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フランスの映画監督、ジャン・ジャック・ベネックスの訃報を聞いて、あらためて彼の作品を振り返った。

今月の13日、ジャン・ジャック・ベネックス監督が長年の闘病の末、亡くなったとニュースで知った。
ジャン・ジャック・ベネックス監督といえば、「溝の中の月」「DIVA」「ベティ・ブルー」「IP5」「ロザリンとライオン」などなど、たくさんの名作を生み出した監督だ。
特に「ベティ・ブルー」は、世界中で大ヒットし、監督の代表作となった。

私が「ベティ・ブルー」を見たのは、二十歳くらいだったと思う。
激しいセックスシーン、ベアトリス・ダルが演じるベティの愛と狂気、全体を彩る鮮やかな色彩、そして激しさの中に潜む儚さや悲しさを見事に表現したサウンドトラック。
その全てに圧倒されて、衝撃を受けた。
「感動」という言葉では到底表せない・・強烈な体験だった。

(左)裸にワンピース?若く豊満な体を惜しげなく見せるベティ。
(右)束の間の、二人の幸せなひと時。

最初のベティとゾルグの幸福絶頂な時からの、坂を転がり落ちるような不穏な展開。
ベティの病んでいく精神が、若く豊満な体をも傷つけていく、そのやるせなさ。
深く愛していても、ベティを救えないゾルグの辛さ。

「女」の典型的な良いところと悪いところを詰め込んで凝縮したようなベティみたいな女性がいたら、正直絶対に関わり合いたくないと思うし、そんな女性を受け止められる男性も少ないだろう。
でも、ベティの芯に「愛」と「純粋さ」と「悲しさ」が潜んでいるのが表現されているからこそ、ベティに強烈な魅力があるのだ。

お互いがどんなに愛し合っていたって、別々の人間であり、「孤独」なんだと突きつけられる。
でも、最後にはベティとゾルグは一体になるのだ。
結末はまた、かなり衝撃的なのだけど・・・。

若く奔放な魅力を振りまくベティ役のベアトリス・ダルは、20歳くらい、ゾルグ役のジャン・ユーグ・アングラードは30歳くらいでこの役を演じたのだけど、二人とも本当にぴったり映画の世界観にはまっていた。
映画音楽はガブリエル・ヤレド。
映画の話自体は激しいのに、サウンドトラックはどこか物悲しく美しい。
この音楽なくしては、あの映画は成り立たなかったと思う。
歴史に残る名作には必ず、素晴らしい音楽がついている。
イメージ曲とも言える、サックスで奏でられるメロディはベティ・ブルーの空を連想させる。
だけど、冒頭に流れる、まるで遊園地で流れているような曲が実はこの映画を表しているような気がする。
どんなに激しい日々でも、終わりが来る・・・
人生は夢のようだと。
そして私が一番好きなのは、ゾルグとベティが向かい合わせでピアノを奏でるシーン。
ゾルグが奏でるピアノにベティがメロディを重ねて・・・
体の結びつきではなく「一体」になるのだ。

ジャン・ジャック・ベネックス監督とガブリエル・ヤレドの組み合わせは、他にも「溝の中の月」「IP5」などもある。
(写真では探したけど見つからなくて「IP5」は写っていないです。「DIVA」はウレジミール・コスマ)

サウンドトラックのCD

「溝の中の月」のサウンドトラックもまた、夢の世界に引き込まれるような幻想的な世界観があり、何回聴いたかわからないくらい好き。

映画も、ナスターシャ・キンスキーがまるで月の女神のような、この世のものとは思えない美しさが際立っていた。
この映画、批評家には酷評されたみたいなんですが・・・
音楽と映像の美しさが心に刻み込まれ、一生忘れられない映画だ。

「DIVA」は、オペラ歌手のシンシアの大ファンである、ジュールという青年が、違法にオペラの録音をした上にシンシアの衣装を盗むことから始まる。
まあこんなことする青年を主人公にするって、今なら微妙なんだろうな。
でも、愛とか執着とかって、モラルを超えてしまうものなのかも。
この映画も、映像と音楽が素晴らしかった。

「DIVA」「溝の中の月」「ベティ・ブルー」・・・
この3作に出てくる女性たちは、皆タイプは違うけど、永遠の男の理想なんじゃないかなと思う。
ジャン・ジャック・ベネックス監督は、女性に対する憧れと、深い愛を貫く男性を描き続けた監督だったのだ・・・。

見てから四半世紀以上たっても、はっきりと見た時の衝撃を思い出し、絵や文章までかきたくなった。
どれだけ大きな影響を受けたか・・・あらためて感じたのでした。

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