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炒飯と可能性と山田章博賞と

●ノベルジャム2018参加記録 [追記]

3月26日、グランプリをはじめとした授賞イベントであるノベルジャム2018アワードへと赴く。どの作品がグランプリを獲得するのか、もちろん気にはなるが、それはそれとして、共に戦った仲間との再会の喜びの方が大きい。主催側も心得ているようで「今日はパーティーですから」とのこと。たった1ヶ月半前なのに、ひどく懐かしい。

結果はもう周知の事だけど、栄えあるグランプリはふくだりょうこさんの「REcycleKiDs」に決まった。そしてPR活動全般の評価を加味した鈴木みそ賞は、天王丸景虎さんの「バカとバカンス」に。これで天王丸さんは二冠を達成した。
さらにフィクションとしての完成度を評価する藤井太洋賞には高橋文樹さんの「オートマティック・クリミナル」が納得の選出。寧花さんの「グッバイ・スプリング」は、インディペンデント・パブリッシングの可能性を示した事を評価されチームとして特別賞。裏ノベルジャムではラッパー作家ー(音引重要)の腐ってもみかんさんが「怪獣アドレッセント」のスピンオフで入賞を果たした。

そして森山智仁著「その話いつまでしてんだよ」が装丁とデザインの賞でもある山田章博賞をいただいた。

正直かなり驚いた。受賞など全く思いもよらない事だったので、心の準備がなかった。
というのも、山田章博賞は「DIY BABY」か「グッバイ・スプリング」あるいは「ツイハイ」が受賞するだろうと思っていたからだ(そう考えるに至った理由は、この辺とかこの辺をご参照ください)。今後のセルパブ小説の表紙のあるべき方向性を示すなら「高いデザイン性と精密な情報設計による訴求力」か「文芸作品の顔としての品質」か、どちらかの評価だろうと、実感としてそう考えていたのだ。
その点、僕のデザインした「ひつじときいろい消しゴム」も「その話いつまでしてんだよ」も、上記の作品には及ばない。これは僕自身本職なので自分でもよくわかるのです。

であるので、受賞は大変に戸惑った。が、のちに山田先生の講評をじっくりと読み、その視点に納得し同時に感動した。先生の講評に曰く

昭和から平成のあの日、日本のそこかしこで起きていたかも知れない出来事について群衆に向けたマイクが雑踏の中から拾ったような『言葉』。そして、そのタイトルを印象づけるのに成功している装丁だと思いました。黒い額縁と喪章に対比して、変にポップなタイポグラフィとテキスタイルが、本文に描かれている悲喜劇を巧みに表しています。

つまり、物語の核となるテーマを、抽象概念ではなく「ありふれた言葉」として表現に昇華させたタイトルに対し(よく考えたらコピーの考え方だ)、それをビジュアル言語で「見える化」する、その翻訳の仕方に注目していただけたのだと思う。
小説を「訴求したいサービス」
主題を「そのプロポジション」
タイトルを「コピーライティング」
とすると、ほとんど広告制作の手順なわけで、テーマを言葉へと結晶させ、グラフィックへと落とし込む、その一連を、タイトル付けから始まるコンセプトメイクまで含んだ「全体クリエイティブ」として評価されたということになる。

前項で本作の表紙デザインについて「大きな傘をカジュアルに見せる広告話法で作ってしまった」と反省したのだが、山田先生からはまさにその点を評価いただけたわけで、そう思うと胸が熱い。イラストレーターである山田先生がこの作品を選ばれた、という事実にいま、深く静かに感動しています。
というわけでセルフパブリッシングにおける小説の表紙ついて、以下の考え方の方向性すなわち

・文芸作品として品質の高い佇まいを作る方向
・販促POPとしても興味を喚起させる方向
・精緻なデザイン性でクロージングまでケアする方向
・イラストやデザインで物語世界を表現する方向

に加え、広告的なロジックでコンセプトを打ち出す方向、という考え方が認められたのかも知れない、と思うのは僭越ではあるのだけれど、山田先生の講評は、このデザインの狙いである「匿名性と悲喜劇性の表現」についてほとんどを言い当てておられ、意図を汲んでいただけて素直に嬉しいと言ってしまおう。

もっとも広告的な話法については、一度は反省もした。作品ポテンシャルへの見積もりが甘いまま走ったこともその一つだし、文芸価値としっかり向き合ったかと問われたら、今でも自信はない。それでもAD・SP畑の知見でどこまでできるかが、僕自身の今回のテーマであったので、だからチャレンジ自体は成果を一つ挙げて幕を閉じたと言える。「賞には興味はないが評価基準には興味がある」などと不遜なことを言っておきながらイザとなったら、うん、とても嬉しい。

もちろんそれは著作者である森山さんあっての事で、内容のクオリティも込みでの評価だ。
そう考えると、ノベルジャム初日に偶然決まったチームとそのメンバー、また僕自身がノベルジャムに参加しようとした小さな決断がなかったら、そもそもこのデザイン自体が存在し得なかったわけで、ごく短期間に起こった小さな決断と偶然の積み重ねが見える形での結果を生み出す、というプロセスに軽く心を動かされている。
これは全16作品に言える事で、あの3日間に限っても、ちょっとした偶然で様々な結果があり得ただろう。

僕はもうおっさんの部類に入っているけれど、可能性はなにも若者の特権ではなく、どんな年齢の、どんな生活の、どんな職業の、どんな心の人間にも等しくあって、そうして人間は常に可能性の中に生きており、小さな偶然と決断を今この瞬間にも積み重ねているのだと、アワードの打ち上げ会場である中華料理「リンハウス」で大量の炒飯を咀嚼しつつ次はビールにしようかウーロンハイにしようか、その決断を弄んでいるのだった。

アワードの打ち上げでは、ずっとお会いしたいと思っていたイラストレーターの松野さんともお話しでき、Eチーム編集の和良さんからは増補する自著の表紙を依頼され、森山さんとは出版を企画している戯曲の表紙について打ち合わせし、「ツイハイ」のデザイナー澤さんともようやくおしゃべりが叶うなど、2月の懇親会にも増して楽しい時間を過ごしました。中華料理もとてもおいしかった。

そうして受賞の夜は更け、二次会三次会へと流れる組と別れて帰宅したのだけど、結果を端的に申し上げるに、ノベルジャムで減少したはずの体重は元に戻ったばかりか、一夜にして更に積み増しされました。結局増えてるじゃん。

(今度こそ完結)

2018.3.31 sugiura.s


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デザイン会社の中間管理職
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