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バンドワゴン 1953年アメリカ

 今回は、ちょっとミュージカルが見たくなって、Amazon プライムからも離れて、過去に衛星放送録画してあった作品の中から、本作を選びました。
まだまだ、未見のミュージカルはたくさんありますね。嬉しくなります。
最近見たミュージカルというと、「ラ・ラ・ランド」ぐらいしかちょっと思い出せません。エルトン・ジョンを題材にした「ロケット・マン」も、一応ミュージカルにはなる気がしますが、やはりMGM全盛の頃の作品群とは、テイストがまるで違います。
とにかく、ミュージカルには、学生の頃、やたらとハマっていた時期がありました。
そのきっかけとなった作品は、なんと言っても、「ザッツ・エンターテイメント」でした。
1974年の映画でしたね。まだ中学生でした。この翌年には、Part 2 も作成されました。
両作品とも、父親と一緒に見た記憶です。
映画を親子鑑賞をした後は、たいてい日比谷映画街の喫茶店で、父親の蘊蓄を聞かされたものです。
当時のミュージカルの二大スターといえば、やはり、フレッド・アステアとジーン・ケリー。
我が父は、フレッド・アステアが大のお気に入りで、男性的でアクロバチックなジーン・ケリーの踊りよりも、アステアの洗練された都会的な身のこなしを絶賛していました。
父が亡くなってから、遺品の整理をしていたら、タンスの隅から、アステアが愛用していたようなウイングチップでツートンカラーのタップシューズが出てきましたから、かなりかぶれていたことは伺えます。
僕らの世代なら、ちょうどマイケル・ジャクソンの履くようなローファー・シューズを買って、ムーンウォークでもするようなノリだったのでしょう。基本的には、ミーハーな父親でした。
その靴を颯爽と履いて、当時のまだ若かりし母親を、ダンスホールで口説いていた姿を思い浮かべてニヤニヤしたものです。
さて、この「ザッツ・エンターテイメント」では、ジーン・ケリーと共に、フレッド・アステアも映画の進行役として登場して、軽やかなステップなども見せてくれており、父親はかなり興奮していましたね。
この映画に登場するキラ星のような往年のミュージカルの中で、中学生だった僕に強烈な印象を残したダンス・シーン2つありました。
一つは、ジーン・ケリーが踊り、もう一つはフレッド・アステアが踊るダンスなのですが、その双方で相手役を務めたのがシド・チャリシーです。
その映画は、一本が「雨に唄えば」で、もう一本が本作「バンドワゴン」でした。。
とにかく、なんと言っても、圧倒的だったのは、彼女の脚線美です。
マレーネ・デートリッヒは、その全盛時代に、自分の脚線美に保険をかけたことで有名ですが、シド・チャリスの脚線美にも、映画会社は、きちんと保険をかけていたようです。
彼女は、バレー・ダンサーの出身でしたので、その足の美しさを魅せる技にも長けていました。
そのスラリと伸びた足は、ほとんど芸術的な美しさでしたね。
「ザッツ・エンターテイメント」で紹介されて、一番ガツンと来たのは、「雨に唄えば」での、妖艶なダンスだったのですが、「バンド・ワゴン」でフレッド・アステアと夜の公園で踊った「ダンス・イン・ザ・ダーク」のロマンチシズム溢れる流麗なダンスにもグッときました。
往年のミュージカル俳優を演じたアステアと、バレリーナ出身のシド・チャリスが、互いのダンス・スタイルを認め合って、心を通わせるようになる重要なシーンです。
この部分だけを切り取った「ザッツ・エンターテイメント」では、わかりませんでしたが、本作で改めて見直すと、このシーンに至るまでの、2人の感情の流れもしっかりと伝わってきて、ダンス・シーンの魅力がさらに深まりました。
最初は、この二つのダンスシーンの踊り手が、同じ女優であるとは気づきませんでしたが、映画を見終わってから購入したパンフレットを読んで、この二つのダンスシーンに登場したミュージカル女優の名前が同じであることを知り、シド・チャリスの名前は、しっかりと頭にインプットされることになったというわけです。
「ラ・ラ・ランド」で、ライアン・ゴズリングと、エマ・ストーンが公園で踊るシーンがありますが、これが、「バンドワゴン」のこのシーンへのオマージュであることは、すぐにわかりました。
「雨に唄えば」での、シド・チャリスはセリフもなく、このダンス・シーンだけの登場でしたが、本作ではフレッド・アステアと並んで、堂々と主演を務めていますので、彼女のダンス・シーンが随所で存分に楽しめます。
 ダンス・シーンの美味しいところは、「ザッツ・エンターテイメント」シリーズでも、ダイジェスト的に見ていたので、「おお、ここでこのシーンが来るのか」となんて具合に、本家本元の出展作品として本作を楽しめました。
ちょうど、ビートルズの赤盤青盤で、彼らのキャリアを美味しいとこどりで楽しんだ後から、それぞれのアルバムを聴いて、その魅力さらにを深掘りしに行った時と同じような感覚です。
やはり、シド・チャリスの圧倒的な脚線美を活かしたダンス・シーンは、アステアの優雅なダンスのサポートを得て、今見てもかなりシビレます。
絶対に、日本人の体型では出せない魅力だろうなあと思うとため息ひとつ。

この映画のために、唯一書き下ろされた曲が「ザッツ・エンターテイメント」というナンバーでした。
映画の中では、シチュエーションによって、歌詞を巧みに変えながら何度も登場します。
この曲は、ご存知のように、後に僕がミュージカル好きになるきっかけにもなった同名作品のタイトル曲にもなりました。そして「雨に唄えば」と並んで、MGMミュージカルを代表するナンバーになりましたね。
ミュージカルが嫌いな人のほとんどは、たいていミュージカルをノーテンキだと酷評します。
いやいや、ミュージカル好きから言わせて貰えば、ミュージカルはそれで上等。それこそがミュージカル映画の存在意義でしょうし、真髄とも言えます。
そんな極端にポジティブ・テイストな映画群ですから、ミュージカルが受け入れられるか、そうでないかは時代の空気に大きく左右されます。
ですから、戦争の影が世の中を支配していた暗い時代に、ミュージカル映画は圧倒的な支持を得ました。
観客は、みんなスクリーンの中に現実逃避をしていたのでしょう。
そう考えると、このCovid-19 のパンデミック騒動で、世界中に暗鬱なムードが蔓延しているこの時代だからこそ、ミュージカル映画は再び見直されるかもしれません。
あのスティーブン・スピルバーグ監督も、名作「ウエスト・サイド・ストーリー」をリメイクして、大ヒットさせています。
ちなみに、心理学用語で「バンドワゴン効果」というものがあります。
バンドワゴンというのは、パレードの先頭で人目を引くために作られた、客寄せ目的の「見せ物ステージ」のことを言います。
これが派手で、注目を集めたりすると、パレードに対する観客の関心が一気に高まり、敬遠するような人々たちのムードも駆逐してしまうので、パレードは一気に盛り上がることになるというわけです。
これが「バンドワゴン効果」と言われるものなのですが、さしずめ、ミュージカル映画好きになるきっかけとして、ミュージカルのいいとこ取りを、そのまま映画にしてしまった「ザッツ・エンターテイメント」を見たことは、見事にこの「バンドワゴン効果」にやられた一例ということになるかもしれません。

ノーテンキ最高!

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