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紙一重の違い

 秋の陽気に照らされた今日に久しぶりに友人と喫茶店に行くことになった。私から誘わないと遊ばない友人から会う約束を持ち出されることはめずらしい。私は日差しが少し暖かかったため、アイスにしたレモンティーをストローで吸っていた。

「最近、寝起きにお香の匂いがしたことがあって」
ん?とストローから口を離して視線を上げた先の彼女は深刻そうな表情のまま続けた。
「寝る前にアロマとか香水もつけてなかったのに、変な話だよね。」
と、苦い笑みを浮かべながらミルクも入っていないホットコーヒーに口をつける友人はなんとも妙な話を始めたものだ。夢か何かだろうと聞き流そうとチーズケーキをフォークで切り分けてから少しずつ食べ進めていると、彼女はカップの中を見つめながら口を開いた。

「その時、お母さんがお茶をくれてさ、普段飲んでるお茶なのにコップの中から強く匂いがするのよ」
「うん」
「まるで白檀の香りのような」

 がたっと机を思わず揺らしてしまい、それを心配されたけれどもそんな机のことよりも、その部屋に白檀の香りがすることが気になって「その匂いは君から出ていたの?」と聞くと
「匂い自体は寝ていた布団の上の空間くらいかな?お母さんに確認してもらったときは……、体からお香のお匂いはしてなかったようだけど。」
「そっか、良かった」

 そう、良かったのだ。
 一節によると死期が近い人からは体からお香の匂いがする場合もあれば、悪臭、所謂カビ臭いような腐臭は悪霊の仕業だと聞くこともある。もしくは……。
「あっ、見てみて!白檀の香りは神様が見守ってくれている場合もあるらしいよ!」
 携帯電話の検索履歴を見せて安心したような柔らかい笑みで「安心したわ」とこぼしていた。それからは気が緩んだように二人でティータイムを楽しんだ。

 私が友人と前日に男性の霊のようなものに夢現なときに二度ほど首を絞められたことは氷もなくなった温いレモンティーで流しておいた。

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