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顔合わせとタブレットTOTO

●ノベルジャム2018参加記録 2 [1日目 昼]

初日、怪しげな建造物が林間のそこかしこに聳える謎の施設、八王子の山中で訪れる者をひっそりと待つ大学セミナーハウスの周りは半月前の雪も未だ融けない酷寒の中にあった。というほど寒くはなかったけど、冬晴れの清々しい土曜日、決戦の場所へと赴いた。
バス停を降り、明らかに目的地を同じくする人々が緊張の面持ちでそれぞれ坂を登る中、たまさか一緒になったアンジェロさんと並んで歩く。アンジェロさんは著者参加だ。好青年だ。ああ、こんな気持ちのいい青年がこれから修羅の道に入るのか、などと考えながら、巨大なテトラパックが地面に刺さったような建物を目指した。

受付を済ませ、運営の天野さんにまずは挨拶。天野さんは僕がちょいちょい参加している読書会のメンバーで、既に見知った方である。めちゃくちゃにいい人だ。参加者に知り合いが全くいない中、運営に顔見知りがいるのは心丈夫だ。
その受付でデザイナーの印である黄色の名札をいただいたら、自由席であるとの触れ込みで並べられた8つのテーブルへと向かう。そう言えばチケットのQRコード、見せてなかったような気がするが、まぁいっか。

座ったのはCと書かれたテーブルだった。Cに座ったのは単に通りがかっただけ、ではあったが、そこはかとなく和気藹々とした感に包まれており、新参者の自分でもとって食われたりしないだろうと思われた。結果そのまま最終日までCという名のテーブルに座り続けることになるのだが、それはまぁ先の話。
同席になったのはデザイナーの嶋田さん、編集の米田さん、作家の天王丸景虎さんだった。結果を言ってしまうと、嶋田さんがデザインを担当した「たそかれ時の女神たち」はエブリスタ賞を、天王丸さんは自著となる「バカとバカンス」で優秀賞を獲得するのだが、それもまぁ先の話だ。

実はココに座ったのは果たしてその嶋田さんとお話がしたかったからなのだ。今回デザイナー初公募ということもあり、一体どのような人が参加しているのか。Twitterでは参加デザイナーの何人かとすでにフォロー関係にあったが、その実力をTwitter越し見せつけられて正直ビビらざるを得ず、じゃ実態としてどうなのよ、と、比較的お優しそうな嶋田さんのテーブルに座ったのだった。(他の方が恐ろしいとかそういうわけではないですすみません)

デザイナーの嶋田さんはとても気さくで素敵な女性で、聞けばブックデザインの専門家であるそうな。僕は本のデザインを全くしたことがないので(それでよくこの場所に来たと自分でも思う)、興味深くお話を伺えたうえ、なんとお土産に彼女の研究レポートまで頂いてしまった。素晴らしい人だ。
だがデザイナーは著者と違って1チームで1人、我々は必ず敵に回ることがすでに約束された間柄だ。それなのにブックデザイン素人の僕にレクチャーをくれるとは、もうこの時点で参加費2万円の元は取ったも同然と言える。嶋田さん、改めてありがとうございます。じっくり読んで、デザインに生かしました。

さてチーム分けの前、ワコムタブレットの貸し出しについてアナウンスがあったのだが、デザイナーでタブレット貸与に応じたのは3人。うん、今ならわかる。作風というか、質感というか、確かにタブレットを使いたい局面というのはある。けれど僕の場合そもそもの絵心が中途半端なので、文明の利器を使ったところでアウトプットのクオリティが上がることは多分ない。温泉に入るしか能のない地獄谷のニホンザルにティファールのクック・フォーミーを与えても料理ができないのと同じことだ。
はい、そんなわけでお時間のある方は今回の16作品の中で「タブレットで描かれた表紙TOTO」とかやってみるといいかもしれません。3人ぶん、都合6作品あるはずです。

そうそうタブレットといえば、会場にいらしていた漫画家の鈴木みそ先生に「デザイナーなのにタブレット使わないの?」と聞かれた。ここではデザイナーとは「タブレットを使う人」なのだ、と表している気がする。そうなのだ、そういう場所で「タブレットを使わない」側にいるデザイナーがどこまでいけるか、が僕の関心事なのだ。

ここでいよいよチーム分けなのだが、これがまた、、「編集者がプレゼンして著者とデザイナーがねるとん方式で彼らを選ぶ」という誠にもって無慈悲きわまるシステムだった。
編集者のプレゼンはどれも面白かったが、著者としてはなるべく自分に合った人を選びたいだろうから誰かに人気が集中するのは仕方がないし実際集中した。そこへ行くと僕も含めた大方の(多分半数以上の)デザイナーは「誰でもオーケー」というスタンスだったと思う。

正直悩んだ。メチャクチャ悩んだ。Aの小野寺さん、Eの和良さん、Dのハギヨシさん、この3人が組めそうだと思われた。何度も○を書こうとしたが、しかしギリギリ悩んで無記名投票した。
デザイナーは基本、クライアントを選ば(べ)ないし、そこに矜恃めいたものを持ってもいる。それに売れっ子と組むより一見冴えない所で逆転かますほうがロマンがあるじゃないですか。
その伝で行くと「指名はしたがジャンケンに負けたので別と組む」というストーリーは悪手なのだ。最初っから誰と組んでも俺はやれるよ?という姿勢を見せておいたほうがいいのだ。

そういうわけで僕が無記名投票したのは、いわば戦略的無記名なのだし、他の多くのデザイナーさんもそうだったろうと思う。
それでも未だに考える。もし僕がAにいたら、もしDにいたら、どんなデザインが作られたんだろうか。そんなifも、あるいはこのイベントの面白さなのかもなぁと、今はしみじみ思う。

ともあれ賽は投げられた。いよいよ組み合わせが決まった。

(3へ続きます)

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