平成とログライン
●ノベルジャム2018参加記録 3 [1日目 夕]
チームはめでたく決定した。
配属先はCチーム。編集:米田淳一、著者1:根木珠、著者2:森山智仁、デザイナー:僕 という陣容だ。これで大賞を目指すことになった。ちなみにデザイナーの嶋田さんは抽選の結果、売れっ子編集者澁野さん率いるHチームに。さすが引きが強い、強力なライバルになるだろう。そして天王丸さんは編集野崎さん&デザイン波野さんのBチームに。ここも強敵だ。波野さんは昨年、編集で参加して担当著者二人を受賞に導いた凄腕と聞く。今回はデザイン担当ではあるけれど、事実上の編集二人体制ではあるまいか。
と、周りを見ても始まらない。これから2泊3日で苦楽を共にする間柄だ。まずはご挨拶といこうか。売れっ子を擁するチームじゃなくても、などと抽選時に不遜な事を考えてはいたものの、この場所にいる時点で既に、決意実力とも並みの連中ではない。以下みなさんの人となり。
米田さんはセルパブ界隈では有名な方らしい。昨年は著者で参加して今年は編集とか。かつてメジャーレーベルからたくさんの本を出しており実は僕も読んだことがある。デビュー作を読んで直接本人に感想のメールを送ったこともあるのだ。いやなつかしい。そんな方とご一緒するとは、人生は本当に面白く出来ている。
森山さんは劇団を主宰されていた、バリバリ劇作系の方で好きな作家は椎名誠。彼に「村上春樹好きですか」と聞かれ「ハタチで卒業しました」と答えたら微妙に嬉しそうだった。結構率直に言い合えそうな雰囲気だけど、早めに信用度を上げないとマズいかも。だがタイプが近いコピーライターと昔付き合いがあったんで、対応可能。
根木珠さんはセルパブではかなりの活躍をされているとの由、米田さんともお友達の間柄らしく、すでに楽しそうにおしゃべりをしている。ちょっと神経細いか、あんまり言いあうと止まる系かもしれない。良くも悪くも森山さんとは真反対。まずは彼女に気持ちよく書いてもらえるようなデザイン案を早めに提示した方が良さそうだ。
そんなわけで根木珠さんには米田さんが付いているし、森山さんは一人でも大丈夫そうだし、みんながそれぞれ気分良くなるように、全体のバランサーというか雰囲気づくり担当?みたいな役目をチャラチャラと暇な僕がやればいいんだな、とこの時点でチーム内の自分の居場所を理解した。大丈夫、そういうの超慣れてるよ。
あとは僕の作った過去の作品を見てもらったり、二人の作品を読ませてもらったり、えー普段どんな本読むの〜?みたいにご歓談いたしました。
そうしてお題の時間がきた。偽官房長官がずいと取り出した額縁には
「平成」。うむ?平成?
正直ピンとこない。だがこのピンと来ない感じをあえてぶつけて来た運営が、今思うだに恐ろしい。
というわけでブレスト。様々な切り口が考えられるが、短期間で完成品に持って行く必要上、完成度を少しでも高めるため「自分の得意分野に持ち込んで、テーマをねじ込んだほうが良い」という総意に達した。これは後の講演で三木一馬さんもおっしゃっていたので短期決戦のセオリーなのだと思う。デザインもあまりチャレンジングなことはせず、すでに分かっている方法でまとめたほうが失敗の確率は下がる。だがそれでいいのか?という思いもあって、短期間を鑑みいわば「置きに行く」のか、晴れやかに三振するのか。記録に残るか記憶に残るか、という選択とも言えるが、商業デザイナーの生態に従うなら前者を選ばざるを得ない。
そもそも広告プロモ系デザイナーのやり方でどこまでいけるか、実験の精神でこの場所に来たのだから「置きに行く」と言われようが、それ自体すでに挑戦なのだ、とやや屁理屈気味に納得することにした。
その後カリスマ編集三木一馬さんの実にためになる講演を聞いた。ポイントいくつか
・編集はM
・編集は著者の好みを把握して売れるものを書かせる
・編集はキャッチコピーちゃんとかけ
・ログラインは大切、「何の話なのか」を共有せよ
・デザイナーを読者役で使え
・とりあえずアルマゲドンはいい映画
このログラインの話は実に納得感が高かった。広告では「プロポジション」と言ったりするのだが、要は市場で数多のプレイヤーと戦うため「早い話がこの商品は何なのか」の核の部分を捉えることは超重要だよね、と言われているアレだ。そのためには物性を伴うUSPが必要だし、何を解決する商品なのか、そのベネフィット、根拠となる生活者インサイトの解析、裏付けになる調査と市場分析、と、はてなく続いて行くストラテジックな広告マネジメントのどセンターにある概念だ。
小説の「ログライン」は「プロポジション」と全く同じではないけれど、概念自体は近似のものだ。僕たち向けにすげえ軽く言ってはいるが、これを理解しているのとそうでないのとでは、仕上がりは多分相当変わる。うむ、ノベルジャム、思った以上に凄いことになりそうだぞ。
そして三木さんは、今回は編集が一番キツい、とおっしゃっていたがそこに勝機があると僕は勝手に踏んでいた。なぜかというと僕は今回デザイン担当ではあるが、現場ではクリエイティブ全体を統括するCDやADの仕事がメインだ。自分でコピーも書くし、プレゼンもするし営業もするのだ。もちろん校正も得意だ。若いコピーライターの書いたものにガンガン赤入れして憎まれているくらいなのだ。
三木さんは「デザイナーを読者役として使う」と仰っていたが、生活者と開発者の二つの視点を自在に操るのが商業デザイナーの能力だ。だから僕がいわば「隠れ編集」として、ある時は米田さんを影からサポートし、またある時は一般読者の視点で下読みをするなど、彼が編集として動きやすいようチマッと働いていればいいのだ。
そこへ行くとやはり不気味なのはBチームだ。あそこはほとんど、といいうか普通に編集二人体制なので、まずはライバルはBと見た。そしてデザイン部門で要注意は、目下のところプロのエディトリアルデザイナーを擁するAチームとFチームだろうか。
(4へ続きます)
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