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ハグロトンボ            小説のタイトルの由来

これから私が書いていく話にはきっかけがある。

9月の新月も近いある日、午前中、10時頃かしら

部屋から見える小川のほとりを散歩していたときにそれは起きた。

東京の川の景色は私が日本から離れている間にだいぶ変ったように思う。

きれいになった。

私の部屋から見える川も野川という名前で

どこにでもありそうな、特別な川ではないが、

気になっていた。

それは川の両側の舗装された道路や公園のような作りも気に入っていたので

あるが、なにしろ、川の縁まで降りていく道もときどきあって、

自由に小川のごくそばの土の道を歩けるのがうれしい場所だった。

橋のところには、雨などで水位が上がったら、下に降りてはいけません

と警告があったが、この夏は雨など、ほとんど降らず、ただ暑いだけだった

ので、水位の心配はしなくてよさそうだった。

やっと夏中続いていた猛暑が終わり、涼しくなり始めてすぐの頃だった。

川に降りていって、ほとりを歩いていると、草のにおいがした。

蚊が多いと聞いていたが、虫全般が活動を開始していて、

歩いている私にぶつかってくる虫もいたほどだ。

そういう中で秋の気配というかなんというか、トンボがいろいろ飛んでいる

のに気づいた。小さい頃からトンボが飛んでくると秋なのだと暗黙の了解が

あったように思う。

そのころ、東京が今ほど暑かったかどうかは覚えていないが、

蝉の声と入れ替わりにトンボの姿を見かけると新学期が始まったのは覚えて

いる。

3月にカリフォルニアに戻ったときにシャスタレイクのそばに宿泊していた

のだが、そのときに購入した黒にピンクのラインの入ったスニーカーをはい

て、ずんずん歩いて行った。

その前に履いていたスニーカーは8年前にアテネで買ったんだった。

ロイヤルブルーの美しいスニーカーだったがつま先から穴が開いて、

どうにも見苦しくなり、そして、かかとも痛んできたので、

処分せざるを得なかった。

などとグズグズ考えているうちに土がなんとなく湿っている場所が増えてきた。

自分を囲む虫も増えて、あたりの草を見比べていた。

すると、ハグロトンボが音もなく、

目の前で羽を広げているのが見えた。

私は初めてみた。

名前もそのときは知らなかった。

ただ蝶々のような黒いテキスチャーの羽をもったトンボが

優雅にそばにいるのが衝撃だった。

トンボはもともと縁起がいいので、この特殊なトンボは幸運の知らせだろう

と調べる前からうれしかった。

写真を撮ろうとしたら、逃げられてしまったので、

ここには添付できない。

けれどもこの不思議なトンボを見て以来、

私を包む風の感じが変ってきた。

としかいいようがない。

どうしても外に出てこいと誘われて外に行ってみると、こっちだ、こっちだ

と誘われ、行ってみるととても神秘的な出会いがある。

なんとも贅沢な毎日がはじまったのである。

What an amazing choice you made! Thank you very much. Let's fly over the rainbow together!