見出し画像

【オススメ本】斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書、2020


少しブームは去った感はあるが、気になりながらも読む機会を逸していた1冊。

タイトルにもあるが、最大の貢献は「人新世」という言葉を日本中に浸透させたことにあるのではと思う(最後は「資本新世」という言葉も登場)。とはいえ、この言葉は斎藤氏のオリジナルな造語ではない。ノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェン氏の言葉で、【人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆い尽くした年代】という意味である。

本書は50万部を超えるベストセラーになっているので、本の内容の紹介は割愛する。アプローチとしてなるほどと思うのは、いわゆる世間でイメージされている「マルクス」の思想をベースにするのではなく、タイトルにもある「資本論」以外のマルクスの思想や考えを紹介した点にあるだろう。
(読んでない方向けに1点だけ補足しておけば、本書は共産主義や旧ソ連、中国のような全体主義国家を礼賛するものでは全くない)

結論から言えば、それは「脱成長コミュニズム」。この一言に尽きる。

その重要性や必要性を説くために、今日もてはやされるSDGsもバッサリ切り捨てる。脱○○という表現がしっくりこない人には、321ページで紹介される「ブエン・ビビール(「よく生きる」の意。エクアドルの先住民の言葉をスペイン語に訳したもの。)」ための地域(・国・地球)づくり、といった感じだろうか。

本書全体の是非は他の書評に委ねるとして、地方自治の観点から面白かったのは、デトロイトのワーカーズコレクティブやフィアレス・シティ(恐れ知らずの都市)としてのバルセロナの気候非常事態宣言など人新世による具体的な失敗から立ち上がった事例が後半で紹介されている点。

一方、やや残念だったのは、「同時に議会民主主義そのものも変容しなくてはいけない。(中略)地方自治体のレベルでは、ミュニシパリズムこそがそのような試みである(p.355)」と日本の自治体について一言だけ触れてあるが、世田谷の保育園事例を除けば、他に具体例が紹介されなかった点。
ただし、この点については、本書刊行後に誕生した杉並区の岸本聡子さんが
「地域主義という希望」という良書を出されているので、こちらと併せて読むとよいだろう。

最後に、提案部分について一言。本書では以下の5つの提言がなされている。
①使用価値経済への提言
②労働時間の短縮
③画一的な分業の廃止
④生産過程の民主化
⑤エッセンシャルワークの重視

いずれも一考に値する提言であり、チャレンジする価値は大いにある。
しかし、この実現のためにはやはり現行の政治(家)・政策(起業家)との連携・対話が欠かせなく、これは途方もなく時間がかかるだろう。

そのこともあり、筆者である斎藤氏はメディアにもよく登場し、自身の考えの啓蒙の機会を増やしているのではと推察する。

理論なき実践は暴挙、実践なき理論は空虚と昔から言われる。
斎藤氏のパラレルな理論と実践を期待すると共に、我々一人ひとりが未来に対して試されているという事実を忘れてはいけない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?