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Suisuiが【 宮川慶子 】に22の質問をするインスタライブ-前編-

こちらは、2023年1月20日(金)にInstagramのライブ配信で開催された美術作家の宮川慶子へのロングインタビューの文字版アーカイブです。
音声データから文字起こしをした後、文章として読みやすいように編集や補足をしています。
ちょっと長いので記事を前編・中編・後編に分けて掲載しております。

中編はこちら
後編はこちら


宮川慶子とは


宮川慶子(みやがわけいこ)

1991年生まれ。2016年東京造形大学大学院美術研究領域修了。
ヒトおよび動物たちの生命のありかたについての思いや、小さくか弱い存在への共鳴や共感を平面、立体、インスタレーション、詩作など様々なメディアを使って制作を行う。近年では青森県立美術館や平塚市美術館での個展の開催や、奈良美智が選ぶ若手作家選抜「プロジェクトPHASE2014」を受賞する。


はじまりはじまり

【Suisui】
アーティストへ質問するインスタライブ配信ということで、今回は、現在ロンドンを拠点に制作されている宮川慶子さんに22個の質問を投げかけてみます。

【宮川慶子】
よろしくお願いします!


日本(上:Suisui)とロンドン(下:宮川)の
それぞれのアトリエからライブ配信


人物像

①出身大学と専攻やコース、卒業年を教えてください。

【Suisui】
まずは人物像質問です。
第1問の出身大学と専攻やコース、卒業年を教えてください。

【宮川慶子】
東京造形大学美術学科絵画専攻領域を2014年に卒業。
同じく、東京造形大学大学院の美術研究領域を2016年に修了しました。

【Suisui】
専攻ではどんなことを学べるの?

【宮川慶子】
造形大は版画科や日本画科がなく、絵画専攻領域という科の中で一括りになっています。油絵の試験方式入学後、1年次は幅広い技法を学ぶために、版画(エッチング/シルクスクリーン/写真)テンペラ、日本画などを一通り実習しました。

【Suisui】
入学時に最初から専門を決めてしまうのではなく、横断的に学んだ後に自分に向いた表現方法を選べるっていう。

【宮川慶子】
1年生の時は色々な表現技法を学んで、2年生から版画専攻領域/広域/概念/形象という4つの指標からひとつ専攻を選びます。そこで3年間同じ教授に指導いただき卒業制作まで過ごす。

【Suisui】
受験の時は油絵の具を使って受験?

【宮川慶子】
油絵。受験方法はデッサンと油彩なので、予備校で油絵科志望の人がほぼ100パーセント。

【Suisui】
ありがとうございます。大学院は色々分かれてる?

【宮川慶子】
美術研究領域とデザイン研究領域に分かれていました。


②そこを選んだ理由と、影響を受けたことはありますか?

【Suisui】
その大学と専攻を選んだ理由、またそこで学んだことだったりとか、在学したことで影響受けたことはありますか?

【宮川慶子】
選んだ理由として、当時、絵画専攻は実技試験1本だったことが第一...。
第二に、彫刻家の船越桂さんの出身校だったから。中学生の時初めて船越桂さんの作品を生で見て、素敵な作家さんだなと思い調べたら造形大だったので。
第三は、通っていた予備校の講師や卒業生の方で作家で活躍してる方の経歴を見ると造形大出身の方が多かったから!
色々理由をこねましたが、現役で五美大に入学して制作活動できるのだったらどこでもいいと思って受験してました。

【Suisui】
その後、船越桂さんの授業や指導を受ける機会はありましたか?

【宮川慶子】
もしかしたら積極的にアプローチすればお話しできる機会があったのかもしれないですが、私はできなかったです。ただ、特別講義で船越さんがお話される回は出席して、講義を聴きに行きました。


作品について

③作品のテーマやコンセプトを教えてください。

【Suisui】
憧れのアーティストの講義とか、講演を聞くことができる機会に恵まれたってことですね。
では、次は作品についての質問をしていきます。作品のテーマや、コンセプトを教えてください。

【宮川慶子】
幼少期の頃からずっと変わってないのだけど、生命について制作を続けています。「何か新しい発見をして、私の新しい発見をみんなに伝えるんだぞ」みたいなことではなく、日常の目には見えなかったり、なんか見落とされてるような存在を主役にして、私が生きてる限り、その存在を形に残し続けたいなと思い制作を続けています。


「いぬのひと」
2023
(個人蔵)


④人間ではない生き物、たとえば鹿やウサギや魚といった動物をモチーフにされていますが、それはなぜですか?

【Suisui】
次の質問です。人間ではない生き物、例えば、シカやウサギや魚といった動物をモチーフにされていますが、それはなぜですか?

【宮川慶子】
私自身も人間だけど、人間にあまり興味がないから。でも、それを本当に言うと生き地獄で生きることを放棄したいと思ってしまうので割愛します(笑)
作品の中に出てくる生き物は、私が出会ったことのある生き物や空想上の生き物たちが登場しています。
彼らの言葉は本当に理解し合うことはできない。言語が違うから真実はわかり得ないけれど、実直に生きていることには変わりない。その様子が、人間の表層を取り繕う姿とは異なっている、生命の根源そのもの。真っ直ぐな存在は私の作品を作る意義の中で最も大切なこと。だから作品の登場人物は動植物を選んでいます。

【Suisui】
野生の動物と、人間と暮らしている動物の違いはありますか?

【宮川慶子】
飼われている/いないで、純粋度が変わることはないと思っています。基本的に動物は生きるために動いている、生きる以外の何かの欲だったりは一切ないから(あったりして!)。
たとえ野生であっても、飼われてる飼育下における動物であっても、同じ純粋な存在だと思って見ている。ただ、私が描いているモチーフはどちらかというと、人間に飼育されているものが多いかもしれない。その理由は、自分自身が今まで生きてきた環境下で野生動物を見る機会が少なかったのが原因かも。図鑑を見て想像して生き物を描いたりするのは少し違うのかなと思っている。嘘ついちゃうのはダメじゃない?
自分が見たり触ったり、一緒に暮らしてきた動物たちを描いています。


⑤頭が2つ以上あったり、体が1つに繋がっていたり、体から何かがたくさん生えている生き物をよく作られていますが、彼らはなぜそのような姿をしているのですか?

【Suisui】
次の質問に移ります。純粋な存在として動物をモチーフに選ばれていますが、ただ動物が出てくるだけではなくて、時には頭が2つ以上あったり、体が1つに繋がっていたり、体から何かがたくさん生えてるような姿の生き物をよく作ったり描いたりしていますが、彼らはなぜそのような姿をしているのでしょうか?

【宮川慶子】
まずはじめに、私は奇形動物を扱っているのではないです。
何かを考えたり意思決定するとき、脳内にもう1人の自分は出てきませんか?「あ、どうしようかな、どっちにしようかな?」って時に「うーん...」みたいな。もう1人の自分と対話すると思うんだけど。悩んでいる姿だったり、何かを選択し続ける姿を作っています。頭が2つだけど双頭の意識は別々じゃなくて、元は一緒の子。いつも悩んでる人々。別の人格じゃなくて、どっちもその子で自問自答してる姿みたいな感じ。

【Suisui】
ほう。双頭の作品は自問自答している姿なんですね。
他の作品では、体から慶子ちゃんが「耳」と呼んでいるものがたくさん生えていたり、大きな頭の作品の周りに小さな耳のオブジェがたくさん置いてあったりだとかもしますね。耳がたくさん生えてる姿っていうのは、どういう状態なんですか?

【宮川慶子】
街中に行ったりすると、自分の思考回路以外の情報がすごい量で入ってくる。不必要な情報が濁流のように流れてくるように感じませんか。耳がいっぱいあったら、いろんな音が聞こえていいんじゃないのかと思うと同時に、情報がいっぱい体の中に染み込んでいって自分が消えていくような。そんなイメージでたくさん耳を描いている。


「夏の夜に」
2021
(個人蔵)

【Suisui】
耳は最初は生えてなくて、たくさん情報があるところに行くと、生えてきちゃうのかな。 聞きたくなくても聞こえてしまう受動的なイメージと、たくさん情報がある方がいいと思って「聞きたい」「知りたい」っていう能動的な気持ちの表れでもあるのかな。

【宮川慶子】
そうだね、聞き取れる以上の情報が入ってきちゃう。それを良しとしたいけれど身体が耐えかねるみたいな。 草間弥生さんの制作の言葉とかをお借りすると、自己消滅に近いイメージで、私は耳をいっぱい生やしている。

【Suisui】
自分と周りの境目がなくなって、自分自身もわからなくなって、耳に埋もれて消えてく…。確かに今の情報社会に生きる私たちの葛藤や矛盾にすごく共感できる作品だなと思いました。


⑥慶子ちゃんが「みんな」と呼んでいるものの正体は何ですか?

【Suisui】
そのような生き物を作られてきて、ある時からその生き物たちのことを「みんな」と呼ぶようになったかと思うのですが、慶子ちゃんが「みんな」と呼んでいるものの正体って一体なんなのでしょう?

【宮川慶子】
「みんな」は目には見えないけど、世界を静かに見渡すと必ず存在する、小さかったり見えにくかったりするけど確かに生きている生き物たち全てのことを私は「みんな」と呼んでいます。
どこにでもいる名もない生き物たち。それは人間であってもいいし、そこらへんの草とかでもいいし、地球上に存在している全ての生命体。どんな歴史にも残ることなく、たくましく生きながら静かに消えていく生き物たち全てのことを「みんな」って呼んでいる。

【Suisui】
特定の誰っていうわけではなくて?

【宮川慶子】
そう。すべての生きるものたち。


「みんな」
2022
(個人蔵)


⑦『ポケットモンスター』や『どうぶつの森』といった、たくさんの"生き物"が出てくるアニメやゲームにこれまで特に親しんできたことが日頃の様子から見受けられますが、自身の作品やモチーフへの影響はありますか?

【Suisui】
では次の質問です。『ポケットモンスター』や『どうぶつの森』といったたくさんの"生き物"が出てくるアニメやゲームにこれまで親しんできたことが日頃の会話や様子から見受けられるのですが、そういった作品は、慶子ちゃん自身の作品やモチーフへの影響はありますか?

【宮川慶子】
『ポケモン』のアニメは初代第1話から見ていた世代です。小学生の頃にアニメでトゲピーの物語があって。あまりにも可愛くて近付きたい一心でブラウン管テレビの画面に張り付いたらRGBの光が...。
「あ、3原色なんだ。現実にはいないんだ。」と我に返り絶望していた。でもある日「私も可愛いポケモンキャラ生み出せるんじゃない!?」と思って。今で言う二次創作ですよね。広告の裏紙に新キャラ量産してたんですよ。この過去が作品にも無意識に出ているのかもしれないです(笑)

でも私自身は、『ポケモン』や『どうぶつの森』を意識して制作してることは一度もないかも。ゲームやテレビは積極的に見せてくれない家庭だったのと、バキバキした色がどうしても好きにはなれなかったから。

影響というと、絵本の方が強いです。『ピーターラビット』ビアトリクス・ポターさん、『コーギービルの村まつり』ターシャ・テューダーさん、『のばらの村の物語』ジルバー・クレムさん。この絵本作家の3つの作品の方が結構影響を受けてるかもしれない。

【Suisui】
3人の絵本作家さんたちに共通するものってありますか?

【宮川慶子】
3人の作家さんとも絵本の物語の主人公たちは動物で、みんなで楽しく森だったりで日常を過ごしている内容なのかも。日々の日常が人間以外の姿と視点で描かれている。
「宇宙に行きました」「大スターになり特別になりました」とかではなく、「今日は川に行って遊びました」みたいな特別ではない内容。じっくり見ていくと、その子たちがどんなことをして過ごしているのかが絵の中に丁寧に描き込まれてる。


⑧詩作もしていますが、自身の作品群の中で詩はどういう存在ですか?

【Suisui】
次の質問で、絵画や立体作品の他に詩作もされていますが、自身の数々の作品群の中で詩はどういう存在ですか?

【宮川慶子】
作品と言葉は同じぐらいの重み。同等の扱い、それ以上でもそれ以下でもない。


⑨詩の持つ力や魅力とはなんですか?

【Suisui】
慶子ちゃんが思う詩の持つ力や魅力とは?

【宮川慶子】
短い言葉で心が揺さぶられること。歌だったり、詩を聞いたり読んだりすると一瞬で泣いてしまうぐらいの力を持ってること。

【Suisui】
長い文章もそれはそれで力があるんだけど、詩ってなんか宝物になったりするよね。

【宮川慶子】
詩の一節だけで今まで沈んでた心が明るくなったり、一節があるから明日も生きていけるんだっていう。エールになったりするのが素晴らしいなと思っていて。

【Suisui】
励まされたり、涙した詩がいつも胸の中にあって、時々思い出すだけで希望になったり、なにかあった時に心にぽっと火がつくような。慶子ちゃんの話を聞いてて、確かにって思いました。

【宮川慶子】
うん。ロック歌手とかも。私はフレディ・マーキュリーがめちゃめちゃ好きなんだけど、ライブで彼が一声あげただけで何万人もの観衆が同じ動きをして、泣いちゃうし、失神しちゃうし。あれすごいなと思っていて。歌、詩は本当に強い、憧れの存在だな。


制作方法

⑩制作に使っている素材や画材を教えてください。

【Suisui】
次は作品の制作方法についての質問をしたいと思います。慶子ちゃんは、絵画や立体だったり、色々な作品を作られているんですが、制作に使っている素材や画材の種類を教えてください。

【宮川慶子】
主にアクリル絵の具です。立体の時は粘土。
特殊なものは使っていないです。油絵の具の質感もすごくいいなと思い始めてきたので、油絵もそろそろ挑戦したいなと思っている次第です。
油の質感がいいっていうのは、速乾ではなく何日もネチネチと絵の具を触って絵を動かせるところ。3人くらいで1つの絵を完成させる遊びをここ1、2年やっているのですが、その時に油絵の魅力に引き込まれて。

【Suisui】
この間、faro神楽坂の個展を見に行かせていただいたんですが、絵に近づいてみたら生き物の目の中がキラキラ光ってて。よく見たら、ラメが一部分だけついてたりとか。異素材を混ぜたりするきっかけっていうのはある?


個展「私たちはどこにでもいる-We are everywhere-」展示風景
( faro神楽坂, 2022 )


【宮川慶子】
キラキラ良いな!みたいな幼児レベルで入れちゃった。
なんてことない瞬間にキラって光るのもありかなと思って今回入れております。むしろ、入れない方がいいかなっていつも考えながら入れてる...。

【Suisui】
遊び心ってことですね。

【宮川慶子】
そうですね、遊び心が吉と出るか、凶と出るかって感じ...。


⑪粘土で立体作品を作るときや、絵の具で平面作品を作るとき、はたまたインスタレーションを作るときなど、媒体によって作品への向き合い方や表現の性質に違いはありますか?

【Suisui】
では、次の質問です。粘土で立体作品を作るときや、絵の具で平面作品を作るとき、過去にはインスタレーションもありましたが、媒体によって作品への向き合い方、表現することの性質に違いはありますか?

【宮川慶子】
全部同じ。平等。ただ粘土を作ってる時は、直接形と接することができるから他の媒体以上にワクワクしながら作っている。逆に絵は冷や汗を流しながら描いているかも(笑)。と、緊張があったりなかったりしますが基本的には同じですね。

【Suisui】
緊張するっていうのはどういう違いなんだろう。

【宮川慶子】
触れられないものを触るのが絵。二次元だから触れないことに緊張が。粘土だと本物を直接触れられる。正解か不正解かが判断しやすい感覚になるんだけどね。あともうひとつ、描く枚数が足りてないんだと思います...。

【Suisui】
立体作品って実体があるから、触って存在を確認できるっていうか。そこに置いたら、塊を作ったら、世界ができる存在感があるんだけど、平面作品って存在を全部定義していかないといけない。自由度が高い分、担うものが多いよね。

【宮川慶子】
そう。その中で油絵は直接的に、絵と自分が接点を持てる感触がしたので油絵っていいなと再確認した感じです。


中編へ続く!


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