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jubeat版権曲シーンを振り返る【jubeat15周年企画】

こんにちは、ゲーム音楽DJのすいそです。

2023年7月24日に、KONAMIのアーケード音ゲー『jubeat』が15周年を迎えました。たいへんめでたい!

このnoteは、『jubeat』の歴史や楽曲の中でも自分が特に愛してやまない版権曲(音ゲーのために制作された曲ではなく、メジャーレーベルやアーティストとライセンス契約して収録された曲)にまつわるシーンについて綴ったものです。

ある程度俯瞰しつつもあくまで個人視点での観測史となります。何か少しでも、新たな出会いや発見の一助になれば幸いです。


■jubeat(2008):未来のジュークボックスはエレクトロポップの産声を上げる

FREE FREE / 鈴木亜美 joins 中田ヤスタカ (capsule)

『jubeat』の版権曲というと、まず思い浮かべるのがエレクトロハウス/エレクトロポップの系譜。当時の流行りとして他機種でも見られた傾向ではあったのですが、こと『jubeat』シリーズにおいては長らく受け継がれていた路線という印象があります。中田ヤスタカプロデュース楽曲だけでもcapsule「more more more」「PRIME TIME」、COLTEMÖNIKHA「そらとぶひかり」、MEG「PASSPORT」、きゃりーぱみゅぱみゅ「PONPONPON」「にんじゃりばんばん」他、そして米津玄師フィーチャーの「NANIMONO」と、シリーズ中期まではほぼ毎作何かしら収録されていました。その始祖がこの曲です。同時期にリリースされたPerfume「ポリリズム」(『pop'n music 17 THE MOVIE』収録)と比較してもハードなサウンドなのが『jubeat』らしいといいますか、メインストリームから少しはみ出た領域を持つ尖端的なポップスというのが、初期サウンドディレクションのコンセプトにあったのではないかと思える選曲です。ゲームセンターに突如現れた光る箱。スリムでシャープで未来的なジュークボックスから流れてくる音楽として、これ以上ない正解だったと今聴いても思います。

■jubeat ripples(2009):渋谷系の潮流、メタで拡張するゲームと音楽

Kiss & Ride / 中塚武

ナムコ(非サウンド職)退職後、ミュージシャンとして活動の幅を広げていく中塚武のソロアルバムから。エレクトロポップの系譜とも交わる(ネオ)渋谷系の流れを汲む楽曲です。ゲームでは後半が使われているため、明るいフレンチハウスのような印象ですが、フルサイズを聴くとハードエレクトロ色が強いんですよね。『copious』収録の「On and On」もフレンチハウス寄りの音使いだったので、「Kiss & Ride」を通しで聴くとアグレッシヴな出音とコードに新鮮味を感じられるかもしれません。あと『jubeat』と中塚武を語る上で外せないのが、『jubeat plus』で配信された「Your Voice」(原曲はVo.土岐麻子)を始めとする『きんいろモザイク』関連楽曲。そちらではスウィング~ビッグバンド系のジャズサウンドが全面に出ているので、また全然違った印象で聴けると思います。ちなみにこの「Kiss & Ride」が表題のアルバムには「My Honey X」という『ニューラリーX』サンプリング+ギターポップ+ヒップホップという鬼アツい楽曲も収録されているのでゲーム音楽ファンはチェックされたし。ほかにも『jubeat ripples』の前年に出た「KONAMI ADDICTION ~FOR ELECTRO LOVERS~」では『がんばれゴエモン』でハードハウスをやっていたり、ここ最近では『ウマ娘』のリミックスなんかも手掛けていて……と中塚武を語り始めると止まらなくなるのでこの話はいずれまた。

■jubeat ripples APPEND(2010):オタクに優しいギャル、登場

Jump Pump / miray

『jubeat』シリーズの狙いとして、プリクラやプライズ目当てでゲーセンに訪れる非ゲーマー層や、『頭文字D ARCADE STAGE』『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』を仲間内と遊ぶ若者層を取り込むという目的が確実にあったと思っています。同じ部署の先発機種『ギタドラ』シリーズもその役割を担っていた部分があったと思いますが、あちらはどうしても収録曲が音楽性に引っ張られてしまうんですよね。そんな背景もあってか『jubeat』はハウス、レゲエ、ヒップホップといったウェーイ系パリピ音楽が定期的に供給される音ゲーになりました。そして、ギャルやヤンキーがウェイウェイと『jubeat』を遊び始める一方で、とある逆転現象が起こります。そう、音ゲーオタク君がパリピ音楽と出会うわけです。奇しくも五鍵『beatmania』は元々ハウス、レゲエ、ヒップホップから始まったゲームですし、『ポップン』や『IIDX』のハチャメチャな音楽性に飼い慣らされた雑食モンスターの音ゲーマーにとっては、どんな音楽もある意味フラットな攻略対象でした。この、ゲーマーが普段出会わない音楽を教えてくれる『jubeat』という存在がどれだけのオタク君に影響を与えたか。少なくとも自分は『jubeat』収録曲の無差別摂取によりかなりヘキが歪んだ自覚があります(そうでないとこんなnote書かない)。mirayの「Jump Pump」はレベルもEXTREMEが7と、完全にオタクに優しいギャルでした。

■jubeat knit(2010):全方位爆撃スナイパー

Kick It Out / Boom Boom Satellites

『jubeat』版権曲の尖り具合とレンジの広さは3作目『knit』にして極みに達していたと思います。ぜひBEMANI Wikiなどで当時の収録曲を見てきてほしいのですが、アニソン、懐メロ、クラブアンセム、クラシックに加えて、渋谷系、ロキノン系、ヴィジュアル系、ウェイパリピ系と節操の無さがスパークしてます。そんな中でも個人的に思い出深いのがこの曲。『jubeat』では未知の音楽と出会える楽しみもありつつ、当然好きなアーティストの曲が収録されることの喜びもあったのですが、まさかBoom Boom Satellitesが収録されるとは思わず、全方位爆撃に漏れなく撃ち抜かれていたのでした。しかも絶妙にオタク心をくすぐってくるといいますか、『リッジレーサーV』や『アップルシード』(後に『jubeat plus』に「DIVE FOR YOU」が収録)履修組を小躍りさせるチョイスなんですよね。当時版権曲では唯一のレベル10ということで、なんとなく優越感に浸れるオマケ付き。そして自分にとってはたまたまBoom Boom Satellitesだったというだけで、これだけ幅広い曲が揃っていたわけですから同様の小躍りが各界隈で巻き起こっていたのではと察せられます。Fantastic Plastic Machineの「paparuwa」やDarudeの「Sandstorm」なんかは特に刺さった人が多かったのではないでしょうか。

■jubeat knit APPEND(2011):ワンコイン渋谷系コース

Dough-nut's Town's Map / Plus-Tech Squeeze Box

『knit』といえば渋谷系の潮流がついに波濤になって押し寄せてきたシリーズでもありました。まずPizzicato Fiveの「大都会交響楽」が収録されたことが異常事態で(音ゲーマー的には『GOTTAMIX 2』収録「ゲームの達人」の小西康陽、セガっ子的には『クロス探偵物語』の曲)、さらにエイプリルズの「Shine×Shine×Shine×Shine」、そしてPlus-Tech Squeeze Boxの「Dough-nut's Town's Map」まで登場するという一大事。『pop'n music 14 FEVER!』(2006年)収録の「BABY P」(パニックポップ)から5年越し、収録アルバム「Cartooom!」のリリース(2004年)まで遡ると7年越しです。この2004年というのがミソで、「大都会交響楽」が1997年、「Shine×Shine×Shine×Shine」が2010年、つまり「Dough-nut's Town's Map」はちょうどその中間に位置する曲なんですよね。懐メロでも新曲でもなく、明らかに狙い撃ちしてます。ともあれこれにて、ワンコインで渋谷系~ネオ渋谷系を一気に縦断するドリームプレイができるようになったというわけです。尚、ハヤシベトモノリサウンドは『どこでもいっしょ』『もじぴったん』『シンクロニカ』『ガールフレンド(仮)』『オルタナティブガールズ』など意外とゲームとの接点は多々あったりするので、いずれ別で綴りたいですね。

■jubeat copious(2012):前のめるロック、メディア化する音ゲー

MirrorDance / androp

アルカラ、Fear, and Loathing in Las Vegas、[Champagne](後の[Alexandros])といった、当時まだメジャーデビューして間もない新進気鋭バンドがこぞって登場します。『knit』でもこの兆候は見られましたが、こういったJロックの潮流が一つの軸として効いてきたのは『copious』が顕著だったように感じます。当時のプレイヤーの感覚ではこの頃既に『jubeat』は音ゲーどころかゲーセンの花形になっており、『ギタドラ』の予算が回されていた……とまでは言いませんが、明らかに他音ゲーへのハブとしての機能を期待されていたとは思います。連動企画「ギタ・ドラ・jubeat 大夏祭り」が行われたのもこのシリーズでしたし。カヴァーでもいいからBUMP OF CHICKENやUVERworldの曲を入れたり、マキシマム ザ ホルモンやTHE YELLOW MONKEYといったビッグネームを呼んできたりと、画策が垣間見えるラインナップ。そしてここでもまた、音ゲーオタク君は未知の音楽と邂逅していきます。andropは『copious』稼働前年(2011年)にメジャーデビューしたクロスオーバージャンル系のロックバンドです。「MirrorDance」は特徴的なリズムのクラップにリバーブの効いたギターが乗ったポストロックで、『beatmania IIDX 9th style』の「Dreamin' Sun」が好きだった自分にこれがまあ刺さった刺さった。andropは後に『スターオーシャン5』の主題歌を担当しますが、章頭の面々含め『jubeat』スタッフの先見の明が光りまくってますね。

■jubeat copious APPEND(2012):臨界点にあるカオスな大衆性

WAVES; / Q;indivi+WISE

『jubeat』の版権曲ってヴィレヴァンっぽいと思いませんか。オタクもギャルもヤンキーもポップカルチャーもサブカルチャーも取り込んだ結果、なぜか一貫性を感じるセレクトショップとして成立してしまっているんですよね。自分がQ;indiviの名前を知ったのは、当時ヴィレヴァンでパワープッシュされていた「Chill SQ」(okadada、ケンモチヒデフミ、RE:NDZといったエグいメンツでローファイヒップホップブームよりずっと先にチルいゲーム音楽アレンジをやっていたオーパーツコンピ)収録の『FFVI』「アリア」のアレンジでした。後に、このQ;indiviの中心人物がJ-POP界のウルトラヒットメーカーであり元気ロケッツの「Heavenly Star」(『ルミネスII』収録)を手掛けた田中ユウスケと知って腰を抜かしたのですが、この「WAVES;」という曲もかなり「Heavenly Star」みが深いエレクトロハウスです。しかもWISEのラップにオートチューンの効いたヴォーカルまで乗ってて、この1曲でオタクもギャルもヤンキーも狙いに来てるわけですよ。とんでもねえです。『jubeat』というゲームのカオスな大衆性を象徴する楽曲だと思ってます。


自分が語れる『jubeat』版権曲史はここまでです。続く『saucer』では楽曲入れ替えが行われたこともあり、版権曲が持つ野心的で先進的な『jubeat』らしさのようなものは次第に薄れていったように感じます。

一応少しだけ語っておくと、『saucer』で「LANA」という一瞬の煌めきの後に「ひなビタ♪」という化け物コンテンツが爆誕し、音ゲーマーをターゲットとした楽曲やアニソンの割合が増え、広さより濃さを重視したマーケティングにシフトしていったような印象があります。他社音ゲーやスマホ音ゲーの台頭で、音ゲーマー人口がそもそも増えた影響もあると思いますし、かえってパイを取り合うような状況になってしまったせいもあるかもしれません。

個人的には物足りなさをどうしても感じますが、ボカロやVsingerなどトレンドが変遷する中でも、時たま尖った曲を入れていて「おっ」と思うことはやっぱりあります。パスピエ「MATATABISTEP」(『jubeat prop』)、水曜日のカンパネラ「ディアブロ」(『jubeat Qubell』)、SIRUP「Do Well」(『jubeat festo』)、白上フブキ「KINGWORLD」(『jubeat Ave.』)などなど。

つい先日、最新作『jubeat beyond the Ave.』が発表されましたが、今度はどんな版権曲が入るのでしょうね。「おっ」と思ったら、何かまた書きたいと思います。

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