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短編小説集

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2,000~5,000文字程度の短編小説をまとめています。
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#スキしてみて

はなむけ

「本当に呪いたい人がいたら、その人に自分の髪の毛が四本入ったお守りを渡すの。一番良いのは、おめでたい日にね」 「たとえば結婚式とか?」 「そゆこと。美希、呪いたい人いる?」 「いないよ! あ、でも理科の茂木先生は超ムカつく……」 きゃはは。 終業式の帰り道、私たちはおまじないとか呪いとか、最近得た知識を交換しあっていた。 呪いの話でジメジメした空気になったのを変えたのは、親友の真由子のほう。 「貝殻のおまじないって知ってる? 上は自分が、下は相手の筆箱に忍ばせるんだって。そ

お別れまであと五秒

この作品はPrologueの再掲です。 いつからだろう、彼が私を見てくれなくなったのは。気のせいかもしれない。もしかしたら見つめられているのかもしれない。でも、昔に比べて明らかに触れられる回数は減った。今では腕を伸ばしても、なんの反応も返ってこない。私に無関心なのだ。 「あ、この歌手懐かしいね。子供の頃好きだったなあ」 車のスピーカーから流れてくる曲を聴いて、わざと楽しそうに振る舞う。せっかくのドライブなのに、私のせいで険悪になってしまうのは良くない。彼は今そこまで怒っ

うろこ雲を纏って

この作品はPrologueに投稿したものの再掲です。 この部屋にはタカシと私の思い出が詰まっている。海に行って拾った貝殻、小樽で作ったオルゴール、青森のねぶたの前で撮った写真、島根で作った勾玉のネックレス。 私はテレビ台に並んだそれをぼんやり見つめ、右腕のジクジクとした痛みを逃す。カーペットの上に横たわって、新しく刻まれた丸い火傷の跡を眺めた。 以前タカシに言われるがままに、足首へ付き合った記念日と、天使の羽のタトゥーを彫った。 「自由とか、勇気って意味があるんすよ」 彫

たったひとつの失恋

濡れたまつ毛をパタパタと、動かす。 彼女は動じなかった、動じないフリをした。唇についた髪の毛を一本ずつ丁寧に取る。ペタリ、ペタリ。塗りたての口紅が線になってほどけていく。 「わかった、今までありがとう」 拳をぎゅっと握りしめると、手のひらに爪が食い込む。これ以上涙が零れ落ちないように、痛みで悲しさを飲み込んだ。踵に血の滲む匂いがする。慣れないヒールを履いたせいで、どうやら靴擦れをしたようだ。こんなことになるのなら、おめかしなんてしなければよかったと、悲しみの中でぼんやり

かわいいあの子とかわいくない私

恵梨香はモテる。だってかわいいから。顔もかわいい、中身もかわいい、ぜんぶかわいい。 ストレートの暗髪ボブで清楚なイメージを演出。すっぴん風のナチュラルメイクは男ウケ子ウケ抜群。服装は女子ウケもしやすいキレイめカジュアル。努力で「清楚でかわいい女の子」を作り続ける。これがモテるコツ。男子からも女子からも、「かわいい」って言われ続けるコツ。 「恵梨香、なんか今日良い香りする~」 親友のマリが恵梨香の首筋に顔を近づけながら問いかける。 茶色の長い髪をゆるく巻いて、キレイ目な