱の人生を送った人です。
トップスターであったにも関わらず、プロレタリア演劇家の杉本良吉と、樺太から国境線を越えてロシアに亡命。杉本は後に、スパイ容疑で逮捕されて銃殺刑。
自身も拷問を受けますが、のちに釈放され、その後はロシアで暮らしています。
1972年に、杉本の遺骨を抱いて日本に帰国。本作で実に35年ぶりとなる日本映画復帰を果たしました。
このドラマチックな半生があればこそ、映画内での彼女のセリフには、ズシリと重みがあります。

では、オープニングの夢のシーンです。


「男はつらいよ」シリーズの盆暮れ興行が、山田監督に課せられたルーティンワークとして定着してしまうと、寅さん映画以外は撮れないというストレスは相当あったかもしれません。
そのあたりのモヤモヤは、もっぱらこの夢のシーンで発散していたような気がしますね。
このシーンだけは、寅さん映画からは離れて、スタッフと一緒になって、楽しみながら作っている空気が伝わってきます。
今回の夢の舞台として取り上げられたのは、この前年に公開されて、世界中で大ヒットした「ジョーズ」。
巷の話題にも敏感なあたりは、寅さんシリーズの面目躍如です。
源公も、さくらも、見るも無残にジョーズにパクリと食われてしまうという、松竹山田版スプラッター・ホラーです。
寅さんシリーズで、真っ赤な血糊が登場するシーンは、ここまでシリーズを確認してきた限りはこのシーンのみ。
この後でも、おそらく見られないかもしれません。(夢のシーンだと、あるかもしれませんが)

ちなみに、タイトルバックで、いつも渥美清が歌う、おなじみのテーマソングですが、本作では、いままで聞いたことのない歌詞で歌われていました。

さて、冒頭恒例の寅さん里帰り騒動です。
シリーズ第1作目で生まれた満男も、いよいよ小学校に入学。
演じる中村はやと君も、6歳ともなれば、きちんとセリフをしゃべれるようになってきましたね。
とらやの座敷卓の上にも、鯛の尾頭付きと赤飯が並んでいます。
ちょうどそんなところへ帰ってきたのが寅次郎。
たまには叔父さんらしいところも見せようと、おいちゃんから祝儀袋をもらって祝い金を包もうとします。
入学式を終えて、満男と一緒にさくらが帰ってくると、突然涙ぐむさくら。


聞けば、担任の先生が、諏訪満男の叔父である寅さんのことを知っていて、満男の名前を読み上げた時それを言うと、父兄や生徒が笑ったというんですね。
悔しがるさくらに、寅の瞬間湯沸かし器が沸騰。
学校に直談判にでもいこうかいという勢いの寅を、引き止めるとらやの面々。
「笑われるお前にも問題がある」というおいちゃんの「あたりまえ」の一言に、寅は完全にブチ切れてしまいます。
いつも通りのドタバタ騒動が始まり、振り上げた拳の下ろし場所を失い、そのままプイととらやを出て行ってしまう寅。

しかし、こういう騒動の後では、必ず素直に反省するのがとらやの面々。
喧嘩をしても、必ずしっぱなしにはしないというのが山田演出の細かいところです。
もちろん、それは寅も同じ。
心に思うことは思い切り吐き出してしまう代わりに、それが度を越せば、その後は素直に反省するというバランス感覚こそ、山田監督の人情喜劇の肝です。
「帰ってきてね」という電話口のさくらに、寅もそのまま旅に出ようとしていた気持ちを納めて、上野の居酒屋で飲み直し。
すると、カウンターで飲んでいた一人の老人(宇野重吉)が、金を払わずに店を出て行こうとします。
店の女将がそれを引き止めて詰め寄りますが、それを見ていた寅が老人に救いの手。
財布にお金が入っていれば、気前はいいのが寅。
老人の分の勘定も払い、夜の街へと消えていきます。
夜も更けて、寅は老人を背負ってとらやに帰還。
老人も酩酊状態で、自分がどこに連れてこられたのかもわかっていません。
おいちゃんもおばちゃんも、苦虫を潰したような顔ですが、追い出すわけにもいかず、老人を仕方なく二階の寅の部屋に寝かせます。

翌朝のとらや。
寅は、朝一で商売に出かけてしまいましたが、老人は昼近くまで泥酔。
そして、目を覚ませば、お茶だ、風呂だの傍若無人ぶりです。
意見を言いに二階に上がったタコ社長も、おなら一発で撃退される始末。
寅が連れてきたこの得体の知れない老人を、とらやの面々は完全に持て余してしまいます。
商売から戻ってきた寅は、その顛末を聞かされますが、みんなの苦労も知らず面白がる始末。
しかし、家に帰ったと思っていた老人が、またフラリととらやに戻ってきます。
しかも、その後ろには、老人が食べたうなぎの領収書を持った店員が。
さすがにその場は、寅がその代金を払って納めますが、老人は、ここが気にいったとばかりにまた二階へ上がって行ってしまいます。
家庭に不幸を抱えた老人だと思い、それなりの理解を示していた寅も、たまらずここで老人にお説教。


神妙に聞いていた老人ですが、寅から「ここが宿屋ではない」と聞かされて、自分が誤解していたことに気がつきます。
そこでやっと自分の不遜な態度を大きく反省した老人は、頭をかきむしりながら、寅に奇妙な御願いをします。
老人が寅に依頼したものは、紙と硯と筆。
いぶかしがる寅を前にして、その紙に筆で、老人が描いたものは得体の知れない図案。
老人はそれを「宝珠という縁起物」と説明します。
どうやら、この老人に、只者ではない雰囲気が漂い始めます。
これを神保町の大雅堂という古本屋に持っていってくれれば、いくらかにはなる。
それが非礼のお詫びの印だという老人の謝罪の気持ちを引き受けた寅は、翌日半信半疑で大雅堂に向かいます。


出てきた古本屋の主人を演じるのは、大滝秀治。
「葛飾立志編」では、寅の旅先のお寺の住職を演じて、作品のテーマになる含蓄のある言葉を伝えていましたが、今回はガラリと変わってコメディ・リリーフ。
見るからに怪しい風体の寅が持ち込んだ一枚の絵を、最初は笑い飛ばす店主。
しかし、それが日本画壇の最高峰・池ノ内青観の「ホンモノ」だとわかってくると、次第に目の色が変わってきます。
結局、その絵に付いた値が七万円。それを聞いた寅は小さな眼をパチクリ。
やはり、この老人は只者ではなかったのです。
寅は、七万円を腹巻きに抱えて、眼をシロクロさせて帰ってきますが、老人(つまり池ノ内青観)は、すでに家に帰った後。
この画伯は、さくらも、その名を聞いたことのあるほどの著名な人物でした。
その画伯が、満男の子守をしながら描いた絵を、寅とタコ社長が取り合って破れてしまったからさあ大変。
一度火がつくと、もう止まりません。とらやはたちまち大騒動です。
そして、啖呵を残して寅が出ていくというのが、このシリーズ永遠の不文律。

寅が持ち帰った七万円は、さくらが池ノ内邸に返却することになります。
しかし、青観は不在。
ちなみに、青観夫人役は、東郷晴子でしたが、それよりもお手伝い役の岡本茉莉の顔の方を覚えていました。
「寅次郎恋歌」の旅一座の娘役、「葛飾立志編」の、観光船のガイド役に続きシリーズ3度目の出演。
シリーズも作品数を重ねてくると、山田監督のキャスティング・ワークも楽しみになってきます。
さて、青観の向かった先は、播州龍野市。彼の生まれ故郷でした。

一方、寅が向かった先も、これまた播州。
このあたり、「そんな偶然ありますか」と突っ込みたくなるところではあります。
しかし、VIP青観を案内する龍野市観光課長(桜井センリ)の助手に、寺尾聰をキャスティングするあたりの心憎さに免じて目をつぶりましょう。
ここでさりげなく親子共演ですね。
市の公用車で、市役所に向かう途中で、寅次郎に遭遇する一行。
寅が青観の知り合いと知れば、非礼な態度を取るわけにもいかず、寅は青観と一緒に、市役所に案内されてしまいます。
青観は、龍野市から、市役所に飾る絵を描いて欲しいという依頼を受けていたのです。
市長室に飾られた「赤とんぼ」の歌詞を、青観が眺めるシーンがありますが、「最近親しくなった」AIに聞いてみたら童謡「赤とんぼ」は、播州出身の三木露風の作品と判明。
本作タイトルの「夕焼け小焼け」は、ここからとられていますね。

青観の接待のため、市で用意した宴会にまでついて行ってしまう寅。
この宴会で、寅は芸者のぼたんと出会うことになります。
いよいよ、今回のマドンナの登場です。
宴会は、市長(久米明)の固い挨拶で始まりますが、こういうシーンでじっとしていられないのが寅。
いつものように「いたずら」が始まると、必死に笑いをこらえているのが芸者のぼたん。
宴会が始まると、その場を寅に任せて、青観は、サッサと自室に退散してしまいます。
人がどんどん引けていく中、最後まで盛り上がっていたのが、意気投合した寅とぼたんでした。


翌朝、二日酔いの寅は、具合が悪いという青観に代わって、市内観光に連れ出されてしまいます。
昼食で立ち寄った蕎麦屋で、寅はぼたんと再会。
とにかく、大口を開けて嬉しさを爆発させるぼたんの表情が印象的です。

一方、青観の方は、接待の手を逃れて、かつて自分の過ごした龍野の町を一人で散策。
向かった先は、「華道教室」の看板を下げた家で、そこには志乃(岡田嘉子)という老婦人が住んでいました。
ちなみに、志乃の家のお手伝いを演じていたのが「さりげなく」榊原ルミでした。
そう、「奮闘編」で、寅のマドンナを演じた彼女です。
タイトル・クレジットに、その名前は出てこなかったのでここは「さりげなく」ビックリ。
これがあるから、このシリーズは目が離せません。
さて、茶室で語り合う二人。
青観は、志乃にこう言います。

「僕は、あなたの人生に責任がある。僕は後悔している。」

さて、二人の間にどういう過去があったのか。
それは、志乃の以下のセリフから想像するしかありません。
なかなか、いいセリフなので紹介しておきます。

「じゃあ、仮にですよ。あなたがもう一つの人生を生きていたとしたら、絶対に後悔しなかったと言い切れますか?
 私この頃よく思うの。人生には後悔がつきものなんじゃないかしらって。
 ああすりゃよかったなあっていう後悔と、もう一つは、なんであんなことしたんだろうという後悔・・」


一方、「後悔すべき人生」をひたすら歩む寅は、主役不在のままの連日の宴会で、大盛り上がり。
もちろんそこには、寅と波長合いまくりの芸者ぼたんの姿もあります。

いよいよ、青観が帰郷する日、もちろんそこには寅の姿もあります。
市の公用車に乗り込む寅に、お土産を持って走ってくるぼたん。
ぼたんの「気持ち」をしっかり受け取ると、寅は彼女にこういいます。

「おい、ぼたん。いずれそのうち所帯持とうな。」

おっ、こうもさりげなく、寅がマドンナに、プロポーズの言葉を言ってのけたことはなかったぞ。(リリーにも言ってたかな)
もちろん、吹き出すしかないぼたんですが、彼女は顔中を笑顔にしてうれしさを伝えます。
すると、駅に向かう公用車に、武家屋敷の影から、花束を持ってそっと手を振る女性の姿。
これに気がついたのは青観だけでした。
もちろんその女性は志乃です。

さて、柴又に戻った寅は、龍野での豪遊の後遺症で、ほとんどぬけがら状態です。
さくらも、御前様にグチをこぼしてしまいます。
とらやの面々も、寅からさんざん龍野の話を聞かされていい加減うんざり。
当然、気っ風のいい龍野芸者ぼたんの話も、耳にタコの状態です。
そう思っているうちに、「寅さーん!」と、あのぼたんの声。
とらやの入口には、和服に身を包んだぼたんが、お土産を抱えて手を振っています。
このお約束は、すんなり受け入れられなければこのシリーズは楽しめません。
寅のプロポーズは、結局シャレにされてしまうのですが、このあたりを「本気」と「洒落」の間の微妙なバランスで転がすのが本作のマドンナ。
今までにはいなかったタイプのマドンナです。
今回の太地喜和子は、その辺りが絶妙でした。


寅さんとの相性の良さも、どこか松岡リリーに匹敵するものがあります。
しかし、「遊び」には素人同様のとらやの面々は、二人のノリに、ただただ面食らうばかり。
このあたりは、遊び人寅の面目躍如です。
「本物」の芸者ぼたんは、朝日印刷の宴会にも引っ張り出されて、柴又の夜は賑やかに更けていきます。

さて、ぼたんが東京にやって来たのには訳がありました。
虎の子の貯金200万円を騙し取られていた鬼頭(佐野浅夫)から、その金を取り返そうとしに来ていたのです。
彼女は、足を棒にして都内を探し回りますが、なかなかその居所をつかめません。
疲れ切った様子で、とらやに戻ってきたぼたん。
彼女は、そのことをポロリと、とらやの面々にこぼしてしまいます。
たちまち、寅の瞬間湯沸かし器に火がついてしまいます。
自分がいって話をつけてくるといきり立つ寅ですが、お金のことなら、日頃さんざん苦労しているタコ社長に一日の長があると白羽の矢が立ちます。
翌日、ぼたんとタコ社長は、都内を歩き回り、やっとのことで鬼頭の居場所を突き止めます。
ぼたんの200万円を踏み倒して、のうのうとゴルフ三昧の日々を送っている鬼頭に詰め寄る二人。
しかし、ぼたんがお金を預けた会社はすでに倒産し、自分は一文無しだから返却はできないというのが鬼頭の言い分。
経営しているレストランも、名義は妻のもので、自分のものではない。
自分も被害者だと、たばこを燻らせながらうそぶく鬼頭。
出るところに出ても、自分には返却義務は発生しないことは承知の上の計画的詐欺でした。
ちなみに、ChatGPTにこのケースを確認してみたら、投資した会社の倒産が計画的だと立証されれば、相手は刑事告訴されて、処罰はされるとのこと。でも返金は・・
あるいは、預けたお金が、実際に投資に使われていなかったとしたら信託報酬金返金請求が出来るそうです。
しかし、これを計画的にやるような男ですから、そのあたりはぬかりなく細工しているのでしょう。
ぼたんとタコ社長は、老獪な鬼頭になすすべなく、とらやに帰ってきます。
ひたすら平身低頭のタコ社長。
じっと聞いていた寅は、事ここに至れば、もう自分が行くしかないと腹を括ります
その啖呵がなかなか泣かせます。

「さくら、明日ここに刑事が来るかもしれねえ。そしたら、兄とはきっぱり縁を切ったというんだぞ。でねえと、満男が犯罪人の身内ってことになるからな。」

渡世人車寅次郎には、完全に唐獅子牡丹を背負った高倉健が憑依しています。
しかし、行き先も聞かずに勢いよく飛び出していった寅に一同はあきれ顏。
ところが、その啖呵は、ぼたんの胸にはしっかりと響いていました。
笑うぼたんも豪快なら、泣きじゃくるぼたんもまた豪快。

「さくらさん、あたしとっても幸せ。もう200万円なんていらん。あたし、生まれて初めてや。男の人のあんな気持ち聞いたの。」

ぼたんの、その涙はうれし涙でした。


しかし、戻るに戻れない寅は、名案を思いつきます。
そして、バスに乗って寅が向かった先は、池ノ内青観邸です。
寅は青観に、ぼたんのために絵を描いてくれと頼み込みます。
それをぼたんに持たせてやれば、騙し取られた200万円のいくらかの足しにできるという訳です。
しかし、自分は金のために絵は描いていないと固辞する青観。
その代わり、金ならいくらかは用意出来るという申し出には、「俺はゆすりたかりじゃない」と、寅が固辞してしまいます。
結局、芸術家の信念を寅は理解できずに、交渉は決裂。
寅は、池ノ内邸を後にします。

結局、ぼたんに何もしてやれない寅は、とらやに戻れません。
ぼたんは、翌日に仕事があるからと、とらやの面々に見送られながら柴又を後にします。
寅に会えずに帰るぼたんは、さくらにこういいます。

「寅さん、好きな人おるん? おるんやろ。その人に私からよろしゅう言うといて。」

これは、プロの芸者ぼたん精一杯の、寅への愛の告白です。
しかし、家に戻れない寅も、そのまま旅に出る事を決めます。
寅のかばんを上野駅の地下食堂まで届けるさくらと源公。
列車に向かおうとする寅に、さくらがおもわず声をかけます。

「ぼたんさんね。好きなんじゃないかしら。お兄ちゃんのこと。」
「おまえね。そんな顔して、冗談いうもんじゃないぞ。」


とにかく、引き際と、諦めっぷりだけはいつもいつも見事なのが寅です。
最後のところで、ジタバタしないことが、寅次郎ギリギリの男の見せ所。
去りゆくその背中には、哀愁すら漂います。

おばちゃんが忙しくかき氷を作る夏のとらや。
気がつくと、とらやの店先に、着流し姿の青観が立っています。
あわてるとらやの面々ですが、寅次郎は旅に出ていて不在。
帰ろうとする青観を、あわてて追いかけるさくら。
さくらが、わざわざ訪ねて来た理由を尋ねると・・・

一方、寅は播州龍野にいます。
夏には、北を旅するはずの寅が、播州にいる理由は一つ。
もちろん、柴又では会わずに別れてしまったぼたんに会うためです。
しかし、ぼたんは寅の顔を見るなり、その手を取って家の中に招き入れます。

「見てこれ!」

そこに飾ってあったのは、青観がぼたんに贈呈した牡丹の真っ赤な花を描いた一枚の日本画でした。
これは私の宝物。市役所からは、200万円で譲ってたくれという申し出があったけれど、1000万円と言われても、絶対に売らない。
ぼたんの顔は、嬉しさではち切れんばかりです。
青観画伯への非礼を恥じた寅は、ぼたんと共に、東京にいる青観に向かって、手を合わせます。


というわけで、ラストシーンに、マドンナが再登場して、大円団を迎えるというのは、シリーズ始まって以来のパターンですね。
実に後味のいいラスト。
日本演劇界の重鎮・宇野重吉に、最大限のリスペクトを送った山田監督の心意気が伺えます。

さて、次作は第18作「男はつらいよ 寅次郎純情詩集」です。

おっと忘れてました。
今回の「谷よしの」を探せ!ですが、とらやの客として登場。ちゃんとおばちゃんと芝居してました。

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