【創作】気ままなきみへ
空が白み始めた頃、まだ辺りは薄暗いというのに、きみは「おはよー!」と大きな声で言う。わたしはまだ眠くて、布団に包まり、寝ぼけたまま返事をする。もう少し寝かせてくれたらいいのに、ごはん食べようよ!と目をキラキラさせるものだから、仕方がないなあと身体を起こす。
眠い目を擦りながら、ふたり分の朝食を用意する。トースターで食パンを焼くけれど、きみは待ってくれなくて、わたしより先に食べ始めてしまう。自由だなあと思いつつ、あんまり美味しそうに食べるものだから笑ってしまう。
食パンにバターを塗って紅茶をすする頃、きみはすっかり食べ終わって満足そうにしている。ふわりとあくびを溢したかと思うと、ソファの上で居眠りを始める。わたしはすっかり目が冴えてしまって、朝の情報番組を見始める。おかげさまで、仕事に行くまでは少し時間がある。
顔を洗って歯を磨き、化粧をすれば、もう出なければならない。まだ眠っているきみに、行ってくるねと声をかければ、ハッと目を覚ます。そのまま玄関まで着いてきて、「いってらっしゃい」と一声。お別れはいつも寂しくて、きみを置いていくには忍びない。けれども、きみのために仕事をしているようなもの。名残惜しさをグッと堪えて外に出る。
満員電車に揺られて職場に着けば、いつも通りの仕事が待っている。バタバタと忙しく働いているけれど、考えるのはきみのこと。家ではどう過ごしているのかな、また眠っているかな。はやくきみに会いたい。
定時になれば職場を飛び出す。残業しないのかと嫌味を言われるけれど、そんなことはどうでもいい。だってきみが待っているのだから。帰り道に少しだけコンビニに寄っておやつを買った。一緒に食べようと思って。
鍵をガチャリと回し、ただいま!と声をかける。気づいたきみが部屋から飛び出して、おかえり!と返してくれた。今日はどうだった?と言わんばかりに、まとわりついてくる。おやつを食べよう、と声をかければ、目を輝かせて嬉しそうに返事をしてくれた。
お茶を入れて、ふたりでのんびり。朝も早かったので、しばらくすると眠たくなってくる。このまま少し寝てしまおうか、なんて思ったのだけれど、きみは膝にのしかかって「遊ぼう!」と元気に言ってくる。そんなに可愛くおねだりされたら仕方がない。ひとしきり、一緒に遊ぶことにした。
あっという間に夕食の時間。お腹すいたね!ときみはそわそわしている。まったく、素直なんだから。きみのごはんを先に用意し、自分の分は簡単に済ませる。空になったお皿を見つめて、おかわりは…と上目遣いに訴えられる。健康診断で太り気味だねえと言われたばかりなのに。厳しくするのもきみのため、許してしまいそうなところをグッと堪える。おやつ食べちゃったし。
お風呂を済ませて寝るまで、少しのんびりと過ごす。おかわりを諦めたきみは、すっかり眠たげだ。きみは体温が高いから、釣られて眠気を誘われる。もう眠ってしまおうか、ベッドに誘えば、よたよたと覚束ない足取りで着いてくる。するりと腕の中に収まるきみは、ぽかぽかと湯たんぽのよう。ゆっくりと背中を撫でたら、きみはニャアとご機嫌に鳴いて、しっぽをゆらゆら動かした。
真っ黒で艶やかな毛並みを持つきみへ。きみが一緒に居てくれるのなら、今日も明日も幸福だ。
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