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【小説】誠樹ナオ「第一王女は婚活で真実の愛を見つけたい」第4話(前編)

第3話はこちら

その日の予定を全て終えて、足早に私室に戻る。
「はああ〜、疲れた〜……」
ふと、壁に設えた大きな姿見に映る自分が目に入って、無意識に髪に手をやっていた。
(もしアスランの言うような髪型にしたら……殿方の反応は変わるのかな?)
風になびかせたサラサラのロングヘアに、きつめに眦を釣り上げた化粧、細身のシンプルなドレスは好戦的に見えるらしく、会う男性がみんなどこか引き気味なことには気づいていた。

「しょうがないじゃない……そうしないと、舐められるんだもの」
お父様の助けになりたくて幼い頃から政務に携わるようになった。他に子どものいないお父様は歓迎してくれたけど、みんながみんなそうじゃない。
王位継承第一だからというだけで認められるほど国の運営が甘いことじゃないのは、誰よりも私がよくわかってる。今はそれでも徐々に実績が認められてきた方だけど、相変わらず『小娘が』という目で見られているのは日々ひしひしと感じていた。

形から入ることも大切だ。
だからこそ、できる女に見られるためにはどうすればいいのかということだけを考えて、これまでは身形でそれを表現してきた。
「それを今さら、男ウケするように変えろって?」
一瞬よぎる考えを振り切るように、鏡から目を逸らす。
明るく見えるように巻くなんて……そんなありきたりなのダメダメ! 自分に似合うものは、自分が一番よくわかってるんだから!!
あんなヤツの言いなりになることなんかない。このままの私ですぐに結婚相手を見つけてみせる。
「そして、アスランにぎゃふんと言わせてやる……!」
そう固く心に誓い、私は候補者の選定を急がせることにした。

──

それから数日後、私は再びアスランの面会を受けていた。
「レティシア様のお好みに合うのではないかという候補者を、数人、見つけて参りました」
「へえ、やるじゃない」
アスランの手腕もあるだろうけど、私みたいなSランクの女に目をつけている殿方だっているはずだって思ったのよ。
言葉には出さないけれど、テーブルの下でガッツポーズをし、思わずほくそ笑む。
「……」
鼻歌でも歌いそうな勢いで候補者のプロフィールめくる私を見て、アスランが呆れたように目を細める。

「とりあえず、この人と会ってみるわ」
ひとまず私は、申し込みの中からいちばん条件のいい公子を選び出した。これまでは年齢が多少若いのではないかと検討の俎上に登らなかったらしいけど、見た目といい教養といい家柄といい、確かに申し分ない。
おっさんよりは若い方がいいわよね、世継ぎのこともあるし。
「……条件だけで見ていませんか? 趣味とか人柄に関する項目などもご覧になりましたか?」
「ちゃんと見たわよ。いいから、彼と会うわ」
「わかりました」
アスランが調整し、あっという間に次のまとまった余暇に会う段取りになる。
思った以上にサクサク進むじゃない……!
遠い道のりだったと思っていた結婚もすぐ間近に見えてきたような気がして、私はウキウキとその日に思いを馳せた。

──

面会当日。
私はとっておきの濃パープルのドレスに身を包み、ストレートのロングヘアをなびかせて件の公子とお茶をしていた。
「近くでお見上げすると、想像以上に美しいお方ですね」
「まあ、お若いのにお上手ね」
私を目の前にして、彼は恐縮しきりだ。

彼と数時間お茶をして別れ、私はいくつか用事を済ませると私室に戻った。
頭がいいみたいだし、文武両道に長けて資質は十分……若いだけあって少し頼りないところもあるけど、もう一度会ってみてもいい。
何より、私を崇めるような、憧れるような視線は悪くないものだった。
望まれて結婚するのが一番よね。さっそく上手くいきそう……!

意気揚々と闊歩していると、私の部屋の前の廊下で黒ずくめのアスランが眉間に皺を寄せ、腕組みをして待ち構えていた。
「あら、アスラン」
「お待ち申し上げておりました」
私の部屋に向かって、アスランが手を広げて見せる。
「少しお時間をいただけますか」
「もちろん、いいけど……」
「本日の面会について、お相手からの意向をいただいておりますので」
「え、もう?」
私が用事を済ませたのは、ほんの一刻ほどのことだ。
……まさか彼、もう私に決めちゃったとか!?
そうに違いないと小躍りしたくなるような気分で、私は部屋に入っていった。

私が座るやいなや、アスランは私を見て盛大にため息をついた。
「言い方はもう少し丸めてありましたが、高飛車すぎて女性として見られない。このお話はなかったことにして欲しいとのことでした」
「え……どういうこと?」
言われた意味がすぐにはわからず、立ち尽くす。
テレーズが気の毒そうに腕を引いて、私にお茶を飲むように促してくれた。

「私は彼に、レティシア様を第一王女ではなく、一人の女性として接してくれるように頼んでおきました。おそらく、彼はその通りにしてくれたことと思います」
「確かに……そうだったわ」
政務や立場のことより、彼は私の人となりについていろいろと質問して、耳を傾けてくれた。だからこそ、私の方も彼に好感めいたものを抱いたのだ。
「公子とどんなお話をされたんですか?」
「えっと、それは──」

ひとしきり私の話を聞き、アスランは頭痛がするようにこめかみに手を当てた。
「なるほど、いかにご自分が仕事をしてきて、優秀で、政務において実績があるか……要はご自分の自慢話に終始されたわけですね?」
「自慢話だなんて、そんな……」
「敵国との外交交渉に行っているわけじゃないんですよ? 相手の優位に立とうとしてどうするんですか!」
「別に優位になんか立とうとしてないわよ!」
「いいえ、しています」
淡々とした口調に、腹立たしさより焦りのようなものが湧き上がってくる。

「そもそも、初めて会った相手に、自分の話ばかりされたらレティシア様はどう思いますか?」
「それは……」
快くは思えないかも。
無意識にしゅん、と肩が落ちている自分に気づく。
第一、 彼は私に一人の男性として接してくれたのだ。
女性として見られないという評価は、私個人に対する評価に他ならないのだと思うと、彼が好青年だっただけに落ち込みは激しかった。
「その服だって何ですか……私には戦闘服にしか見えません」
延々と続く駄目出しに、徐々に気持ちが落ち込んでくる。

「お互いを知って、理解し合うために会っているんですよ? そのことをちゃんとわかっていますか?」

後編は5/16(月)更新予定です!

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