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無職本重版記念投稿② 『無職本』というタイトルにピンとくるあなたへ今伝えたいこと 著者:幸田夢波 公開

2020年7月3日に刊行した『無職本』の重版が決定しました。
この度重版を記念して『無職本』執筆者の一人である声優ブロガー幸田夢波さんに「コロナ前に書いた無職本と重版によせて今思う無職への想い」を綴ってもらいました。

ー本日の東京の感染者数は〇〇人で…
ー〇〇社が早期退職を実施…
ー何十年の営業の歴史に幕を閉じ…
ー都内の自宅で亡くなっているのを家族が発見し…

一概にコロナの影響とは言い切れないものもあるかもしれないけれど、暗いニュースが多いなと思う最近、胸がぎゅっと重苦しくなることがさらに増えたように思う。毎日繰り返される報道に大声をあげて耳を塞ぎたくなることもある。

『無職本』の執筆依頼を頂いたのが2020年の1月。執筆をスタートしたのも同月で、締め切りが2月末とのお話だった。ちなみに執筆依頼から出版までのお話はnoteに連載をしているので、出版に興味がある方はぜひ読んでみて欲しい。

この執筆依頼と締め切り日の日程を見てもらえればわかるように、『無職本』は実は新型コロナウイルスが猛威を奮う前に企画され、各執筆者に執筆された。

発売は2020年7月初旬。コロナショックの前に執筆され、ちょうどコロナの影響で生活が一変してしまった世の中に問いかけるようなタイミングで出版されたのが『無職本』なのである。(無事出版できてよかった…)

変わり果ててしまった日常の中で生き方や働き方に対して悩む人が多くなっただろう今だからこそ『無職本』を多くの人に読んで欲しいという思いがあると同時に、今だからこそ違う何かが伝えられるのではないかという思いもある。

先日toi booksさんに主催していただいた『無職本』刊行記念トークイベントで共著者である松尾よういちろうさん太田靖久さんとお話していた時に「今書いたらまた違った内容になりそう」というお話をした。

そんな『無職本』が重版になりました(!)

自分の文字が初めて書籍という形になって全国を旅している。それが重版になる。とても嬉しいです、ありがとうございます。

コロナの影響で生活に大きな変化があった人も多いでしょう。

無職本本編では私の話ばかりになってしまったので、こちらでは『無職本』というタイトルに少しでも興味を持ってくださる方へ、コロナショックの今だからこそ、伝えたいことを綴ってみようと思います。

今だから声を大にして伝えたい、「無職でも死なない」ということ

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「働かなければお金を稼げず、お金を稼げなければ食べられず、死ぬ」という強迫観念が誰にでもあると思う。
私も無職になる直前はそんな思いが強くあったので、多少の貯金をしてから無職になった。(結局口座残高は3桁になってしまうのだけど)

でもこういう悩みを持つ人は実際に無職になったことや働き口がなくなった経験がある人ではないように思う。

今は稼ぎ口はあるんだけど、もし無職になったら…という想像に押し潰されてしまう人が多いんじゃないかな。私もそうだったし。

実際に無職になってみると「無職でも死なないや〜」って感じられるもので、日雇いもあればクラウドソーシングとかでネットを使えばできる仕事もあるし、最悪家族や親戚、友達に泣きつけばいい。さらに日本の場合は生活保護もあるし、コロナの関係で今は助成金もたくさんある。

本当に無職になるとそういうことを調べ始める。生活保護はどうやってもらうのか、とか、日銭を稼ぐためにどうしたらいいのか、とか、お金のことをもう本当に死に物狂いで考え始める。税金とか確定申告とか投資とか、そういう勉強も無職になってからすごく熱心にし始めた。

実は「無職になって死ぬ」というのは難しくて、そんなことが当たり前に起きていたら、道に死体が転がるような国になってしまう。今の日本では、ちゃんと社会にセーフティネットが敷かれている。

だからリアルな話、無職になっても死なない。大丈夫。本当に困ったら手を差し伸べてくれる人がいる。

難しいことを勉強する必要はないけど、そういう最終手段みたいなものが日本にはあるということをまずは多くの人に知って欲しい。役所の人は案外優しい。

逃げても良いのだということ

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「このままずっとここで頑張り続けるんだ」と信じた道を歩く中で、急に「あれ、自分の人生ってそれで本当にいいのかな?」って思って私は道を変えた。

以前は迫りくる毎日の中で時折どうしようもない不安や絶望感に苛まれる時があった。でもその中で努力していくことが正しいのだと思っていた。

でもどうだろう、みんなそんな風に我慢して辛い思いをしながら生きてるのだろうか?

私は海外に行くようになって、「あ、もっと気楽に生きてる人いっぱいいるじゃん!」って思えるようになった。我慢は美徳、などどいう考えはとても日本的で、日本の価値観しか知らなかった私には「当たり前」だったけど、グローバル社会では結構「異質」みたい。

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びっくりするけど、本当に気楽に生きてる人ってめちゃめちゃいる。17時頃には仕事を切り上げて街で飲み歩きまくってる人が多い芸術の街ウィーンで、路上には音楽と感動とチップがあふれ、「何をそんなに頑張ってたんだろう」って思って笑ってしまった。

そして私もそんなふうに生きたくなった。

今までの道から逃げることでたくさんの人に迷惑をかけたと思うし、心配もしてもらった。

でも逃げた先にまた新しい仲間ができた。私の価値観が変わったことによって、今度はその新しい価値観に賛同してくれる人がいる。今は自分でコミュニティを作って、夢波サロンのみんなでワイワイするのが楽しい。みんなやってること、戦ってる場所は違うけれど、同じ方角を向いている気がする。

逃げていい。逃げて終わりじゃない。逃げた先にまた別の道があり、別の仲間ができる。逃げて一人になることはない。一人になるかもしれなくて怖いなら夢波サロンにきたらいい。

そもそも動物は天敵を見つけたら逃げる。なんで人間だけ逃げちゃいけないんだ。そんなのずるい。

ぜんぶ、出世払いにしよう

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声優としてデビューしたばかりの頃は学生だったので、先輩がよくご飯を奢ってくれた。先輩は言った、「お前に後輩ができたら、今度はお前が同じように後輩に奢ってやるんだぞ」と。

こういう奢り方をしてくれる先輩は声優業界では多い。事務所問わずで、違う事務所の先輩なのに奢ってもらったこともたくさんある。私は恥ずかしながら、まだそんな粋なことできるほど稼げていない。でもそういう粋な先輩になりたいなと思う。なんかすごい義理と人情!みたいな昔っぽい雰囲気だけどさ、そういうのっていいよね。先輩も先輩の先輩にそうしてもらってきた経験がきっとあるんだろうな。優しさが代々受け継がれて行くんだね。

だからお金がないときは「出世払いにしよっ」と思って逃げている。そのうちもっと大物になるから許して。そう思ってる笑

そうやって人に甘えられる時にいっぱい甘えておいていい。そんな経験がきっと「絶対かっこいい先輩になるぞ」という気持ちを強くするはず。

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あなたがもし『無職本』というタイトルに少しでも心が揺れるのであれば、ぜひここまで書いてきたことを胸に留めておいて欲しいのです。死なない、逃げていい、出世払いでいい。

都会にいると余計に、周りの人がみんな冷たいように感じることが多いけれど、まだまだ人間は温かい。困難の多い日々だからこそ、一人で悩みすぎずもっと他人に甘えて生きてもいいんじゃないかなと思う今日この頃です。

『無職本』では実際に私自身が無職になった時のお話を書いています。私は声優ブロガーとして活動していますが、無職に対して8人の全く境遇の違う執筆者が思うところを綴った本で、一口に無職と言ってもいろいろな捉え方があることがよくわかる本です。今まさに働きかたや生き方に悩んでいる人のヒントになればいいな、と思います。よろしければぜひ、読んでみてください。

幸田夢波(こうだ ゆめは)
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内容
どこにでもいる普遍的な人々が「無職」という肩書がついたときに考えていたこと、感じたことを、それぞれの表現方法で自由に書いてもらいました。
目次
無職ってなに?/松尾よういちろう
職業:無職/幸田夢波
無色透明/太田靖久
平日/スズキスズヒロ
底辺と無職/銀歯
僕、映画監督です!/竹馬靖具
浮草稼業/茶田記麦
本のなかを流れる時間、心のなかを流れる時間/小野太郎
著者プロフィール
松尾 よういちろう (マツオ ヨウイチロウ) (著/文)
1981年4月8日 愛知県名古屋市生まれ。
2008年~2020年3月までフォークロックバンド「井乃頭蓄音団」のオリジナルメンバーとしてボーカルを担当、フルアルバム6枚を発表。現在はソロで活動中。日本のフォークソングに傾倒しており、中でも高田渡、さだまさしに影響を受ける。家族や故郷を題材にした歌が多く、日常の些細な出来事を切り取り、優しく温かくユーモラスに描く。
フジテレビの音楽番組「お台場フォーク村デラックス」に出演して以来、THE ALFEEの坂崎幸之助氏から恩顧を受ける。FUJI ROCK FESTIVAL 2015(木道亭/Gypsy Avalon)&2016(苗場食堂)と、異例の2年連続出演を果たす。2016年出演の際は、鈴木慶一氏(はちみつぱい/ムーンライダーズ)と共演。ARABAKI ROCK FEST.2018ではフラワーカンパニーズ、あがた森魚氏、曽我部恵一氏他と一夜限りのユニットとして出演。鈴木茂氏(はっぴいえんど)、暴動(グループ魂)、樋口了一氏などとも共演。
松尾よういちろうHP: http://ma-yo.info
幸田 夢波 (コウダ ユメハ) (著/文)
声優ブロガー。オンラインサロン『夢波サロン』オーナー。高校生で声優デビューし大学在学中にアーティストデビュー。約8年間の声優事務所所属ののち、フリーランスとなりブロガーになる。ブログでは声優業界のあまり知られていない裏側の話やフリーランスとして働く上で必要な知識などの記事を公開中。
ブログ:幸田夢波のブログ(https://yumemon.com/)
Twitter:@dreaming_wave
太田 靖久 (オオタ ヤスヒサ)(著/文)
1975年生。神奈川県出身。2010年『ののの』で第42回新潮新人賞。2019年7月電子書籍「サマートリップ 他二編」(集英社)刊行。2020年10月単行本「ののの」(書肆汽水域)刊行。フィルムアート社ウェブマガジン「かみのたね」で『犬たちの状態』(共作/写真家・金川晋吾)を連載。その他、インディペンデント文芸ZINE『ODD ZINE』を企画編集したり、コンセプチュアル書店「ブックマート川太郎」を展開している。https://twitter.com/ohta_yasuhisa
スズキ スズヒロ (スズキ スズヒロ) (著/文)
1992年宮城県仙台市生まれで在住。小学3年生の時、「石ノ森章太郎のマンガ家入門」を読んでマンガを描き始める。著書に『空飛ぶくじら スズキスズヒロ作品集』(イースト・プレス)がある。第2種電気工事士、危険物取扱者などの資格を保有している。
銀歯 (ギンバ) (著/文)
名前 銀歯
年齢 39歳
住処 不詳
職業 底辺労働者
田舎で生まれ育ち、底辺労働を続ける傍らで、クルマで山道をドライブしながらYouTubeにて底辺労働者の日常や仕事のこと、自己哲学を延々と垂れ流すラジオ動画を投稿し続けている。期間工、ブラック企業、工場労働、零細企業で主に働く。
竹馬 靖具 (チクマ ヤストモ) (著/文)
1983年生まれ。2009年に監督、脚本、主演を務めた「今、僕は」を全国公開。2011年に真利子哲也の映画「NINIFUNI」の脚本を執筆。2015年、監督、脚本、製作をした「蜃気楼の舟」が世界七大映画祭に数えられるカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭のフォーラム・オブ・インディペンデントコンペティションに正式出品され、2016年1月より、アップリンク配給により全国公開。2020年夏より、映画「ふたつのシルエット」がアップリンク吉祥寺ほか全国公開中。
茶田記 麦 (チャタキ ムギ) (著/文)
1981年7月、水面と同じ高さの東京下町で生まれ、川を越え坂を上り山の手の学校に通ったため、どこ育ちと地名とともにアイデンティティを語ることが難しい。小中高をエスカレーター式の女子校で過ごし、早稲田大学第一文学部を卒業。現在は千代田区にて労働する会社員です。
小野 太郎 (オノ タロウ) (著/文)
1984年山口県生まれ。これまで東京堂書店神田神保町店、文榮堂山口大学前店、ブックセンタークエスト黒崎店で働いた。2019年秋、退職。現在、福岡県北九州市で妻とルリユール書店を営む。
HP http://reliureshoten.com

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