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リーダーと考える経営の現場・第5回 自責と他責

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。

今回のテーマは、リーダーのあるべき行動様式である「あり方」に不可欠な「自責」という考え方をご紹介したいと思います。また、より理解を深めるため、「自責」の対義語である「他責」についても、併せてご紹介します。

「自責」とは、自分に責任があると考えることです。これに対して、「他責」とは、自分以外の人や状況に責任があると考えることです。

私は、リーダーの「あり方」において、「自責」という考え方が大事であることは、広く多くの社会人に理解されていると考えています。そのため、毎年4月になれば多くの新入社員が入社してきますが、初めて部下を持った先輩社員が、部下のミスを自分のミスと受け入れられずにいるところに、「部下のミスも先輩社員であるあなたのミスである」と上司に諭されるような場面が散見されているのではないかと思います。

とはいえ、前回ご紹介したとおり「人は性善なれど弱し」で、「人は弱し」の象徴的な事例だと思いますが、経営の現場では「他責」を見ることが多いです。何か問題が起きた場合に、その問題が、直接的か遠因かはさておき、自分に起因していて、自分の責任であると「自責」を認めることはなかなかできないものです。

以前、私は企業再生をしていましたので、様々な「他責」を見てきました。企業再生では、初期の段階で、幹部社員に対して、経営成績の悪化の原因をヒヤリングします。私が新しい投資家・株主から送り込まれた改革者であるということもあってか、幹部社員の口から出てくるのは「他責」のオンパレードです。

以下は、私が実際に見聞きしてきた「他責」です。まさに「人は弱し」で、ビックリするような言い訳も含め、「他責」のバリュエーションは様々です。

経営戦略が間違っていたから、経営が悪化した。経営者のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
営業部が売らないから、経営が悪化した。営業部のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
製造部が良い商品を作らないから、経営が悪化した。製造部のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
人事部が優秀な社員を採用しないから、経営が悪化した。人事部のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
他の事業が悪いから、他の部署が悪いから、経営が悪化した。
(だから、私は悪くない。)
取引先がしっかりとした仕事をしないから、経営が悪化した。取引先のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
景気が悪いから、経営が悪化した。景気のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
天候不順で、お客様が来ないから、経営が悪化した。天候のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
暦の並びが悪く、お客様が来ないから、経営が悪化した。暦のせいだ。
(だから、私は悪くない。)
挙句の果てには・・・
部下が優秀でないから、経営が悪化した。部下のせいだ。
(だから、私は悪くない。)

経営成績の悪化の大きな原因は、この「他責」が蔓延していることなのです。そのため、企業再生が進んでくると、「他責」から「自責」へ考え方が変わる人が多くなります。

リーダーとフォロワーの関係は面白いもので、リーダーシップが適切に発揮されていれば、全てのフォロワーが、リーダーと同じ心持ちで、全ての物事に「自責」で臨むようになるものです。

昨今よく大企業の不祥事が起こりますが、組織の末端にいるスタッフが問題を起こすのは、組織のトップであるリーダーが適切なリーダーシップを発揮していないからです。全てのスタッフに対して影響力を行使できていないということは、リーダーに力が足りないからです。リーダーは全てのことに責任があるのです。

リーダーは、いついかなるときも「自責」で物事に臨まなければなりません。そして、「自責」の先にあるものは「内省」です。「内省」とは自分の考えや行動などを深くかえりみて反省することです。何か問題が起きた場合に「自責」ではなく「他責」だと考えたら、「内省」することはできません。リーダーは「内省」しなければなりません。

リーダーシップとは組織のトップにだけに必要なものではありません。本来、リーダーシップとは、ありとあらゆる人が発揮すべきもので、リーダーシップに組織における立場は関係ないのです。そのため、この「自責と他責」という考え方も、全てのリーダーが理解すべき考え方です。

優れたリーダーは、組織の枠組みを超えて、広範に影響力を行使することができます。それは、取引先であったり、地域社会であったり、本来の組織におけるパワーが及ばないところであってもです。影響力が行使できる範囲の問題は全て、自分に責任があると「自責」の捉え方の対象を広げていくことができると、より優れたリーダーになることができます。全てのことを「他責」ではなく「自責」で捉える。言うは易く行うは難しかもしれませんが、リーダーに不可欠な考えです。



※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年3月28日公開の「リーダーと考える経営の現場・第5回 自責と他責」 を転載したものです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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