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読書ノート

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本屋の息子なので、読書は今でも道楽の王道。 iPad のヘビー・ユーザーなので、僕のスタイルは、すべての本を裁断して、電子書籍化。 いつでもどこでも、マイiPad をスワイプしな…
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2021年1月の記事一覧

武蔵野 国木田独歩

武蔵野 国木田独歩

「武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり」と自分は文政年間にできた地図で見たことがある。そしてその地図に入間郡「小手指原久米川は古戦場なり太平記元弘三年五月十一日源平小手指原にて戦うこと一日がうちに三十余たび日暮れは平家三里退きて久米川に陣を取る明れば源氏久米川の陣へ押寄せると載せたるはこのあたりなるべし」と書きこんであるのを読んだことがある。

国木田独歩の「武蔵野」の冒頭部分です。
のっけから、

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おばけの正体 井上円了

おばけの正体 井上円了

柳田國男の「遠野物語」を読んでいるうちに、頭の片隅で、チラチラと浮かんでいた人物がいました。

その人物とは、井上円了という、明治時代の哲学者。

この人何を隠そう、我が母校東洋大学の創始者ですね。

その節は、大変お世話になりました。(なにせ、5年も通わせていただきましたので)

しかし在学時代から、本日に至るまで、恥ずかしながらこの井上翁の著作に触れたことはありませんでした。申し訳ない。

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遠野物語 柳田國男

遠野物語 柳田國男

「鬼滅の刃」が、去年コロナ禍の映画界において、大ヒットしました。
映画の方は見ていませんが、Amazon プライム で、その前年に放映されたテレビ・アニメ・シリーズは見ています。アニメをワンクールまとめて見たのは、久しぶりでした。
時代は大正。人間対鬼のバトルを描いた和風剣戟です。
なぜこのアニメが、ここまでの大ヒットになったのかは、恥ずかしながらイマイチ理解できないところですが、エンタメの王道で

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なめとこ山の熊 宮沢賢治

なめとこ山の熊 宮沢賢治

なめとこ山の熊 宮沢賢治

冬の百姓は、読書でもして、頭に栄養を蓄えます。
そんな貧乏百姓には、「青空文庫」は実に重宝。
学生時代以来、敬遠していた古典の名作も、今の視点で読むとなかなか刺激的です。

今回は宮沢賢治の短編童話。
猟師と熊の切ないお話です。
農作物がろくに出来ない山間に暮らす小十郎と七人の家族。
彼には熊を殺して、熊の胆と毛皮を売ることでしか家族を養う術がありません。
猟銃を熊に向

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破戒 島崎藤村

破戒 島崎藤村

1906年と言いますから、明治39年の作品ですね。
時代的には、日露戦争で快勝した日本がイケイケの時代。
富国強兵のスローガンの元、日本がアジアの諸国に先駆けて、近代国家への道をまっしぐらに進んでいた時代。
明治新政府が樹立して、江戸時代の身分制度は、名目上は廃止されていましたが、アメリカの奴隷制度廃止後も、南部での人種差別が根強く燻り続けた事情と同じく、日本でも身分による差別は、被差別部落問題と

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高瀬舟 森鴎外

高瀬舟 森鴎外

1916年に発表された、森鴎外晩年の、有名な短編です。
サラリと読めてしまいますが、なかなか重いテーマを内包しています。
高瀬舟は、京都の罪人を、大阪に遠島する小舟のこと。
遠島というのは、言ってみれば護送みたいなことです。
この舟の道行を、担当同心と罪人が、顔を突き合わせていくわけです。
話は、二人の舟でのやりとりを描写した一幕もの。
同心の羽田庄兵衛は、島送りになるのに、妙に晴々しい顔をしてい

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人間失格 太宰治

人間失格 太宰治

正月早々、なんとも暗い本を選んだものです。

太宰治の「人間失格」

本屋の息子ではありましたが、決して文学青年ではありませんでしたので、これまで読んだ太宰治の小説は、本作を含めて3冊だけ。

中学校(高校?)の教科書の教材となっていたお馴染みの「走れメロス」。
「ヴィヨンの妻」、そして本作です。

太宰治が、玉川上水に入水したのが昭和23年6月。
本作は同じ年の5月に脱稿されています。
彼はこの

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