見出し画像

【オススメ本】成田悠輔『22世紀の民主主義ー選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになるー』SB新書、2022 。




「生じるものは全て滅びるに値しますからね」(ゲーテ『ファウスト』の悪魔メフィストフェレす)

という言葉の紹介から始まる本書。

「政治家から見れば、現場から遊離した世間知らずの学者の妄想だろう。政治学者や法学者からみれば、穴やツッコミどころだからけで閉口する素人の雑な暴論だろう」(p.27)

「ぜひ嘲笑してほしい。この本が必要なくなるような分析や思考を専門家に展開してもらいたい。そして、実践者に政治の現場に落とし込んでもらいたい。そのための反面教師となって海の藻屑となって消えられれば幸福だ」(p.27)

と著者は述べるように、著者の成田氏は政治家でもなければ、政治学者でもない。彼の専門は「データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン」である。

しかし、そんな政治家でもない、政治学者でもない成田氏が思わずペンを取ってしまうくらい今の民主主義が停滞と衰退を続けるのは事実であり、本書の内容はかなりハードルは高いが、一聴の価値があると思われる。

大きな構成は①闘争、②逃走、③構想の3部作となっており、それぞれで具体的な提言が続くが、一番著者が良いたいのは、③構想の部分であろう。

それはすなわち、サブタイトルにもなっている「選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」という部分である。

したがって、ネタバレは面白くないので、以下は①②を中心に、私が印象に残った言説だけを抜粋したい。

・民主主義こそ21世紀を悩ませる問題児であるようだ。(中略)世論に耳を傾ける民主主義的な国ほど、今世紀に入ってから経済成長が低迷し続けている(p.46)
・コロナ禍という危機を前にした多くの民主国家がどれくらいグダグダだったかを振り返るにつけ、立川談志のこんな言葉を思い出す。「酒が人間をダメにするんじゃない。人間はもともとダメだということを教えてくれるもの」(p.72)
・民主主義が扉を開くマスの横暴がそれよりマシだと信じる理由も実は薄い。アリストテレスが紀元前に書いた『政治学』も言っている。「極端な民主制から独裁制は生じる」(p.78)。
・求めているのは今のままの民主主義でもなければ、反動としてのカリスマ/狂人依存の専制でもない。民主vs専制の聞き飽きた二項対立を超えた民主主義の次の姿への脱皮だ(p.88)。
・企業経営では当たり前に行われている企業統治。それを国家経営に持ち込もうという発想だ。「ガバメント・ガバナンス(政府統治)」の試みと言ってもいい(p.98)。
・「政治家への定年や年齢上限はいくつかの国では実現している」(p.106)
・スイスでネット投票を導入した自治体としなかった自治体の前後変化を比較した研究は、ネット投票は投票率に影響がなかったことを示している(p.125)。
・タックス・ヘイブンがあるように政治的「デモクラシー・ヘイブン」もあり得るのではないか?(p.135)
・(イタリアを事例に)どの国も支配していない公海の特性を逆手に取って、公海を漂う新国家群を作ろうとい企てがある(p.136)。
・(アメリカオレゴン州を事例に)国全体で見れば超マイナリティでしかありえない若者も、大挙して特定の自治体に押しかければ、その場所でのマジョリティになれる(p.144)。
・選挙なしの民主主義は可能だし、実は望ましい。そう言いたい(p.160)。

以上である。ワクワクしただろうか。それともバカバカしかったであろうか。

ともあれ、単純な現状維持は後退であり、日本が今後前進するためには、何かしらの変化は必要不可欠である。

誰のための、どんな未来を作るか。そのための頭の体操にはもってこいの一冊であった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?