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【全文無料】衣南かのん『アイスラテから見えた世界』

文芸誌「Sugomori」に9月から衣南かのんさんが加わってくださいました!というわけで、今回は「SDGsへの向き合い方」をテーマにエッセイを書いていただいています。

少しハードな仕事が続いていた、ある朝のこと。
 どうしてもやる気が起きない仕事へのスイッチを入れるため、自分をとことんに甘やかしてやろう、とUverでスタバを頼むことにした。
徒歩30分、電車を使えば約15分。充分に自分で動ける距離にある店をデリバリーする、というのは結構贅沢だ。しかも家には数種類のコーヒー豆も、エスプレッソマシンもある。お金をかけずとも、それなりにおいしいカフェラテにありつくことは出来てしまう。ますます贅沢で、ちょっとした背徳感すら湧いてくる。
 でも、疲れた自分を甘やかすには、ちょうどいい。

 自分で向かうよりは少し早いかな、というくらいの時間で到着したのは、注文したアイスラテと、シュガードーナッツ。
 ちなみにこのドーナッツは高校時代にあまりにもハマってしまって危機感を覚えたので(※体重的な意味で)、とびきり自分に甘くする時しか買わない、と決めたものでもある。
 さて、そんな自分甘やかしフルコースで頼んだ品を、見慣れた女神の印刷された紙袋から取り出して……あれ、と思った。
 入っていたのが、ホットドリンクで使われるような、あの紙のカップだったのだ。
 あれ、間違えてホット頼んじゃったかな? と触れてみたけれど、しっかり冷たい。揺らすとカラカラと音がして、中に氷が入っているのもわかる。ストローもついていて、まぎれもなくそこに入っているのは「アイスのカフェラテ」であることが伺えた。
 だとしたら、なぜ、ホットドリンクのカップ?
 不思議に思いつつも、日常に起きたちょっと面白い出来事、として友人や夫とのLINEを賑わすに留まったその出来事の答えを知ったのは……それから、数日後のことだった。

 その日は買い物に出かけていて、ちょっと休憩、とやはりスタバに立ち寄った。注文したのはホットのカフェラテ。店内で飲むときには大体マグカップを選ぶ私なので、その日もなみなみとカフェラテの注がれたマグカップを手に、店内の端の方にあるソファ席へと座った。
 そうしてしばらくぼんやりとしていて……ふと、違和感に気づいたのだ。
 まだ暑い、夏の日だというのに――プラスチックの、アイス用のカップを持っている人がやけに少ない。
 よくよく見てみると、ホットのドリンクカップを持った人の中で幾人かは、そこにストローを差していた。
 そこで、ああ、なるほど、と気づく。数日前のちょっと不思議な出来事と、今この目の前に広がる見慣れない光景がなんとなく繋がった。
 つまりこれが、今話題のSDGsってやつなのね? と、一人納得しながらマグカップに口を寄せる。
 プラスチックのアイス用カップは、当然だけれど全てがプラスチックで出来ている。反面、ホットのドリンクカップは蓋とコーティングこそプラスチックが使われているだろうけれど、その主原料は紙。
 今やストローですらプラスチックからほぼ全てを紙に切り替えているスタバならば、アイスドリンクのプラスチックカップをホットドリンクの紙カップに移行しているのも納得できる。店舗としても、カップの発注が読みやすくなっていいことが多そうだな、とも思った。自分でも気づかないうちに、身近なところで時代の流れが変わっているのを可視化できたのは、ちょっと面白い体験だったかもしれない。

 私はといえば、正直SDGsに対する意識が高いかと言えばそれほどではない。マイバッグはなるべく持って行くけれど、マイボトルは続かない。SDGsにどう向き合う、とか、サスティナブルとは、とか、言葉だけは知っているけれど積極的に何かをしているわけでもない。何なら紙ストローってちょっと使いづらくない? と思っているタイプの人間でもある。
 でも、そういう場面に遭遇し、自分で気づくことができると、ちょっとだけ意識してみようかな、という気持ちにはなってくる。
 料理の時に出る生ごみ、ビニール袋じゃなくて紙袋で捨てようかな、とか。その程度のレベルではあるけれど。

 さて、ところでこのスタバの一件、勝手に納得しているけれど、本当に「そう」なのかどうか確かめたわけではない。デリバリーした店と、立ち寄った店は同じ店舗だったので、もしかしたらたまたまアイスのドリンクカップを切らして対応していたのかもしれないし、その店で実験的にそういうことをしていたのかもしれない。
 何せアイスドリンクを頼むことはめったにない上にそろそろホットドリンクの季節になってしまったので、中々確かめる術もないけれど……。
 次にお店に行った時には、またちょっとだけ意識をして、あたりを見てみようかな、と思う。戸棚に眠っているマイタンブラーを持っていくのも、たまには悪くないかもしれない。

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