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これからの人事

ただいま、パナソニックとnoteのコラボで「この仕事を選んだわけ」の作品を募集していますので、自分なりに考えているこれからの人事に関することをまとめてみました。

「会社」とはその会社が目指す世界(ミッションやパーパス、ビジョンで示されるもの)を実現するための装置だと捉えています。

どうやったらその実現可能性を最も高められるのだろうかと考えた末、今の枠組みの中で言えば、それが「人事」の仕事なのだと捉えています。

会社が機能する条件とは

尊敬できる経営者がいて、能力のあるメンバーがいて、明確な戦略がある。それでも会社としては上手くいかず、立ち行かなくなることがあります。

自分自身、2007年の夏にそれを体験しました。

社会人になって2年と少し。強烈な原体験になりました。そんな経験をして以来、「人と人とがどのように関わり合うのか」「組織のカルチャーをどのように形成していくのか」といった要素が会社の目指す世界を実現するためのキードライバーであると考えるようになりました。

その役割を誰が担うべきなのか。

一般的な解は今も持ち合わせていません。ですが経験を重ねる中で「経営」を除いて近しい役割を持つのは「人事」であるのだと理解し、それ以降は「人事」という仕事に価値を感じ、キャリアの軸になっています。

ハードとソフトのバランス

「人事」の仕事のコアと言われたときにイメージが湧きやすいのはハード寄りの仕事ではないでしょうか。

組織の7Sに照らせば、ハードは「戦略」「組織(形態や構造)」「システム(制度)」です。一方のソフトは「価値観」「スキル(組織能力)」「人材(個々の能力)」「スタイル(社風や文化)」です。

別の整理の仕方になりますが、人事内の役割で整理される場合も多いです。

人材獲得、人材開発、制度企画、タレントマネジメント、リソースマネジメント、任用、etc。

「人事」というと一般的にはハードに寄与することが求められていきます。組織に手を入れたり、制度を考えたりすることが人事の中でも中心的役割と捉えている方も多くいるように感じます。

一方のソフトでいえば人材開発が中心で、組織開発がようやく広がりを見せているような段階。

「価値観」や「スタイル」の領域に明確なメソッドを持って仕掛ける役割機能はまだこれから育っていく段階だと感じます。

それはなぜか。

7Sが提唱されたのは「エクセレントカンパニー」は40年前。そのあと20年前には「ウォーフォータレント」でさらに強くソフト面の重要性が説かれていると感じます。

にもかかわらず(少なくとも国内大手では)、ソフトの領域の役割進化は遅れているようです。

その理由が、「人事のパラダイム」だと思います。今、そこが強制的にアップデートしなければならないところまで潮目がきている。

そう感じます。

変化するアプローチ

冒頭に書いた通り、「組織のカルチャー」こそが企業が目指す世界を実現するキードライバーだとした時に、向き合わなければならないのは「会社組織」という無形の、捉えどころのない対象になります。

ここで「人事」という枠組みの中で落とし穴があります。

「組織」を考えるはずが、「個人」を対象にしがちという問題です。アンケートをとってみたり、アセスメントをしてみたり、個人の能力開発をしてみたり、「組織」という題目に対して「個人」の話に終始してしまう。7Sのソフトの中でも人材開発(=個人)に観点が寄ってしまう。

これは日々リアルに社員1人ひとりと向き合う仕事柄、仕方ないところではありつつ、避けたい視野狭窄だと感じます。

そうではなく、組織は人の集まりです。

「集団」が、何らかの目的をもって活動する。そこにある原理原則を理解しなければならないと考えています。

生物学的な側面、集団心理の側面、社会学の側面。人間理解があってこそ、ありたい方向に組織をガイドしていくことができると思います。

加えて、その「集団」が接する外部環境を考慮する必要があります。

企業における競争環境、社会環境、経済動向、etc。デジタル化を通して人や経済、文化は地域を超えて交じりあい、相互作用の影響は広範にかつ多層化しています。

VUCAという表現もされますが、昔と比べてどうかはさておき、今が「状況の解釈の困難さ、予測不能さの度合い」が高い状態ならば、画一的なアプローチや軌道修正できない取り組み、変化しない「集団」では、環境への適応度は下がり続けてしまいます。

そのような環境下で、「集団」の状態そのものが脆弱性とならないようにするため、生物学的アプローチを重視することが考えられます。

例えば以下のようなことです。

・レバレッジポイントを見極めて変化に適応する
・直接的なアクションを指示するのでなく、組織のコンテクストを形成する
・標準化に頼るのでなく考え方の多様性から生まれるアプローチを認める

https://www.bcg.com/ja-jp/featured-insights/winning-the-20s/science-of-change

近年、「人事」のテーマでDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)やアジャイル人事のようなキーワードがより多くでてくるようになってきています。

流行りなどでは当然無く、環境変化への適応度を高め、脆弱性を回避するためにDEIや組織のアジリティが求められるのです。

「人事」のパラダイム転換

これらの観点は「人事」という仕事において、しばしば「これまでのパラダイム」と衝突します。

少し前の時代に目を向ければ、計画を立て、工数を揃え、一律的にルールを守らせて、生産的な環境をつくり、プロセス管理をすることで日本の産業の成長を支えてきた経験があるからです。

前提にあるのは同質的であり、人材の流動性が低く(閉鎖的)、一律的で平等性重視。その前提の中で進化してきた「人事の仕組み」。

それに対して、外部の環境が変わってきているフェーズと捉えています。

環境の変化に対して「人事の仕組み」そのものを適応させなければならない。

この転換点においてまず大切なことは、「直接的な関与(構成人員を変える、制度を変える、など)」から「間接的(考え方、文脈、行動の前提にある仮定を変えるもの)な関与」へのバランスシフトです。

DEIで言えば、「直接的な関与」は構成比率を変える(例えば女性比率〇%にする)ことであり、「間接的な関与」はバイアスを逓減するアプローチなどが考えられます。

「間接的な関与」は、「直接的な関与」より効果的であるという研究結果があります。

会社がパーパスやバリューを定義し、それらに基づいた関与をすることは、目的や考え方にアプローチするという意味でまさに効果的な「間接的な関与」です。

意味の時代

「間接的な関与」とは、別の表現をとれば直接的なアクションを指示するのでなく「組織のコンテクストを形成する」ことと言えます。

その会社で働く社員1人ひとりやチームが会社が目指す方向性の中で「意味づけ」できるように手を打ち続けるということです。

ここ数年のビジネス書や関連する記事の中で、「意味」の重要性が取り沙汰される機会が増えてきました。

山口周氏の「ニュータイプの時代」において、「役に立つもの」と「意味があるもの」の対比の中で前者はグローバル競争の淘汰にさらされ、そこで勝負できないプレイヤーは後者の世界にシフトすべきであると説いています。

ここでの「意味」とは、数値化しにくい人の感情、心に訴えかける要素を指しています。

時期同じくしてパーパス経営というキーワードも耳にする機会が増えてきました。

ソニーは社員が同じ長期視点を持って価値を創出していくためにSony’s Purpose & Valuesを2018年に策定しました。多様な事業、取り巻く環境変化の中であらためて同じゴールに向かうためです。

こうした関心の向き方には共通するものを感じています。

根底にあるものは「成長しない経済環境」であり、その環境下で生まれ育ってきた日本人共通の「貢献実感の不在」ではないかと捉えています。

加えてとりわけこの2000年代は日本にとっては自然災害が強く記憶に刻まれる時代でもあります。

結果、実利も引き続き大事ですが、手応えの無さゆえに社会への貢献に存在価値をより見い出し、地球や環境といった観点でのリアリティが加わっている。

そうした中で働き手は企業に何を求めるのか。その解が今のトレンドそのものなのではないでしょうか。(※北米を中心としたパーパス議論の盛り上がりはまた異なる文脈をたどっていますが)

無形の価値

消費活動の中で重視されるものが、「モノ」から「コト」へシフトしているという話がよくでてきます。さらには「トキ消費」といった概念まで出てきています。

所有することから体験することに価値の重みが移り変り、その時、その瞬間にしかない体験、非再現性にこそ価値が見出されている。

その場にいることで生まれる繋がりに価値が見出されている。

世の中で時給が高い仕事のひとつに「DJ」の仕事があります。なぜかと言えば、まさにその場の「空気」を創る仕事だからなのかもしれません。

これは企業の中、とりわけ「人事」の仕事に照らしてみれば示唆があります。

会社という空間、人生の中でも多くの時間を過ごすことになる場の空気をどのような彩りにするのか。

そこでしか体験できない価値、参加し、貢献する喜びをどのように設計するのか。「人事」という仕事の進化の本質はここにあると個人的に考えています。

まとめると

・7Sの中の「ハード」から「ソフト」へのバランスシフト
・「直接的な関与」から「間接的な関与」
・「個人」から「集団」
・「機械論的アプローチ」から「生物学的アプローチ」

こういったパラダイムを踏まえながら、組織のカルチャーを形成していく。そしてそのカルチャーが発展進化していくためにガイドしていく。

そういうことを考えたときにふと思うのです。

これは「人事」なのか?

やはり、今の環境においては「人事」に区分される仕事なのだろうと思います。

一方で、将来的にも「人事」であり続けるのか(あるいは今の「人事」の仕事が今のままあり続けるのか)はハテナが浮かびます。

人が自律的に選択していく流れを設計するという観点では、マーケティングや社会学の要素も多分に含むと思います。

カルチャーを形成していくためには広義の意味でのコミュニケーションも考えなければなりません。

組織のコンテクストを形成するためには、ストーリーテリングやファシリテーションも重要な要素になります。ナラティブをどう生み出すかも考えなければなりません。

体験をデザインするためにはデザイナーの知識も必要になってくるかもしれません。ユーザー調査、エスノグラフィー、それらをカタチにするプロセスにはデザイン思考も有効でしょう。

カルチャーの実装

つまるところ、会社が目指す世界が先にあって、その実現に必要なことをやっていくのであって、役割表現は後からついてくればよいのだと思います。

その意味で、今の自分の主たる仕事の軸は「カルチャーの実装」なんだと捉えています。

この領域が、経営において重要性が認知されるように、コツコツやっていかなきゃなと思う日々です。なかなか重要性や重みが理解されないので仲間が増えるといいな!と切に思っています・・・。

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