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映画「地下室のメロディ」1963年フランス


1963年に公開されたフランス映画です。
本作の目玉は、なんといってもアラン・ドロンとジャン・ギャバンというフランス映画界の2大スターが共演した作品であること。
二人の共演作は、全部で3本ありますが、本作が初共演です。
以後、1969年「シシリアン」、1972年「暗黒街の二人」と続きます。
いずれもフィルム・ノワール作品です。
監督は、「過去を持つ愛情」「ヘッドライト」などの、アンリ・ヴェルヌイユ。

この映画は、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受けました。
特にフランスでは、興行収入において、この年の大ヒット作「アラビアのロレンス」を抜いたといいますから、とんでもない大ヒット作です。

ケーパー・ムービーと呼ばれるジャンルの作品で、緻密な計画と緊迫感ある展開、そして、鮮烈な印象を残すラストが魅力な作品ですね。
犯罪映画ではありますが、殺人や、それに準じる暴力的なシーンが、ほとんどありません。
その意味では、かなりスマートな犯罪映画と言えるかもしれません。

特筆すべきは、ミッシェル・マーニュによる音楽です。
キャッチーなテーマ曲が、場面ごとにあったアレンジで展開され、映画を見終わったときには、誰の耳にも残っているはず。
基本的には、ジャズ・ナンバーで、フィルム・ノワールの空気感を良く出しています。
フィルム・ノワールでジャズというと、すぐに浮かぶのは、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」。
ラッシュ・フィルムを見ながらの即興演奏が有名で、トランペットを吹いたのはマイルス・デイビスでした。
フランスのフィルム・ノワールに、モダンジャズがよく似合います。

ジャン・ギャバンは、年輪を重ねることで、その重厚な演技にますます磨きをかけ、魅力を増していった俳優です。
反対にアラン・ドロンの魅力は、なんといっても、クールな美貌と若さでしょう。
この新旧を代表するフランス男優が、その魅力がもっとも輝いたタイミングで共演したのが本作と言えます。
この名作は、フランス映画史においても重要な位置を占めており、ある意味では、フランス映画の伝統が、バトン・タッチされている映画といってもいいかもしれません。

映画のあらすじは以下の通り。

強盗の罪で5年間服役していた老ギャングのシャルル(ジャン・ギャバン)は、刑期を終えて出所。
シャルルの妻ジャネット(ヴィヴィアーヌ・ロマンス)は夫にはギャング稼業から足を洗って堅気になってほしいと願っていましたが、そんなこともお構いなしのシャルルは昔の仲間マリオ(アンリ・ヴァルロジュー)の元を訪ね、人生最後の大仕事としてカンヌのパルム・ビーチにあるカジノの地下金庫から10億フランという大金をごっそり奪い取ろうという作戦を立てます。

人手の欲しいシャルルは、かつて刑務所で目をつけていた若いチンピラのフランシス・ヴェルロット(アラン・ドロン)とその義兄ロイス・ノーダン(モーリス・ビロー)を仲間に引き入れます。



シャルルはまず下調べのためカジノに行き、極秘裏に地下の金庫へ運び込まれる大金の異動ルートを探り当てました
シャルルのアドバイスでフランシスは金持ちの御曹司に成りすまし、運転手役のロイスと共にカジノのあるホテルに向かい、カジノのダンサーであるブリジット(カルラ・マルリエ)を口説いて親しくなり、一般客が立ち入ることのできないカジノの舞台裏へ出入りする口実を掴みます。

カジノのオーナーが売上金を運び出すタイミングを確認し、犯行日時を決定。
作戦決行当日、フランシスはブリジットのステージを観たのちカジノの舞台裏に侵入。
空気ダクトを伝ってエレベーターの屋根に身を潜め、オーナーと会計係が売上金の勘定をしているところを襲撃。

覆面を被り、マシンガンを手にしたフランシスはオーナーらの前に姿を現し、会計係に鍵を開けさせてシャルルを引き入れ、まんまと大金10億フランを奪ってバッグに詰め込み、ロイスの運転するロールスロイスで逃走することに成功。

金はあらかじめ用意していた脱衣場に隠し、シャルルとフランシスはそれぞれ別のホテルに泊まって警察の目をやり過ごしてから、回収する計画でした。

作戦は大成功かと思われました。
しかし、作戦は思わぬ方向へ進んでいきます。
フランシスの写真が新聞に掲載されてしまい、彼の素性が知れ渡ってしまいます。
警察は彼を追跡し始めます。

一刻の猶予も亡くなった二人は、強奪した10億フランを山分けしようとしますが・・・

ビジュアル的な効果を最大限活かそうとしたラストは、必見です。
少々無理がある点は否めませんが、実に映画的なオチではありました。
1956年のスタンリー・キューブリック監督の「現金に体を張れ」のラストは、かなり意識したと思われます。
ちなみに、同じジャン・ギャバン主演のフィルム・ノワールで「現金に手を出すな」という作品もありますね。
これどちらも「現金」と書いて、「ゲンナマ」と呼ばせるので、参考までに。

アラン・ドロンは、映画界に入る前の十代の頃に、フランス海軍に志願して、第一次インドシナ戦争に従軍しています。
映画評論家の町山智弘氏の指摘によれば、この経験のおかげで、彼にはリアルな拳銃扱いが身についてしまっているということ。
本作にも、ジャン・ギャバンに、ライフルの扱いの手ほどきを受けるシーンがあるのですが、銃を扱うのが初めてという設定にもかかわらず、その扱いが手慣れていて、おもわず苦笑するというシーンがあります。
彼は、金持ちのボンボンという設定で、映画の中で、その所作をいろいろとジャン・ギャバンから手ほどきを受けるのですが、この人の場合、どこからどう見ても、「育ちがいい」青年には見えないというのも苦笑。
特に、煙草の所作がいちいち不良っぽくて、思わず見惚れてしまいました。
僕は煙草は吸いませんが、あれはちょっと真似してみたいかも。

日本でも彼の人気は高く、僕の子どもの頃は、「二枚目」の代名詞になっていました。
「ダーバン」のコマーシャルも一世を風靡し、ダリダとのデュエット「あまい囁き」も大ヒットを記録しています。

彼はまだ存命で今年89歳。
Wiki によれば、本年2月に自宅で、所持許可のない拳銃72丁と、3000発以上の弾薬や射撃場が押収されたとのこと。

映画俳優としては60年代から、70年代にかけて輝きを放った人ですが、残念ながらジャン・ギャバンのように、老いても尚魅力を放つという人生は送れなかったようです。

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