はじめての挫折

『今日はゲームだけ』
そんなことをある日に告げられて目が点になる。
ひたすらダブルス戦をやるというのだ。
1試合4ゲーム先取で、1試合ごとに相手を変えてのリーグ戦を。
勝手がわからず、嫌だとも言えず、後学のためにやってみようとなる。

ダブルスともなると気を遣う。
『お前のせいで負けた』って言われるのが何よりも嫌だ。
サーブも、ストロークも、ボレーも、つまるところラケットを振っても決まらないのに、あまりにも酷でしかない。
救いは、『意外性』
『入らぬ』、『返らぬ』で待ち構えていても油断ならないらしい。
サービスエースもリターンエースも決まっちゃう。
それらがいつ決まるのかが読めないのだ。
でも、その確率は残念ながら低いままに終わってしまった。
一人7試合やったが、結果は7戦0勝の全敗である。
全員、自分と組んだために必ず1敗が残るため、全勝優勝者がいない日になってしまった。
『いいの、いいの』
気にするなって口では言ってるけど、目はそうは言ってない。
『お前のせいで負けた』って目を突き刺してくる。
思うように決まらず、ミスが重なり、ラリーも続かずに終わる。
試合してるって手応えがないままに終わってしまう。
いくらテニスを始めて数ヶ月の自分には重過ぎる。
仕方がない、負けて当たり前くらいに思っていても、やっぱり負け続けると気分の良いものじゃない。
もどかしさと悔しさだけが重なって、天を仰ぎ、ラケットをポーンと投げてしまった。
紳士淑女の集まるスポーツにはよろしくない行為に気が付いた時は泣きそうになった。
それが何よりも申し訳ない気分を増長させる。
何とも嫌な日だった。
『もうやめよう...やるんだったらテニススクールに行ってから』と内心思っていたし、行き先まで決めていた。

翌日は仕事で、職場の先輩兼コーチと休憩中に顔を合わせる。
その後ぞろぞろと『テニス同好会』のメンバーがやって来て、何とも気まずい雰囲気になる。
『さぁ...言わなきゃ...』と辞める旨を話そうと『お話がありまして実は...』と出かかった時に先んじられて遮られる。
『来週、来るよね?』
『.....』返答に困って苦笑いで返す。
『来週から君の特訓始めるから』
辞める気満々だったから行くと返事して当日は行かないくらいに考えてた。
面倒見切れないからと言われるのかと思ってた。
『え...?マジっすか?』と呆然としてたら、周囲が寄ってたかって囃し立てる。
『特訓だぁ~!!!』
『よっしゃぁ~っ!!!』
もどかしくて悔しくて情けなくて...ネガティブのどん底にあったのに。
要は気にするなってことらしい。
そこまでやってくれるんだったら、それに応えなければ男が廃るというもの。
かえってみなさんに失礼になる。
『ええ、やりますとも、やらせてください。よろしくお願いします』
深々と頭を下げる。
そして実際に翌週から特訓が始まった。
ありがたい限りで、この職場に来て良かったというのが更に増して来た。
『挫折は最良の良薬だ』とヨハン・クライフが言ってたのがこの歳になって沁みて頸骨も折れよとばかりに激しく頷かせた。
テニススクールに行くのは先延ばしになった。

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