あの日の久之浜

311一周忌

東日本大震災から9年。あの日「3.11」がまたやってきた。

数か月後の初夏、かり立てられるように常磐線に飛び乗って東北を目指していた。
上野から30あまりの駅を数えただろうか、「久之浜」という駅で下車させられた。
そこから先の線路は、津波で失われていたのだ。

ちょうどこのあたりが津波被災地の南限。まるでこの世とあの世の気がぶつかり混じりあったような、なんともいえない不思議な光景が広がっていた。

ついさっきまでの生活の記憶が残されていながら、そこにはひとの気配のない静謐な沈黙が支配しているのだった。

当惑と混乱と恐怖の中で死んでいった魂たちの墓標のように、祠が残され、幟がはためき、門柱が屹立し…。

そんな場所に立って、いったい何ができたのだろうか。
何をすればよかったのだろうか。

ただただ、時化に荒れている東の海を見つめ流された人々の御霊に祈るしかなかった。

…あれから9年。
またあの場にもどってきたかもしれない御霊に、あのときと同じ祈りを祈ろう。


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