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うんこ

先日、ものすごい便秘になった。

わたしは幼少期から便秘体質で、大人になってからも度々硬い便に苦労してきた。

腸が超鈍感らしく(腸だけに)、3日便通がないことは珍しくない。
そんな状態ほっとくなよとお思いと察するが、わたしは愚かなので今回の便秘に陥るまで深刻に考えていなかった。

前日の夕方、便意はあるのに、なんかいきんでも便が出ないな、と思った。
こういう時は小林製薬のオイルデルに縋る。
これまで多少硬い便は、これを飲むとつるんと出てきてくれた。

翌日、出社して仕事をしていると、再び便意が来た。
トイレに座りいきんでみたが、昨日と状況がまったく変わっていない。
焦る。
オイルデルを追加で飲む。

昼過ぎ、超絶な便意が来た。
便意というよりむしろ腹痛で、下痢の時の痛みだった。

トイレに行くが、お腹が痛いのにまったく便が出ない。
パニックになった。
めちゃくちゃいきむが出る気配がない。

うんこがでない。
考えてみれば5日くらいでていない。

いつもなら浣腸でなんとかできるが、お腹がすこぶる痛いので、ただ事ではないと思った。
トイレの神様がいるなら助けて欲しい。
震える手でスマホを操作し、近くの下半身関係の病院を探した。

お腹は痛いが、便が出ないので、漏らしたりしてバイオテロを起こすことはなさそうに思えた。仕事場に戻り、何とか定時まで耐え、病院に直行した。

担当してくれた女医さんはとても優しく、「今日、ここで、何とかしたいですよね」とわたし聞いた。
わたしは「そうですね」と答えた。
先生は「それでは、看護師さんに、取り除いてもらいましょうか。摘便っていうんですけど」と続けた。
わたしは「そうですね」と答えた。

摘便。
文字通り、摘出するのだ。便を。
この硬すぎるうんこをなんとかするには、物理的対処は非常に効果的な気がした。

もう、ずっとおしりの穴のところにうんこがある。
このうんこがおしりの穴のあたりに存在していなかった頃を思い出せない。

わたしは病院が指定した部屋着みたいなズボンに着替え、肛門を浮かせて椅子に座って待った。

しばらくすると呼ばれ、カーテンの向こうに連れていかれた。
ベッドにはペットシーツのようなものが敷かれており、潤滑剤が置いてあった。よく就活の面接で「自分自身を物に例えてください」と言われてみんなが答えるやつだ。

ビニールのエプロンと手袋をした摘便完全装備の若い女性の看護師さんが現れた。

看護師さんはお辛いですよね、と気遣ってくれた。
「おしりを出して壁にむいて横向きに寝てください」
と指示された。
わたしは尻を出し、壁を向き、思わず
「すみません」
と懺悔した。

30にもなって、こんな酷い便秘になり、自分ではなすすべもなく、自分よりも若い未来ある看護師さんに尻をむけている。

「すみません」

わたしは壁に向かってもう一度懺悔した。
歴史の教科書に載っていた嘆きの壁を思い出した。

看護師さんから力を抜くように言われ、摘便が始まった。
牛の直腸検査の実習をした時のことを思い出した。まさか自分がされる側になる日が来るとは思わなかった。

トイレ以外で便意は我慢するものと脳が覚えているので、うんこを出すためにこんなことになってんのに、うんこを我慢しなくちゃ、という意識が立ちはだかる。
いきめますか?と看護師さんに言われるまでいきむことを忘れていた。

途中途中で呼吸をととのえながら、なんとかいちばん硬い便が摘出された。

正直トラウマになるレベルで辛かったが、うんこがでない苦しみから開放されるなら耐えられる辛さだった。

トイレ行きます?と看護師さんに聞かれたが、摘便の直後で疲弊と混乱しており、なぜか尿意を催したことを伝えたら、看護師さんはウケていた。

看護師さんにトイレに案内された時、「1番硬い栓になってたものは出たんですが、まだ硬いのがあるみたいなので、出ないかも……」と言われてゾッとした。しかし座ってみると便意が来て、いつも通りにいきむとアッサリ出てほっとした。

便が出たら流さず看護師さんに見せるように言われていたので、嬉しいときの犬と同じテンションで看護師さんに出したものを見せた。

わたしの立派なうんこを目にした看護師さんが、「わー!良かった!これで大丈夫だと思います!」と喜んでくれ、わたしたちは小さく拍手して盛り上がった。
30にもなって、うんこをして人から喜ばれることがあるとは思わかなった。
人生は何があるか分からない。

看護師さんが「出てきた便見ますか?」と言った。
わたしは「いいんですか? 見ます」と言った。

看護師さんは便をつつんだペットシーツのようなものを広げた。
ウサギのフンのようにコロコロした便が集まって、馬糞の大きさくらいの巨大なうんこがいた。
さながらスイミーのようだった。

肛門の違和感はすっかり消え、普通の感覚が懐かしく思えた。

たかが便秘。されど便秘。
今回の経験で、二度と人様にうんこをとってもらう事がないよう、水分補給を徹底することを心に誓った。

あと、ケツの穴に指を突っ込まれても、別に奥歯はガタガタしない事がわかった。

某病院の看護師さん、先生、ほんとうにお世話になりました。
ほんとうにごめんなさい。
水、めちゃくちゃ飲みます。

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