見出し画像

上司ってものは、本質的には何を求められていると言えるのか? - 定性分析とデータ分析の組み合わせで読み解いていく -

この記事は、リクルートでデータ分析してる高田悠矢さんの労政時報という「人事向けの定期購読紙」に展開された全5回コラムのまとめ記事(前編後編)の後編です。

■ 前編記事
https://note.com/suguru_kawashima/n/nc09d14b96867

前回の分析では、良い上司の条件を定量的分析から割り出していくことを目的に、上司満足度に関するアンケートという普遍的なサーベイに対して、SPIやPVA評価といった他の情報を組み合わせ、そこから機械学習モデルを用いて高い上司満足度を得ている人の”特性”を割り出すところまで取り上げました。

その結果として、「人材理解や動機付けに関するマネジャーの行動をよりよいものに導くことで、メンバーの満足度を向上させる」ということがわかりました。

ここで1つの疑問が生じます。

結局は、業績が良ければ、上司への満足度があがるのではないか?

業績が良いから上司への満足度が上がるのか、上司への満足度が上がった結果が業績に現れていくのか、ここの因果の関係を明らかにした上で、

どうすれば人材理解・動機づけに関するマネジャーの行動を、より良いものに導くことができるか

こちらの2つについて後編では焦点を当てていきます。

上司満足度と業績の関係についてデータで分析する

今回確認したいのは上司に対する満足度と業績の関係性になります。

この鶏が先か、卵が先かといった「検証的」な課題を因果推論のための統計学手法で解決していきます。

詳細の言及は避けますが、Kosloskiという心身全般の健康状態に対するセルフアセスメントを5段階(Execellent/very good/good/fair/poor)で行うことで、健康状態に対する自己認知の度合いを定量化し、その値とうつ病発祥の判定項目群との関係性について調べるという研究のモデルを今回のアンケート結果に適応していきます。

画像1

今回確認したいのは、上司に対する満足度と業績の関係性であるため、調査時点である2018年上期、2018年下期、2019年上期の3期分の業績データを用いて、満足度調査のアンケートへの影響を調査しました。

画像2

この結果、相対的にではあるが「業績から上司満足度」の方向よりも、「上司満足度から業績」の方の矢印のほうがより一層の因果効果を見ることができました。

つまり、人材理解・動機づけに関するマネジャーの行動を、より良いものにすることで、良い組織の質につながり、それが良い業績への繋がってくることがわかりました。

どうすればマネジャーの行動をより良いものにできるのか

著者の所属する組織で、早速上司と部下が1対1で定期的にミーティングを行う1 on 1ミーティングに関する研修を行ないました。

1 on 1を行う意味、進め方、気をつけるべき点など具体的な方法に踏み込んだその研修は受講したマネジャー陣から「非常に有用であった」と満足度の高い研修となりました。

しかしながら、その結果が、後日再度上司満足度に関するアンケートを取ったメンバーからの「人材理解」「動機づけ」に関するスコアの向上につながらなかったのです・・・

せっかく「部下を理解しようと努める→上司満足度が上がる→売上も上がる」という因果の方程式が見えたにもかかわらず、スタート地点のスコアを上げる事が出来なれば全く意味がありません

高田氏はこれを「ラストワンマイル」の問題と呼んでいました。

さまざまな分析アプローチを模索したそうですが、残念なことに、このラストワンマイルの問いの答えは、「現状で手に入るデータから得られない」と判断せざるを得なかったそうです。

ラストワンマイルの定性分析

統計データの分析のプロである高田氏がとった最後の手はシンプルでした。

結局最後は、「人材理解スコア」の高い上司に対して、高田氏が何度も実際にその人物と部下との対話に同席するという一番原始的なやり方で、答えを探しに行きました。

さまざまなタイプの組織長から話を伺い、非常に多くの有益な情報を得て、その中でもとくに長年採用分野で活躍してきた社内で有名な人物に張り付き、その方が行った行動に対して、その意図や考え方を問う、ということをやり続けました。

そして最終的な結論として、人材を理解するという事は、相手の隠された内的な動機の根っこを一緒に掘りにいく事、そして相手を目先の承認欲求から解放する事なのである、という結論を得ました。

データとリアルの結び付け

この記事で伝えたかったこととしては、大規模なデータを用いた機械学習手法だけでなく、データでは拾いきれないところについて、どのように定量分析と定性的アプローチを組み合わせていったのか、データ分析でなかなか踏み込めない人事領域において、定性分析と定量分析の組み合わせを用いて読み解いていくことを伝えたかったのだと思います。

また、今回の題材で取り扱った良い上司の条件の1つの解としては、ヒト(=メンバー)を正面から理解しようとするという事。

相手の隠された内的な動機の根っこを一緒に掘りにいき、そして相手を目先の承認欲求から解放する事だとすると、1 on 1でやるべきは、進捗確認ではなく、日頃のコミュニケーションと、一対一の対話から、本人も気づかないummetニーズを掘り出すことになります。

つまりは、その人に向き合って、理解し続けることでしか、その人の理解は深まらないのだと思います。

データを活用する

人事の領域において、日々、取得可能なデータが増える中、統計分析・データサイエンスといった手法群の活用は急激に加速しているといえます。

一方でこの領域において、データ分析が有効に機能するケースはまだまだ限られているというのが現状になります。

課題を絞り込み、切り分け、さまざまな解放手法を組み合わせ、試行錯誤を繰り返すという一連のプロセスの中で、「どこに、どのようにデータ・ドリブンな手法を組み込めばよいのか」といった思考の強化は、今後ますます重要になっていきます。

またデータというのは、数字だけではありません。アンケートの結果を回答者の属性と結びつけることや、個々へのヒアリングもそれを全社員に行えば、それは”データ”になります。

散らばったデータを整理して、分析できるようにし、仮説を立てて様々な角度から分析し、また追加の調査をし、それを役立てていく

地道ではありますが、そういった日々の活動がチームや組織を良くしていくのだと思います。

上司が求められること

上司というものは、会社上の”役割”でしかありません。会社を離れた瞬間にその方は一人の人間であり、会社の外では、上司も何もありません。

組織運営上、都合が良いので、上司という役割を設定しているにすぎません。

そうであるならば、上司がメンバーに対して行うことはシンプルです。

それは、メンバーのモチベーションをあげること

なんでも教えることでもなく、メンバーが一番やる気を持って業務に取り組めれるように、改善すべきことはなるべく自身で気づかせることであり、そのために行わなければいけないことを上手く意識させることが上司に求められます。

つまり、メンバー自身が主体的に自身を動機づけていく構造をつくることが上司の”役割”になります。

具体的な決められた方法はなく、純粋な好奇心で、あなたのことを知りたいという姿勢を見せ、その人に向き合い、信頼関係を作っていく。そしてその方にあったモチベーションを保つ方法・高める方法を試行錯誤しながら日々コミュニケーションを行なっていく。

もしメンバーが組織でやるべきことに沿った行動をとったとき、あなたは「よくやった!」と褒めるかもしれません。ただ、褒めるというのは上限関係によって成り立つことなので、組織のために活躍した行動をとったのであれば、ありがとうの一言なのだと思います。

以上、最後は私の考えが多めになってしまいましたが、リクルートでデータ分析してる高田悠矢さんの労政時報という「人事向けの定期購読紙」に展開された全5回コラムのまとめ記事+私の感想/考えでした。

定性分析も定量分析も上手く取り入れて、良い組織を作っていくために引き続き走り回ろうと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?