長崎シンポチラシ

「平和」へのアシストのセンス

朝日新聞から「国際平和シンポジウム2018 核兵器廃絶への道」の案内をいただいた。

朝日新聞は被爆地の広島でも長崎でも、このイベントを地道につづけていて、その活動には敬意を表しつつ、浅学・低意識の私は几帳面におつきあいはしていない。
時折、広島で琴線に触れる内容や人物が登壇されるシンポジウムに、たまに顔を出している程度だ。

今回は長崎での開催ということもあって、内容を読む前に他の資料の束に上積みするところだったのだが、講師・パネラーのメンバーに異色の顔があったので手をとめた。

なんと、あの「ジャパネットたかた」の高田明氏が登壇するというではないか。
その異種格闘技のようなキャスティングに興味をそそられたのだ。

通販大手の創業者で、あのテレビショッピングの名調子のおじさんという顔より、今ではサッカーJリーグ「V・ファーレン長崎」の社長としての活動ぶりが気になっている人物。その彼が「核廃絶」をテーマに長崎市長と対談をするという。

彼が「絶対戦争反対論者」であることは、小耳にはさんだというか、小目に留めていたが、それにしても異色と言えば異色だ。

今はワールドカップで生活のリズムを崩しながらも観戦するほど熱を上げているが、もともとサッカーにそれほど興味も知識もあるわけでもない。
それでも高田氏の動向が気になるというか、羨望も込めて注視しているのは、広島のサッカースタジアム問題の混迷ぶりに、ほとほと愛想が尽きかけているからだ。

詳しい経緯は知らないが、高田氏がV・ファーレン長崎の社長として顔を出すようになってすぐに同チームはJ2からJ1に昇格。そして今、新スタジアムの建設が現実のものになうとしているという。

今まさに、ロシアでサッカーのワールドカップが開催されているが、あのスタジアムがもし広島であってみたらどうだろうかー。

選手たちが入場するピッチからパーンして、原爆ドームがスタジアム越しに見える。そのとき、ゲームを前にしたスタンドの歓喜と興奮は、世界平和を希求する熱いうねりとなって世界に発信されることだろう。

そこでスポーツの祭典が行われるというだけにとどまらず、スポーツが内在する平和への志向が解放されて「世界平和」の思いが発信されるのだ。
その効果たるや、絶大なものにちがいない。
その光景を想像するだけで、身震いするほどの興奮を覚えるのだ。

その権利を、もうすぐ長崎は手に入れようとしている。それも、たったの数年の試行錯誤の果てに。

ひるがえって広島。
Jリーグ結成のときから加盟して何十年。ここ最近はリーグ連覇するなど、サンフレッチェ広島の活躍ぶりは目覚ましい。
もう10年以上も前からくすぶりつづけている新スタジアム問題が、その躍進ととも熱を帯びてきたものの、その具体的なロードマップは未だに描けないばかりか、手詰まり感ばかりが色濃くなってきている有様だ。

正直、長崎が羨ましいと思う。そして、つくづく広島は残念な都市だと思わざるをえない。
もちろんサッカースタジアムだけが、行政のマターではない。
しかし、この問題が一事が万事のひとつであることにちがいはない。

広島は行政の無策によって中国地方の経済的な中枢都市としての機能を岡山に奪われたといわれている。
そして今、平和都市としての存在感を長崎に奪われようとしているように見える。

もちろん平和都市に優劣はないにしろ、みずからその存在の可能性を閉じる必要はないだろう。

あらゆるスポーツの中でも、サッカーが平和を発信できる最高のコンテンツであることは万人が認めるところだ。
路地裏でボールを蹴っている少年少女を含め、競技人口が世界でもっとも多く、ワールドワイドな大会で、世界各国から参加が望めるのはサッカーしかないのだ。

わが野球は、残念ながら「ワールドベースボール」と銘打ちながら、参加国は数十か国に限られている。イメージとしても「世界平和」と結びついているとは言い難い。

広島にはこのサッカーと野球という二大スポーツのプロ球団が存在している。これ自体は僥倖といえるのだろうが、一方のプロ野球の球団が先行して肥大化してしまっためにサッカーの可能性の芽が摘まれているように見えるのは不幸なことと言わざるをえない。

もはや広島に先行して長崎にサッカースタジアムがつくられることは確実になった。
それが現実となって「国際平和マッチ」のようなものがそのスタジアムで開催されたとき、平和都市としての長崎は世界から脚光を浴びることになるだろう。

その時、サッカー日本代表が決勝トーナメントでベルギーに善戦しながら惜敗した清々しい悔いとはちがう後悔を、広島はしみじみと痛感することになるのではないだろうか。




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