保育士の一斉退職について現役保育士が考える
保育士の一斉退職。度々騒がれ注目されていますね。4月を迎えるタイミングで退職を考えている保育士も多いのではないでしょうか。 私は現役保育士ですが、環境の悪さに決して他人事ではないなと思っています。私の職場も運営側への不信感により一斉ではないもののポツポツと減り、また保育士確保が難しいのか増えないため更に不満は増え 頭に退職が浮かぶ日々です。
保育士の給料の低さなどが注目され始め、処遇改善など手当ても少しずつ増えたように思いますが、地方やまた処遇改善でも役職によって違うなど格差もまだまだあるかと思います。「保育従事職員宿舎借り上げ支援事業」の制度により家賃手当などもあり利用すれば一人暮らしの方でも生活できるようになりました。しかしこれらの手当も一時的なものかもしれず今後継続されるのかどうかもわかりません。
もちろん福祉・介護の方も同様に問題を抱えていらっしゃると思います。
公立の保育士さんは公務員ですのでまた異なります。保育園にも認可保育園、認可外保育園、小規模保育園、認定こども園など様々ありますが私は認可外と認可(小規模)で働いた経験からそちらの視点で書かせていただきます。
私は保育士の資格は保育士試験で取得しました。高校では進路相談で保育を勧められたこともありますが小さい子とはあまり関わったこともなかったし「保育士=大変。給料もそんなによくない」と知っていましたので、保育士を目指すつもりはありませんでした。しかし進学は今思えば無意識のうちにこども関係の勉強だったなあと思います。無資格で認可外の園で働いていましたがあまりの環境の悪さと先輩が虐待をし始めたことに恐怖を覚え辞めました。年齢が若かったこともありますが資格や知識がちゃんとあればもっと改善できたかもしれない子どもを守れたかもしれないと悔しく思いました。その後は全く関係のない職種でしたが、働いているうちにやはり資格を取ろうと決め保育士資格を取得する勉強を始めました。
・保育士資格を取得していざ転職
保育士試験に合格し、認可園で働こうと思い求人を探しました。保育士専門の求人サイトを利用したので探すのには困りませんでした。
「まあ給料はこんなもんだよね」という感じです。でも元から低いイメージが強かったので思ったよりはいいのかなという印象もありました。
しかし地域によって給料が全く違ったので実家から1時間程かかるところで働くことに決めました。
・保育士になったわけ
後輩に雑談がてらよく聞きます「どうして保育士になったの?」と。大体「小さい子の面倒をよく見てたから」とか「子どもがすきだから」とか。「子どもの頃保育士さんに憧れて」なんて方もいます。
こどもが嫌いなのに保育士になる人は多分ほとんどいない
と思います。そして給料によって将来を決める人はまず保育士を目指さなかっただろうと思います。
「給料低いのが分かってて保育士を目指したくせに低いとか文句言うな」と思われる方もいるでしょう。これについて私も考えました。
・給料低い
・仕事が大変
大学・短大を卒業し資格を得て保育士になった方は多いです。「すきなことを仕事にしたい」と誰でも思うはずです。子どもは可愛いし、やりがいがとてもあります。その気持ちは給料や大変さよりも勝ります。給料低いけど子どもが好きだし と好きなことだからみんな目指した筈です。
保育士を辞める理由
一斉退職も話題になり待機児童など保育士が足りないと手当で給料を上げたり色々な施策をされていますよね。
退職者の主な理由は「賃金が低い」とされています。しかし低いというよりは「賃金に見合わない」という事です。
想定外の事が良く起こります。それは大人と違って身体的に未発達な部分が多いからです。転んでとっさに手をついたり危険を危険だと察知して避けたりできない分怪我のリスクがあります。そしてあるいは保護者のクレームにもつながります。責任が重い職業です。
怪我をしないように注意して見守っていても怪我は必ず起こります。0には絶対になりません。しかし怪我を起こさないようリスクを減らす努力を日々しています。まだ言葉が未発達な子どもは自分でしっかり話せないので頭をぶつけた時は勿論、「蚊に刺された」「お友達とぶつかってしまった」「転んでしまった」という事も細かく保護者にお迎えの時話しています。後から「この傷なんですか?」と言われるのがほんとに怖いです。
人間関係もとても重要です。パワハラやセクハラもありますが、専門職としての誇りや考え方がしっかりある、保育観がそれぞれにあり保育士同士や運営と意見がぶつかることも多いです。それは子どもの事を保育士が第一に考えているからこそ。子どものために良い環境にしたいだとか子どものためにを考えなければそもそも意見のぶつかることもないでしょう。
重い責任だけではなく、環境も重要なのです。
人間関係を円滑にするためには、園長や主任の存在がとても重要です。高圧的な言い方や態度、コミュニケーション下手な園長、主任は 論外です。保育士たちは日々保育に悩んでいます。このやり方であってたかなとかこの言い方よりいい言い方あったかなとか。その時に相談できない頼れない上司の下には誰もついてきません。
辞めたいけど、担任だった子たちの卒園を見届けたいだとか 中々辞められない人が大勢います。 子どものことが大好きだから自己犠牲になりやすくて中々抜け出せない人が沢山います。4月にクラスが変わるタイミングで辞めていく保育士も多いです。年度途中で辞めてしまう方もいますがどうか「責任感がない」と責めないで欲しいのです。私自身ストレスが重なり休職する事もありました。子どものために自己犠牲になりやすい保育士たちは限界まで我慢してしまいます。自分の心身を守る権利が誰にでもあるはずです。一斉退職=責任がないな と背景も考えずに責めるべきではないのです。
子どものために辞める選択
「こどものために」を保育士は常に考えています。
パワハラ・子どもへの虐待はもちろん、保育士たちがストレスを大きく抱えている環境に居るこどもたちは幸せでしょうか?
それだけではなく、こどもの「安全」を守れない場合もあります。例えば子どもの年齢・人数によって保育士の配置人数というものは決まっていますが、保育の中には「発達障害」などの子どももいます。ADHD、自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群、学習障害など。医師から診断された場合は規定の保育士人数にプラスして配置される加配保育士がつけられますが、中には診断されてない「グレー」と言われる子たちも近年増えてきています。個性としての一部もありますが、保育士の関わり方によって落ち着いて行動出来たり、その子の良い所を伸ばしてあげられるはずなのです。
配置人数がギリギリの場合は、その子たちにじっくりついて関わってあげられる余裕がないのです。それ以前に全体的にこどもを見なくてはいけなくなるため、一人一人との関わりができない状態になります。集団保育では集団行動に付いてこられない子は「置いてけぼり」になってしまうのです。
保育園は集団で生活しているわけですから「時間」があります。「早くして」とつい言ってしまう状況も生まれやすくなってしまうでしょう。
自分の話をちゃんと聞いてくれる、認めてくれる、愛してくれる。それがこどもの安心感、よい関係を育てていきます。それによって落ち着かない子、「ちょっと気になる子」グレーゾーンの子はちゃんと大人を信じるようになって話を聞いてくれるようになります。
「個性」を大事にしていくのがこれからの時代に合った保育・教育なハズなのに「個性」を大事にしてあげられないギリギリな環境が保育士としてとても苦しいです。
そういったこどものこと、環境について保育園運営側が保育士の人数についてよく考えてくれるならば良いのです。人件費削減でギリギリな人数が危険なことが起きやすい状況を生み、保育士も子どももストレスを抱える状況になり、「幸せじゃない」環境になってしまいます。こんな環境に自分の子どもを預けたくないでしょう。
中々変わらない保育の態勢。こどもファーストになれない環境。虐待・パワハラ、ストレス。給料の問題。ギリギリまで追い詰められた保育士たちの話をちゃんと聞いて改善してくれれば一斉退職なんて最も辛い選択にはならなかったのに。ちゃんとこどもと保護者に笑顔で「ありがとう」ってお別れしたかったのに。一斉に辞める事でしか環境が変えられない状況にあったんですね。
保育士の一斉退職には様々な思いが絡まっている社会問題だと思います。もちろん大きい責任に対して保育士の給料の問題もありますが、それ以前に「環境」を変えていくことに社会がもっと注目するべきなのです。保育園の内部だけでは中々変わっていけません。運営の意識を変える事、しっかりとそれを指導すること。書面だけでは中々見られない内部の事に注目して欲しい。「一斉退職」という選択しかなくなる前に保育士たちの叫びを聞いてください。
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