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地球を救おうの会

※この作品はPrologueにも掲載しています。

「えー皆さんもご存知の通り、森崎高校は『地球を救おうの会』に参加している県内唯一の高校です。地球温暖化を救いたい、その一心で様々な活動をこれまでにやってまいりました。そしてこの修学旅行は、我々の大事な活動のひとつであります」

「校長先生の話ってなんでこんな長いんだろ」
「地球を救おう〜とか言って、まずあんたのハゲ救う方が先じゃない?って感じ」
「あはは、それ確かに」

うちの校長はハゲで有名だ。ずっとわざとらしいカツラを被ってるから、あだ名は「ヅラ」。なんともそのまんまである。

「ってか最近思ったんだけどさ、教頭もヅラにしたよね?部分的なやつ」
「あ、やっぱり?あれヅラ?ヅラ第二号じゃん、やば」
「地球を救おうとかいうわりに、その点は隠しちゃうとかダッサくない?」

ゲラゲラとくだらない話をしながら、行きのフェリーに乗り込んだ。修学旅行では三泊四日で離島に泊まり、初日は「地球を救おうの会」として植樹をすると決まっている。これは、毎年うちの高校が行う恒例行事だ。この島の自然は私たちが守っていると言っても過言ではない。

島には様々な観光施設が充実していた。どれも自然を壊さない程度のこじんまりなとしたものだが、観光シーズンになると予約でいっぱいになるほどの人気ぶり。なかでも木々との対話をテーマにした登山型アトラクションは毎度チケットがすぐに完売する。


「えー、昨夜シャンプーをしてしまった人は、植樹に参加できませんので、今日は1日見学です」

島に着くなり、荷物を置いた私たちはそれぞれの列に並ぶ。好きな人の隣に植樹すると恋が叶うというジンクスがあるので、列を交代してくれないかとお願いされることもある。私たち高校生にすれば、青春の一大イベントだ。

動き出した列は白い建物に入っていく。

「お名前お願いします」
「3組、坂森です」
「はい、ありがとうございます。えーっと、後頭部中心、直径3cmですね」

看護師が私の髪の毛を丁寧に持ち上げ、切り取る範囲にマーカーで印をつける。

「では麻酔しますので、少しチクリとしますよ」

そこからの手際の良さは、やはりさすが看護師。範囲の毛を1本ずつ丁寧に抜き取り、土に植えていく。植えられた髪の毛は瞬く間に栄養を吸って束になり、小さな木になっていった。

「次の毛が生えてくるまではあまり刺激を与えないように気をつけてください。これまで通り栄養剤の塗布は毎日かかさず行ってくださいね」
「あ、あの。このまま植樹を続けていったら何年くらいで生えなくなっちゃうんですか?」
「そうね……まだ正確なデータは出てないみたい。私もここの卒業生だけど、卒業後30年経ってもまだ定期的に植樹に来れてるから、とりあえず50くらいまでは安心じゃないかな」

施設を出ると、もうすでに植樹している生徒が大勢いた。私も慌てて走って、列に混ざる。お目当ては高橋くんの隣だ。

「おう坂森、お前も10円ハゲできたん?」
「いや、高橋くんこそハゲてんじゃん。男子って隠せないから大変だよね」
「俺は坊主だから、どうせすぐ生えて目立たなくなるよ。坂森はどうなってんの?見してよ」

麻酔が効いていてよくわからなかったが、高橋くんは優しく私の頭を触った。

「お、綺麗にとれてんじゃん。入学ん時誰に種植えてもらった?」
「桜井先生だよ。めっちゃ綺麗に植えてくれたんだよね」
「いいな。俺田中先生だったから、植え方が雑でまじ嫌なんだよね」

髪の毛の抜かれた部分は、毛穴の奥まできれいに見えた。入学当初に植えられた黒い種が外側からもよく見えるのだ。この種からまた発芽して根が出て、私たちの脳みそとつながり、栄養をとりながら植物は成長していく。見た目はまるで髪の毛と変わらない。
人間の知能を獲得した植物たちは、およそ2年後に抜くと木になり、土に植えられる。成長した木は人間との会話ができるようになり、自らの意思で自然を発展させていく。

「つか坂森の木も立派だな、お前に似て可愛いし」
「えっ?」
「隣に植えようぜ、こことかどう?」
「ね、今なんか、可愛いって言った?」

ドキドキしながら高橋くんの隣にしゃがみ込む。二人で木を植えているだけなのに、私の心臓はバクバクだ。

高橋くんの顔は真っ赤だった。

「俺、坂森のこと好きなの。……だから可愛いって思うんだけど、悪い?」

なんとなく、私の木も頬を赤らめているように見えた。高橋くんの木と私の木も、幸せに結ばれたら嬉しいな……。

10年後、私たちは結婚し第一子を授かった。もちろん子供も、地球を救おうの会の一員だ。それからは2年おきに家族みんなで植樹をしに行く。

あの修学旅行の時に植えた私たちの木は、隣り合わせで寄り添うように生えている。夫婦漫才が得意な木として、島の名物になっているようだ。

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