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あんこもちを買いに(ショートショート)

こんにちは彗星です。ショートショートを投稿します。

ある宝石ばかりの国にお爺さんとお婆さんがいました。そこでは全く食料が取れませんでしたが、外に出る時お爺さんかお婆さんが持っていた宝石しか外に持ち出せず、他の人が宝石を持ち出したらなぜか空気にほろほろ溶けていくので、彼らは宝石を売って生きていました。

ある日のことです。
「お爺さんや、また宝石売ってくれんかね?最近ろくなもんを口にしていないでしょう。」
「婆さん、どう考えてもそれはないじゃろう。この間「ずわいがに」とやらをばあさんが1人で食べていたじゃろう。しかもこの距離はきついんじゃ。歩いて2時間、森の中は命懸け…。もう少し先でも…」
お爺さんの目には一瞬暗いくらい色が映りました。
「いやじゃ、いやじゃ!わしはあんこ餅が食べたいんじゃ!」
「なるほど、そういうことかい。いくら欲しいんだね」
「ざっと一万個」
「ほーう」

お爺さんは10分ほど唸っていましたが、ふと立ち上がって家のすぐ近くにあったダイヤを力ずくでもぎ取り、
「じゃあ行ってくる」
と言ってニヤリと笑い走り始めました。
お爺さんは小さい頃、50m走は5秒台でした。長距離走も速く、学校の中でお爺さんに勝る人はいませんでした。

「はぁ、はぁ。遂にここの森まで来たか。」
休憩したお爺さんの目の前には、薄暗くどんよりとした雰囲気の森が構えています。お爺さんは構えのポーズを取りながら中へ入っていきました。
宝石だけの村に人があまり住んでいない理由はこの森があったからなのです。

道すがらお爺さんは襲いかかってくる熊、蛇、土砂たちを眺めながら森を抜けました。後には生き物の跡がないような綺麗な一本道ができていました。
「さて、あんこ餅はどこかな?」
目の前には立派なお城が聳え立っています。お爺さんはまずそこの王様に会いに行きました。そしていつものように宝石をお金に変えてもらいます。ピカピカに光ったお金を見ながらお爺さんはほくそ笑みました。

お爺さんはお金を貰った後、いくつか買物をしました。

「あんこ餅は、、。あった!」
「いらっしゃいませ。あんこ餅はいかがですか?」
最後に鼻腔をくすぐるような甘いあんこの匂いに釣られて店の前に来ると、お爺さんは早速お婆さんの要望を伝えます。
「あんこ餅を1万個よろしく。あ、あとうちの婆さんは味にこだわるので、このさとうを使ってください」
「あ、は、はい」
1万個という数に怯えながらもお金には目がないのか、そこのおばさんは
「後二日待ってくれたらできるよ」
と言いながらあんこ餅を作り始めた。

二日後。お爺さんは満面の笑みを浮かべてお店のおばさんからあんこ餅1万個を受け取ると、大きい荷台を用意してそこに載せ、森の中へと入っていった。

森の中では動物たちは恐れをなして出てこなかった。
ああ、出てきたらわしがコテンパンにやっつけてやるのに。

宝石の村に戻ると、お爺さんはニッコニコと笑いながらあんこ餅を差し出した。
「お婆さんや、これを持って帰ってきたぞい。勿体無いから全部食べておくれ」
そう言った途端お婆さんは口を大きく1mぐらい開けて一気にあんこ餅を食べてしまった。すると、お婆さんは顔が真っ青になり出した。

いきなりググッと唸り出したお婆さんを見て、お爺さんは満足そうにいう。
「不味いだろう、不味いだろう。お店の人に砂糖の代わりに塩を入れてもらったんじゃ。「ずわいがに」の恨みは強いぞぉ」

結局お婆さんは全部飲み込んだが、どうやら逆にその味がくせになったようで、
「許さんぞ!まあ美味しかったから許すか」
などと言っていたとさ。