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賞状と缶ビール

●ノベルジャム2018参加記録 10 [3日目]

最終日早朝、仕事場に戻ったら既に「ひつじときいろい消しゴム」の提出は終わっていた。結局米田さんはほとんど寝ていないという。根木珠さんも疲れ気味だが、まずは元気そうだ。
少し遅れてやってきた森山さんも最終確認の上、納得して提出を済ませた。提出に先立って昨夜からプリンター出力のシミュレーションを行っていた米田さんはさすがだ。二人ともプリンターが混み合う前に提出ができ、その後皆で朝食に向かう。素晴らしい天気だ。

運営の方や他チームの方とすれ違う。昨夜に比べ、どことなく晴れやかな顔をしているのは朝の青空のせいばかりではあるまい。激闘を終え、達成感と虚脱感が混ざったような気分はしかし悪くない。今朝はビュッフェの罠にはハマらなかったが、朝から食べすぎた昨日のことが随分遠くに感じられる。
朝食後、BCCKSのワークショップが始まるまでの間に仮眠のため部屋へと戻り、横になる。しばらくして野崎さんが帰還。結局完徹だったという。

荷物をまとめて再びセミナーハウスへ向かうが、3日目の日中の出来事は実はあまり記憶にない。なんとなくボンヤリとコーヒーを飲んだり、外を眺めたり、戦い終わってようやく隣近所のチームの皆さんとお話をしたりして過ごしていたと思う。
他のチームはLPを作成したりフライヤーを作ったりと、すでに今後の販促の方に課題がシフトしているようだったが、Cチームは全くやらなかった。米田さんが「明日からやればいいよ」というホワイト過ぎる方針を打ち出し、おそらく体力に不安のある根木珠さんを思いやっての事と思うけれど、ともあれ全員がそれに乗っかり、だからずっとボンヤリしていられた。

BCCKSのワークショップが終わり(アカウントの問題で少しだけトラブったが問題なく終了)、昼食が終わり(炭水化物抜こうと思ったらまさかの汁飯系丼)、せーの!で出版の儀式が終わり(その瞬間SNSで宣伝した)いよいよプレゼンタイムなわけだが、このプレゼンについては様々な人が様々な角度で発信しているので印象に残っている所をいくつか。

インパクトでいったらもちろん、腐ってもみかんさんのラップにトドメをさすのだけど、みかんさんがラップで編集をDisったのち、編集の和良さんが深々と頭を下げたのに胸を打たれた。
聞かせるプレゼンとしては渋澤さんの「ツイハイ」のクオリティが高く、驚愕度としては冨士山絢々さんの芝居がハンパでなく、音量だけでいったら米田さんの絶叫で(すみません)、プレゼン順序までネタに織り込む手慣れさを見せる澁野さんは安心の品質だし、とにかくただただ面白かった、とだけ添えておきます。
プレゼン後、授賞式までの間ふたたびのぼんやりタイム、なはずだったが、運営さんからのインタビューを受けた時はかなりテンパって、なんかやたらに喋りまくった記憶がある。呆けていたように見えて実はかなりテンションが高かったんだな、と後になって思った。

さて、そうこうしている間に授賞の時間となった。激論長引き、予定より30分押してのスタート。米田さんは「必ずふたりとも賞を獲る」と気合を入れていたが、僕はどうだったろうか。
デザイナーとしての仕事はひとまず終わったし、表紙ではなく小説そのものの評価であるので、どこか他人事のように構えていたかもしれない。しかしそんな気分も、次々と受賞が進むにつれ何か言いようのない焦りに変わっていった。
審査員賞が一通り済んだ段階で、Cチームは受賞ゼロ。さすがの米田さんにも焦りが見えるかと思いきや、いやこれマジで優秀賞行くでしょ、と僕に耳打ちしてきた。この御仁、存外に太い。
そうして突然呼ばれた「特別賞、ひつじときいろい消しゴム」。

引きが強い、といった話でなく、そもそも予定にない賞を「もぎ取る」というのもおかしい。何せ存在しない賞だったんだから。
3日間に渡って並走してきた摩訶不思議な物語が、最後の最後に見せた最高のイリュージョン。賞状を抱えた根木珠さんはオロオロし、米田さんは何を喋っているのかよく分からない。狐につままれるとはこのことか。しかし、うん、良かった。ブラボーだ、素晴らしい!
内藤みか先生に「とても好きな作品」と言われ、海猫沢めろん先生からも「才能を感じる」とのお言葉。昨夜、修正の件で根木珠文体と心中する肚を決めた米田さんも報われたと思う。そして森山さんも笑顔でハイタッチ。いや本当によかった。
物語それ自体が、本来なかったものを生み出す魔術だった。そう思えば「特別賞」は、この不思議な作品に相応しい賞と言えるのかもしれない。

心残りは「その話いつまでしてんだよ」の無冠なのだけど、講評では「全作品クオリティが高く、村上春樹と比べてどうか、というレベルで審査している」との由。また講評でタイトルのつけかたをもっと工夫すべしとの意見の中で「その話いつまでしてんだよ」を褒めていただけた。それでも無冠は悔しいのだが、あれだけ逡巡し熟慮して決めたタイトルだけに、これには慰められた。
無冠ではあったが、森山さんはそのまま終わる人ではもちろんなく、のちに積極的に改稿し、さらに続編を出すなど、ノベルジャムの経験を注ぎ込んでさらなる進化を続けている(のでぜひ読んでください)。賞の有無に関わらず、創作者のスイッチを強く強く、これでもかと押してくる。そんなところがノベルジャムの価値なんだろうなと思う。

最後の懇親会はもう、かなり酔っぱらってしまい、池田さんと同い年同盟的に盛り上がり、海猫沢めろん先生にデザイナー時代のお話を伺い、景虎さんの受賞を祝い、根木珠さんを見送り、米田さんの激闘を労い、新城カズマ先生から「その話〜」の感想を皆で聞き、天野さんと乾杯し、嶋田さんと互いのデザインを語りあい、山家さんには率直に負けましたと言い、運営の方にはデザイナーを公募してくれてありがとうございますと言い、池田さんと澤さんのギターを聴き、次々と缶ビールを開け、とにかくいろんな方といろんな話をし、気づいたらバスに乗り気づいたら電車の中におり気づいたら明大前で隣に座る森山さんに起こされて我に返った。
そうして千葉の自宅までたどり着き、倒れるように眠った。

ノベルジャムは終わった。

(次回最終回へ)


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