『しゃべるピアノ』☆彡
「おーい!今日は弾かないのかい?」
部屋の隅から、古びたアップライトピアノが声をかけてくる。
何年もほったらかしにされていたことに業を煮やしたのか、ある日突然しゃべり始めたかと思ったら、毎日自分を弾くようにとうるさく言ってくるのだ。
俺が無視していると、ピアノはさらに声を張り上げた。
「聞こえないのかな?もしもーし!」
しぶしぶピアノの前に座り、楽譜を開いた。子犬のワルツを弾き始める。ずっと調律していないせいで、微妙に音程がずれている。
「また同じ曲?」
うんざりした声を上げるピアノにうんざりして、俺は尋ねる。
「何でそんなに弾いてほしいんだよ。叩かれて痛くないのか?」
「ぼくは弾いてもらわないと音楽ができないもの。人間はいいよなあ。歌が歌えるから」
「お前だって歌えるんじゃないか?しゃべれるようになったんだから」
「そうか!」
しまった、と思った時にはもう遅かった。
それからピアノは、一日中調子外れの歌を歌うようになった。
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