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廻る その4

 あかん。なぜか笑ってしまう。元相方、川島敬。享年25歳。
今、俺の目の前で浮いている。

「おい、何わろてんねん」
「いや、不謹慎なんはわかってんねんけど、知ってるやつが浮いてんの、なんかおもろいなと思って。」
「お前どんな笑いのセンスしてんねん。もっとあるやろ!感動的な再会とか!別にお前笑かすために俺来たんちゃうねん。とりあえずどっかで話させてくれ。」
「わかったわかった。ほんなら、とりあえずこのロケ終わるまで、その辺で待っといて。しんどかったら、座っとってもええし。あ、でも、その感じやったら、『座る』とかもないか笑」
「お前、殺すぞ。」


 思いもしない再会はロケにより一旦中断。その後はいつも通り、適当に嘘ついたり、本当のことも混ぜたりしながら、ロケを盛り上げ収録終了。木の間で健気に待っていた川島を家に連れて帰り、夜中三時、帰宅。


「お邪魔しまーす。靴脱いだほうがええ?」
「お前浮いてるから関係ないやろ。」
「幽霊ジョーク。」
「お前まじで何しに来てん。」


お化けをもてなしたことなどない俺は少しいや、だいぶソワソワしていた。


「ほんでお前何してたん?死んでから。」
「いやぁ、それがさぁ…」


 この後、川島から死んだあとの世界、いわゆる天国の話を聞かされた。人は死んだ後、総合的に、今世の行いを謎の白の発光体に評価され、天国か地獄に配属される。川島はギリギリ天国に。さらに天国には、二つの場所がある。一生を天国で過ごせる永天国(えいてんごく)か生まれ変わり、我々の世界に戻れるが、少々リスクのある廻天国(かいてんごく)。どちらに行くかは、自分で選べて、川島は自ら廻天国へ。


「へぇ、死んだ後ってそうなってんのか。」
「死んでからも大変やってんから。」
「まぁ、お前があの時、ちょっとでも謙虚になってたら、今こうして浮いてることもなかったから自業自得といえば、そうやろ。」
「お前なぁ、ちょっとは心配せぇ。相方死んでから売れるってお前も皮肉なもんやろ。お前は今でも俺のおかげで飯食えてるようなもんや笑」
「お前も俺の苦労なんも考えてへんやろ!お前死んでからな、自己紹介するときコンビ名の『とんとん拍子』って言いにくなってんねん!相方死んで笑顔でとんとん拍子ゆーて何がおもろいねん!」
「ひひひひひ、最高のジョークやんけ笑」


 そんな会話を交わしていたら、あたりが明るくなってきているのに気がついた。


「もう5時か。」
「原山!頼み事すっかり忘れてた!お前に頼みがある!どうにかして、俺を生き返らせてく」


話の途中で原山が消えた。窓の外には、はっきりと1日のはじまりを告げる朝日が顔を出していた。

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