リーダーと考える経営の現場・第9回 愛され畏れられる存在

「リーダーと考える経営の現場」では、前回に続き、私が経営の現場で得た「気づき」に基づいて、基本となるリーダーシップの考え方について記載していきたいと思います。

今回のテーマは、優れたリーダーは、フォロワーから愛され畏(おそ)れられる存在であるということをご紹介したいと思います。前回ご紹介したサーバント・リーダーシップと同じように、「愛されること」と「畏れられること」は正反対の2つのイメージだと思います。この相反する2つのイメージを両立しているところが、優れたリーダーの凄さであり魅力なのです。

この「リーダーは愛され畏れられる存在でなければならない。」という考え方は、私が、20代半ばで、まだ駆け出し経営者だった頃に、過去に大臣を務めた経験のあるメンターの方から教えていただいたものです。

「愛されること」は、リーダーがフォロワーに笑顔で囲まれている様子をイメージしてもらうと分かりやすいと思います。子供が母親に対して抱くような愛情たっぷりな感情です。リーダーがフォロワーから「愛されること」が望ましいことは言うまでもありません。フォロワーに愛されるリーダーは、理想のリーダー像の一つだと思います。

これに対して、「畏れられること」は、子供が父親に対して抱くような尊敬と畏れの入り混じった感情です。ここで気を付けなければならないのは、「畏れられること」は、危害が及ぶことを心配してびくびくしたり怖がったりする「恐怖」ではなく、能力の及ばないものを畏れ敬うという「畏怖」なのです。

リーダーが組織を守るための非情さや胆力などを持ち合わせており、時にフォロワーや周囲の人々から畏れを抱かれなければならないことは、組織をまとめるうえで必要なことなのです。一度、リーダーが“刀を持っている”と認識されれば、フォロワーや組織に規律が生まれます。フォロワーに、このリーダーは何かあれば組織全体のために組織の敵を斬って捨てて返り血を浴びる覚悟がある人だと思われれば、リーダーは畏れられる存在になるのです。

さらに考えると、尊敬と畏れについても関連性があります。リーダーが組織の指示命令系統上の制度的権限など「パワー」を適切に行使できることは、フォロワーの尊敬を集める行為なのです。神話などで、なぜ年老いた村長に対して、フォロワーである若い村民たちに畏怖があるかというと、村長は適切に「パワー」を行使することができるからなのです。適切な「パワー」の行使は、自制心がなければなりませんし、何よりも経験が必要になります。適切に「パワー」の行使ができることが、村長に対する畏怖に繋がっているのです。自分勝手な「パワー」の行使は、フォロワーにとって尊敬に値しない行為であり、単なる恐怖でしかありません。

読者の皆さんの中には、「愛されること」と「畏れられること」を両立できるのか疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、結論からいうと、両立することはできます。なぜなら、この2つは求められる状況が違うのです。

理想では、平常時に、リーダーは、全てのフォロワーから「愛されること」が望ましいです。逆に、日頃から、全てのフォロワーに「畏れられること」は必要ありません。リーダーのいざというときの覚悟、いざというときの胆力を垣間見て、そこにフォロワーは畏れを抱くのです。歴史上の有名なリーダーたちのエピソードの多くに、フォロワーから「愛されること」を象徴するような無邪気なエピソードと「畏れられること」を象徴するような組織を守るための過激・苛烈なエピソードが、一人のリーダーに混在することからもこのことが分かると思います。

私の10年以上の経営経験では、経営の現場では、残念ながら、「愛されること」と(「畏れられること」ではなく)「怖れられること」のどちらか一方に極端に偏ってしまっている人が多いように思います。具体例としては、フォロワーに愛されたい八方美人な経営者やフォロワーを恐怖で支配する独裁的な経営者などが挙げられます。

リーダーがフォロワーから「愛されること」ばかりを望んで、リーダーが、フォロワーに対して、率直なコミュニケーションができなくなってしまっていて、フォロワーの成長に欠かせないことや組織として必要なことであっても指摘できない、注意できないという方も多くいます。逆に、最初は組織のためなど大義名分を掲げるものの、リーダーがフォロワーから「怖れられること」が組織運営上、望ましいことだと勘違いして、恐怖政治を行ってしまう方も多くいます。

本来、リーダーのキャラクターは、決して善人・悪人と一方だけの評価にならず、多くの場合は、複雑に入り混じった、多面的・立体的な評価なのです。リーダーは、フォロワーに対して、母親のように愛に満ちた存在であり、父親のように畏れられる存在でなければならないのです。この2つを一人の人格で両立できることが、優れたリーダーの魅力なのです。



※この記事は、WEBメディア「The Urban Folks」に連載されている2018年6月15日公開の「リーダーと考える経営の現場・第9回 愛され畏れられる存在」 を転載したものです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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