羊とアリスと朝ごはん
●ノベルジャム2018参加記録 6 [2日目 朝]
森山さん作品(のちに「その話いつまでしてんだよ」でリリースされる)のアイディアについて一区切りしたところでもう一人の著者、根木珠さんのプロット、のちに「ひつじときいろい消しゴム」としてリリースされる作品の表紙に移る。
プロットを読む。どこか見知らぬ時と場所で暮らす羊飼いの少年が、現代日本の規定された世界にはめ込まれていく、というアウトライン。
実に摑みどころがないのだが、初日の仕事場で彼女の文を一読した印象は変わらず。茫漠とした感触、超現実とも言える独特の絵画的な雰囲気は、フィニッシュイメージとして持っておいた方が良さそうだ。
これはつまり「作品の世界(世界内事実)」と「その世界を覆う空気(上位にある作者の世界?)」を表現することになるんだろうか。しかし輪郭が相当に曖昧な作品世界のファクトだけを頼るのも心もとない。なので事実をベースとしつつも、特徴的な手触り、風合い、といったものをできるだけ取り入れたいと考えた。
基調となるのはやはり「牧歌」と「都市」のギャップであろうから、そこから考える。画面を2つに割る案や、緑の丘の上に蜃気楼のようにビルが見えるイメージ、あるいは無人都市の地面が全て草原になっている、など、可能性の有無に関わらず色々とアイディアを出していく。
中でも良さげな(要はわかりやすい、悪く言うとイージーな)画面分割をベースにしようと考えた。
と、そこまで考えて既に深夜になっているので明日のために眠ることにした。
これは僕が追い込まれた時にたまにやる手で、課題と解決の糸口とを頭に入れて眠るのだ。そうすると、概ね朝の4時とか5時あたりに閃くことがある。閃くと言っても完成した絵がやおら眼前に出現するのではなく、完成に至るプロセスの、ロジックめいた道筋が見えるのだ。いやホントに。
で結果どうなったかというと、驚きの展開も空前のヒラメキも全くなく、朝まで気持ち良くグッスリと眠りました。
まぁ、そのような虫の良い現象は狙って出せるわけもない。隣の野崎さんも起き出しているし、まずは朝飯だ。
昨夜の進捗から大して進まないまま7時半に食堂へ。速攻で食事を済ませ、作業開始時刻までの間、1本勝負で積み残したアイディアをまとめることにした。
ちなみに朝食なのだが、全部のおかずをちょっとづつ盛り、結果モロに食い過ぎる、というビュッフェスタイルにありがちな罠に陥ったことを白状しておきます。
さて昨夜の考え方自体に疵がないことを確認し、考えを進める。というか朝起きてからというもの、飯を食っている間も食堂への行き来の間も考えていた。
2面分割案については、ギリギリ上辺まで詰めた草原の写真と、同じくギリギリ下辺まで追い込み反転した都市写真を中央でドッキングさせるなど、写真のフレーミングで見せるやり方はアリと思えた。また上下のオブジェクトが対になる世界とつながる、一筆書きで入れ子になったようなギミックも考えられた。そのような分割と反転のイメージを、まずは基本コンセプトとして持っておく。
(↑資料とプロットを行き来しつつ考えていたこと)
というのもプロットを読む限り「牧歌と都市」に限らず、夢と現実、大人と子供、物とお金、少年と少女、といった転換軸をくるくると行き来する、これは「軸をめぐるお話」と解釈できるからだ。なので考え方を「軸を挟んだ二つの世界」にFIXし、表現方法を探っていった。
作家性の高い方の場合はまた事情が異なると思うのだけど、我々のようなタイプはビジュアルを開発する際にPIEブックスとかがまとめているデザイン事例本などをけっこう参考にする。が、今回は重くてかさばる資料をどっかり持っていくわけにもいかないので、ハードディスクに入れて持参した資料画像やネットを使い、様々なイメージをインプットしながら着地点を探る。いくつか参考となるものもあり、なんとなく行けそうな気はしていた。うまくいけばシュールレアリスティックな超然とした世界で、いわゆるケムに巻く的な効果を出せるんじゃないか、などとソロバン勘定していたように思う。
(↑午前中時点でのサムネイル、ほぼ原型)
ヒントを得たのは「不思議の国のアリス」で、契機になったのは脇役のメアリーだ。実はこの話は「メアリーのお話」なのではないだろうか、と思い立ったのだ。
この物語を羊飼いの寓話ではなくメアリーの心の世界とした時、アリスにおける地上(現実)と地底(異界)のような捉え方で、メアリーを特異点として世界が転回するという妄想も広がった。その妄想を抱え、世界観の大枠を頭の片隅で捉えつつビジュアル資料をあたり、資料とイメージの間を行き来して地固めする。淡い質感の作例や参考イメージ、ホライゾンを使った区切りのアイディア、草原や都市の写真など、資料をまとめたところで予定の9時を過ぎた。
では本日の戦場、セミナーハウスの仕事場に行こうか。
(7に続きます)
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