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5分で心に刺さる短編小説

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ニンゲンの善意や悪意をテーマとした、短いながらも意外な展開で心に刺さる、5分で読める短編小説です。
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#短編小説

【20字小説】憎かった父の病床にて

今更ありがとうって。 最期まで憎ませてよ。 【あとがき】 虐待、いじめ、ハラスメントなど。 法で裁けない悪もあれば、法で裁くほどでもない悪もある。 こうした悪の牙に噛まれたニンゲンにとって、心を保つ唯一の合法的な手段。 それは、「憎む」という感情を抱くことだ。 でも、憎んでる奴の死に際をいざ目の当たりにして、最期まで憎み切れるだろうか。 たぶん、私にはできない。死ねば奴の罪など消えてしまうと、わかっているのに。

【短編小説】あなたのことが好きだった私を許してください。

「咲希のことが好きだ。今週会える?」 このLINEの一文が、私の色褪せた視界に色を取り戻してくれる。 私の心は、満たされた気持ちで脈打っていた。 でも、私の頭は、いつものように罪悪感に満たされていた。 夫にどのように嘘をつこうか…なんで私はいつもこんなことで悩んでいるんだろう…。 私は夫から2年前にプロポーズを受け、この結婚に後悔はなかった。 夫は容姿端麗で、気遣いもできる。学歴もとても良く、仕事も安定している。 他人から見たら、私は幸せ者に違いない。 そんな

【短編小説】最期の日

僕は今日で、終わりを迎えることになる。 この街の桜は綺麗だけど、散り際がとても悲しい。 そんな言葉は、嫌になるほど、何回も聞いてきた。 でも、いざ自分が終わるとなって、やっと分かった。 散り際は、悲しいということを。 ◇ 僕が住む街は、かつては活気があった。 人の笑い声が聞こえたり、悲しむ声が聞こえたり、人々の喜怒哀楽を感じることができた。 人が集まる場所には、色んな声が集まる。 「今度、花火見に行こうよ!」 「一緒にあそこで飲んだコーヒーが懐かしいね。」

【短編小説】正義は時に、人を追い詰める。

17歳の女子高生が立川駅のホームで投身自殺。SNSでの誹謗中傷が原因か。 - WAMOOニュース 激務で疲れた体が電車で揺らされる中、スマホの中で無機質に映される悲惨なニュースを目にし、脳が揺らされる。 そうこうしている間に、立川駅の騒然とした動画がSNSのタイムラインにたくさん流れてきて、心が揺らされ続ける。 そしていつものように、夜の窓の光に虫が集まるが如く、たくさんのユーザーがコメントを貼り付けている。 まだ若いのにかわいそう。ご冥福をお祈りします。 慈悲の言

【短編小説】罪悪感と優しい嘘

「人の罪悪感と優しい嘘に、疲れてしまったよ。」 彼が自死を遂げる1ヶ月前、彼の口から聞いた、初めての弱音だった。その言葉とは裏腹に、表情は苦笑を浮かべていた。 社会人になってからは猛烈な忙しさの波に攫われ、気づけば30歳になっていた。私生活で会っていたのは、昨年に結婚した妻がほとんどだった。亡くなった彼とは、学生のときは週1回くらい会っていたが、今では年1回会うくらいのペースになっていた。 1ヶ月前、彼と会ったのは、年末に向けて仕事で佳境を迎えており、久々に休みが取れた