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人間の限界?!:7±2という魔法の数字

突然ですが、電話番号って覚えるのが難しいですよね。携帯電話・スマートフォンが普及している今、電話番号を覚えなければいけない状況自体がそもそも珍しくなっているというツッコミはさておき、ランダムな10桁近くの数字を覚えるという行為が難しいという感覚はなんとなくみんな共通して持っているでしょう。では、いったい何桁目からこの「覚えにくい」という感覚は出てくるのでしょうか?
今回はこの疑問に対し(切り口は違えど)、真っ向から取り組んだ論文を紹介します。実はこの論文、今から70年近く前に発表されているのですが、心理学の論文の中でも最も著名なものの一つとして知られています。(この論文を題材とした専用のウィキペディアページがあるほどです。)教育はもちろん、世界の見方が少しだけ変わるような素敵な内容となっています。このスゴ論はもちろんですが、原文にチャレンジしたいという人は是非読んでみてください。

結論

人は、一度におおよそ7つの情報を識別、及び記憶することができる。

7±2:複数研究の共通項

時は1950年。学会では人間の五感の識別能力に関する実験が数多く行われていました。これらの論文を読み漁っていたミラー(George A. Miller:この論文の作者)は、とある現象に気づきます。人間はおおよそ7個前後の情報を的確に処理することができるという共通の結果が複数の異なる研究を通して導き出されていたのです。それでは、ミラーが紹介するこれらの具体例の一部を見ていきましょう。

例1(聴覚):人は異なる音色の音を聞き分ける場合、おおよそ4つの音色までは安定して同時に判別することができる。一方、5種類以上の音色を聞き分けることはやや苦手とする傾向が見られ、音色が7種以上を超えるとミスが頻出する(Pollack, 1952, 1953)。
例2(聴覚):異なる音量の音を聞き分ける場合、おおよそ5つの異なる音量までは安定して同時に判別することができる(Garner, 1953)。
例3(味覚):異なる濃度の塩水の味を飲み分ける場合、おおよそ4つの異なる濃度の塩水までは同時に判別することができる(Beebe-Center et al., 1955)。
例4(視覚):同一直線状において異なる位置の印を識別する場合、おおよそ9個の異なる印までは同時に判別することができる(Hake & Garner, 1951)。
例5(視覚):異なる大きさの正方形を識別する場合、おおよそ5個の正方形までは同時に判別することができる(Eriksen & Hake, 1955)。
例6(触覚):胸部に複数のバイブレーターを設置し、異なる長さや強度の振動を判別する場合おおよそ4~5の異なる振動の種類を判別できる(Geldard)。

これらの具体例に関して、ミラーは二つの特筆するべき考察をします。一つ目は、これらの実験がお互いに全く無関係な環境や分野で行われたのにも関わらず、「おおよそ7個程度の情報を判別ができる」という共通の結果にたどり着いていること。よくよく考えてみると、これは不思議なことです。例えば、音の音色と正方形の大きさは一見すると全く無関係に映ります。「人間は音色に関しては12種類聞き分けることができるが、正方形の大きさは3つしか判別することができない」という結論に至ってもおかしくないはずです。

ミラーの発見

二つ目の考察は、これらの実験が共通して、同一次元上の情報を判別させる実験である、ということです。例えば、音量に関する実験で活用された音は、「音量」という要素のみが異なっていました。音色・音の長さなどは統一されていたのです。同様に、塩分濃度を識別する実験で使われた塩水は、「塩味」という要素のみが調節されていました。砂糖等の他の調味料が加えられたり、水の粘度が調節されるなど、他の変数が操作されることはなかったのです。

人間の情報処理能力の限界

以上の結果を元に、ミラーは以下の仮説を提示します。

人が同一次元上の複数の情報を瞬間的に処理・識別する場合、7個程度の情報までしか的確に処理することができない。

一見無関係な複数の研究を紡ぎ合わせて導いたこの仮説は、多くの研究者に衝撃を与え、その後も長きにわたって注目を浴び続けることとなりました。筆者(山根)の主観ですが、①人の情報処理能力に明確なキャパシティがありそうだという新しい仮説を提示したこと、②そのキャパシティの大きさとして7±2というすっきりとした数字を示したこと、の二点が非常に評価されたのではないかと思います。

より多くの情報を処理するためには?

ここで、一つの疑問が浮かんだ人もいるかもしれません。「でも現実社会において、人間が7つ以上の情報を識別する状況なんていくらでもあるじゃないか。」と。ごもっともです。例えば、人間は人の顔を識別することがとても得意です。7種類の顔しか識別できないようでは、生活に支障が出てしまいます。数多くの文字・単語・音で形成される言語も同様です。情報処理のキャパシティが限られている私たちは、いったいどのようにしてこうした情報を整理できているのでしょうか?ミラーはこの疑問に答えるべく、私たちがより多くの情報を処理するために使っている「コツ」を3つ提示しています。

情報に相対的な意味合いを持たせる:「51, 66, 7, 36, 2, 98, 11, 64」「2, 7, 11, 36, 51, 64, 66, 98」  。どちらが覚えやすいかと言われたら、後者の方が覚えやすいという人が多いのではないでしょうか。これはなぜでしょうか。両グループに含まれている数字は全く同じですが、後者は昇順に並んでいるからです。〇〇の次は××、××の次は△△等、情報の間に何かしら関係性を持たせることで、処理できる情報の量は増えると考えられます。これは歴史の勉強でも良く言われることですね。「薩長同盟」「大政奉還」「黒船来航」等、個別の事象を単体で覚えようとすることは困難ですが、「黒船来航⇒薩長同盟⇒大政奉還」と、ストーリー立てて覚えることで勉強がはかどった、という経験は皆さんも持っているのではないでしょうか。

情報処理の次元を増やす:塩分濃度が異なる水を識別する場合、おおよそ4つ程度の塩水を判別できる、という実験がありましたが、これらの塩水に異なる量の砂糖を加えるとどうなるでしょうか?実は、判別できる水溶液の種類が増加することが実験で示されています。ミラーはこの結果を受けて、「しょっぱさ(塩)」と「甘さ(砂糖)」の二つの異なる次元の掛け合わせで判別が行われているのではないか、と考察しました。私たちが数多くの顔を識別できるのも、こうした仕組みが裏側で働いていると考えられます。髪の色・目の位置・顔の輪郭など、数多くの要素(次元)が組み合わさることで、私たちは多くの人の顔を混乱することなく見分けられているのです。

グループに区分けする:A「101000100111001110」B「220213032」C「504716」。どの数列が一番覚えやすいでしょうか?言うまでもなく、Cが一番覚えやすく、次点でB、Aが一番覚えにくいですよね。しかし、実はこれらの数列、全く同じ情報を含んでいるのです。二進法の仕組みを思い出しながら、下図をご覧ください。

元の数列を二つ、三つずつの数字に区切ってみると・・・

「101000100111001110」を二つ、三つの数字に区分けし、二進法の数字として読むことにより、より短い数列として再解釈できるのです。
これは極端な例ですが、大量の情報を処理・記憶しなければいけない場合、より少ない数のグループに区分けを行うことで処理がより行いやすくなることを示しています。

編集後記

歴史的にも著名な論文の一つということで、筆者の力が入った結果いつも以上に長いまとめとなってしまいました。いかがだったでしょうか?生徒への情報伝達の仕方や、より効率的な記憶の方法など、教育や勉強の文脈にも多分に応用が効きそうな内容ですよね。

文責:山根 寛

Miller, G. A. (1956). The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information. Psychological Review, 63(2), 81–97. https://doi.org/10.1037/h0043158

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