2022 年間ベスト
年間ベストのプレイリストをサブスクで作り始めてかれこれ6年になる。その年の振り返りのつもりで年末にいろいろと思い出しながら50曲ほど厳選し、順番を考えながら並べていく作業が楽しくてずっと続けている。
サブスクが普及して手軽に音楽を聴けるようになったと思う。だからといって、なにも手軽に音楽に心を動かされるようになったわけでない。それでも人と共有しやすくなったことは大きいし、好みの曲に出会う機会は間違いなく増えたように感じる。2022年は例年以上にいい音楽をたくさん聴いた。プレイリストに入れたい曲があまりにも多すぎてなかなか選びきれず、いっそのこと100曲にしてしまおうかと思ったくらいだ。とはいえ何年後かに自分で聴き返すことが続ける理由のひとつであって、あまり長すぎるのは論外なのでやめた。そこからは純粋にただひたすら曲に向き合いながら本当に残したいものを熟考した。
迷った時は昨年までのプレイリストを確認して、今まで選んだことのないフレッシュなアーティストをチョイスして変化をつけてみた。アルバムを購入して愛聴していたにも関わらず、Wet LegやSkullcrusherやSay Sue Meなどを外した理由はそれ。ほかの曲と音の調和がうまく取れずにプレイリスト内で浮いている印象を持つタイプの曲もここでは外した。曲順で迷った時にはジャケットの色や雰囲気が似ているものを並べるとうまく流れができて収まりが良くなることは、数年前にラジオの選曲を担当した際にも気づいていた。スマホで音楽を聴く現代においてもアートワークはやはり重要で、音楽と強く結びついているものなのだと改めて感じる。こういう作業に没頭してひとつひとつの音楽についてあれこれ考える時間が、慌ただしく過ぎる年末にはなかなか貴重だったりする。
今年はなんとなく年間ベストアルバム10枚も選んでみた。
3~10位は順不同で、2位はLiss。
そして11月に書いた記事から気持ちは変わらず、1位はThe Oriellesの『Tableau』。
普段はその年にリリースされたものではない音楽もいろいろ聴いているし、もちろんサブスクにないレコードやCDを聴いたり、音源化すらされていない音楽に惹かれることも多いので、音楽リスナーとしては野暮なことをしているのかもしれないとも思う。でも人にお薦めしたりされたりしながら音楽を聴く行為はなにものにも代え難く、いくつになっても楽しい。2022年はたくさんの人に新しいアーティストを教えてもらったり、人と音楽の話をする機会も多く、その点だけは本当に充実した年だった。このプレイリストの中の1曲が誰かのライブラリに追加されたり、どこかで会話のきっかけにでもなればいいなと密かに願う。
Spotifyは使ってないのにプレイリストを作るためにわざわざログインしたから偉いのです。
1.Song of Trouble(feat. Maya Hawke)
/CARM
トランペット奏者 C.J.カメリエリのこの曲はスフィアン・スティーヴンスがボーカルを務めたものを含めいくつかバージョンがあって、これはユマ・サーマンとイーサン・ホークの娘のマヤ・ホーク。マヤは今年リリースのアルバムもなかなか◎。
2.Sunny Room/Maia Friedman
Dirty Projectorsのメンバーのソロ。アルバム先行曲のアコースティックな響きに一瞬でハートを撃ち抜かれた。
3.Stupid/not dvr
XL RecordingsからリリースされたUKのSSWのEPのローファイポップな1曲。期待の新人ってやつ。
4.Let It Die/Mitch Davis
ベニー・シングスを彷彿とさせるカナダのSWW。作曲も演奏もすべてひとりで作り上げたというマルチな才能を発揮したファーストアルバムがめーちゃくちゃよかった。
5.Isn't It Lovely/Grace Ives
ブルックリンのSSWのこのアルバムも年間ベストのひとつ。ポップスとして突き抜けるスピード感。その名の通りのジャンキースター。
6.Seven/Slaters
NYのデュオ、ということぐらいしか詳細がわからないダンスユニット。優秀なAIにピンポイントでお勧めされるがままに繰り返し聴いた曲。
7.Age of Energy/Maylee Todd
カナダのSSW。ふわふわと漂うシンセの音が心地よいエレクトロポップ。この人もアルバムがよかった。
8.Like You/Miss Grit
UKのMute Recordsと契約した、これも期待の新人!来年発売のアルバムが楽しみな今イチ推しのアーティスト。
9.I Can't Bike/Pictoria Vark
アイオワを拠点に活動するアジア系SSWのファーストアルバムより。Rodencia Collectiveの紹介で知って、ベーシストらしいシンプルな音と飾りっけのないまっすぐな歌声に惹かれてアルバムを即購入した。
10.Air Guiter/Sobs
シンガポールの大好きなインディーバンド。4年ぶりのアルバムは「ど」がつくほど全曲ポップで、よりパワーアップしたソッブスにまた会えたことが本当に嬉しいよ、わたしは。
11.Pharmacist/Alvvays
こちらも5年ぶり!メンバーの脱退&加入を経て5人編成となったカナダの最高インディーバンド。全曲シングルカットできそうないいメロディといいアレンジをパンッパンに詰めた奇跡みたいなアルバムを作った。
12.Waves/DYGL
初期の曲をアレンジを固めてやっとリリースしたものらしく、こんないい曲を長いこと温めていたとは…!と感激した。12月にリリースされたばかりの4thアルバムはこれからゆっくり聴こうと思う。
13.Anti-glory/Horsegirl
デビューアルバムの1曲目がソニック・ユースばりのダーティーな曲からはじまるシカゴの女子3人組はマジで信用できる。
14.Met Resistance/Cola
カナダのポストパンクは大体素晴らしいと証明してくれるバンドをまたひとつ見つけた。今年じゃなければ年間ベスト級。
15.Heart Attack/Working Men's Club
UKポストパンク期待の星としてデビューしてから急速にエレクトロに移行していき、ついにはインダストリアルな方向にまで突っ走った2nd。いくつになってもUKのこういう尖ったバンドに弱いのです。
16.Fuha/cero
ジャズフレイバーなcero流エレクトロニカ。緻密でモダンで不思議な音。さらに新境地を開いたと思う。
17.Airtight/The Orielles
年間ベストに決めたアルバムから1曲選ぶのはなかなか難しかったけれど、前後の曲と上手く調和してくれたので今回のプレイリストのお気に入りポイントのひとつ。
18.Stabilise/Nilufer Yanya
春のリリース時から半年経って改めて聴いてみても本当に魅力的なアルバムだった。ブリオンのプロデュース曲も気に入っているけれど、プレイリストのフックとして勢いのある曲を選んでみた。
19.We're Toxic/Liss
数年前からアルバムを待ち望んでいたデンマークのバンド。ボーカルを昨年亡くした悲しみを乗り越えて完成させた美しい作品。フィジカルが日本にまったく入ってこないのが残念だけど、もっと多くの人の耳に届くことを願っている。
20.気分じゃないの(Not In The Mood)/宇多田ヒカル
アルバムはフローティング・ポインツと小袋成彬が手がけた曲が特に好きでよく聴いた。今の気分でダウナーなこの曲をチョイス。
21.One/Kelly Lee Owens
前作から更に実験的な方向へと突っ走る、UKの孤高のプロデューサー。彼女のクールな曲は冬の夜に似合う。
22.Sub Erotic/Nelson of the East
アンダーグラウンドなダンスミュージックを延々と聴き漁って見つけたアーティスト。ミドルテンポなブレイクビーツが印象的で繰り返し聴いたイタリア産テクノ。
23.gadja(Takuro Okada Remix with akatsuka)/South Penguin&岡田拓郎
Dos Monosや環ROYが参加した曲のリズムを活かしつつ、アカツカのクレイジーなスキャットを乗せて味変した鬼ヤバMIX。もっと話題になっていい。
24.B Planet/Red Snapper
我らがレッド・スナッパーが帰ってきた!相変わらず渋くて重いジャズファンク。アルバム丸ごと大好き。
25.Kim/PVA
オリエルズのアルバムを買いに行った店で流れていて、思わずNow Playingをチェックしに行った曲。
26.変わる消える(feat. mei ehara)/Cornelius
"あなたがいるなら"に匹敵する坂本慎太郎の歌詞と小山田圭吾の音のコンビの素晴らしさ。フジロックやソニマニで聴いたコーネリアスver.も本当によかった。
27.Idol, RE-run/Westerman
ビッグ・シーフのドラマーのジェームズ・クリヴチェニアが共同プロデュースしたという温かみのある美しいサウンドと、元アメリカ大統領をテーマにしたなかなか辛辣な歌詞との対比が魅力的な曲。
28.Simulation Swarm/Big Thief
そして各メディアで年間ベストに選ばれまくったブルックリンのインディーバンド、ビッグ・シーフの最新アルバムも、先述のドラムのジェームズがプロデュース。
29.Ruby/Hovvdy
今のところリリースしている曲がどれもこれも良くて、これはネクストホイットニーか!?と期待が高まるテキサスの2人組。
30.If They're Shooting At You/Belle and Sebastian
初夏に聴いたベルセバのアルバムは、久々に会った懐かしい友人のように生活を優しく彩ってくれる曲ばかりが詰まっていて、ちょっと泣いた。
31.Sipping On the Sweet Nector/Jens Lekman
前作も好評だったスウェーデンのSSW、イェンス・レークマンの新作より。軽やかでドラマチックなストリングスが美しい。
32.Emortional Etarnal/Melody's Echo Chamber
フランスのSSWの新しいアルバムは相変わらずすごくポップであるうえに、ジャズドラマーが参加したことが効いていて、なるほど納得なリズムの心地よさ。
33.Wind/Healing Potpourri
ハイラマズのショーン・オヘイガンがプロデュースしていると知って聴いてみたカリフォルニアのSSW。アルバムは年間ベストに入れるか最後まで迷うほど全曲素晴らしかった。
34.Superreality/Marina Allen
君こんなの好きでしょ?とAIにおすすめされるがままに聴いたロサンゼルスのSSW。70年代のフォークをそのまま生き写したような徹底したスタイルが素敵。
35.Colours Fade/Natalie Evans
王子のレコードショップRodentia Collectiveが国内盤CDをリリースしたUKのSSW。アコギとピアノとハープと水の音と優しい歌声が調和した美しい作品。年間ベストアルバムのひとつ。
36.Homes/Georgia Harmer
カナダのArts&CraftsからリリースされたSSWのジョージア・ハーマーのファーストアルバム、これがまたフォーキーでポップでめっちゃくちゃよいのでぜひとも聴いてほしい。お母さんもSSWらしいです。血筋!
37.Count to 10/Pei
検索しても全然情報が出てこないアーティストの曲だけど、ブレイクビーツっぽいドラムといいブリブリいうベースといいファルセットボイスといいバンジョーっぽい音色といい全部たまらん。
38.Magical Blink/(((さらうんど)))
イルリメとXTALの2人のユニットになったそう。もう少し聴きたいと思う絶妙なタイミングで終わる曲ばかりが入ったアルバムが新鮮だった。
39.Something On My Mind/Tom Misch&SuperShy
フジロックでのバンド編成とはうって変わり、ダンスミュージックに挑戦したトムミッシュの別人格。彼は何をやらせても上手いのだ。
40.Cosmic Love/Robert Babicz
マルタを拠点に長年活動しているトラックメーカー。キックの強さとメロディーの美しさに惹かれて夏の終わりによくリピートしていた。
41.All the Room and No Space/DEFSET
これもアンダーグラウンドのダンスミュージックを漁って見つけたUKのアーティストのブレイクビーツもの。この人の"Vvt - I"という曲もかなり好きです。
42.El Camaron(Ricardo Villalobos Remix)
/Matias Aguayo
2013年リリースのオリジナルもいいけど、リカルドのリミックスがやはりインパクト抜群。秋に出たマティアスのEPもバラエティー豊かでよかった。
43.Crackin Up/Crack Cloud
カナダのポストパンク集団の念願の初来日を見逃さなかったことは今年いちばんの決断だったと思う。特に終盤のこの曲のパフォーマンスには本当に痺れた。
44.ある日のこと/坂本慎太郎
昭和アニメのエンディングテーマのようなのどかなテンポに鋭い歌詞を違和感なく乗せてじわじわと脳を蝕み、何事もなかったかのように去っていく3分半の坂本慎太郎マジック。
45.Fell Through/fanclubwallet
カナダのSSW、ファンクラブウォレットことハンナ・ジャッジ。彼女の幼なじみにプロデュースしてもらったという内省的でポップなファーストアルバムもなかなか聴き応えがあった。
46.Bullet/Elizabeth M.Drummond
The Nationalのアーロン・デスナーがプロデュースをしたLittle Mayというバンドのギタリストとして活動していたオーストラリアのSSW。繊細で暗いインディーロックが好きな方にぜひ。
47.Sunsets(feat. blessingsnore)/Tomu DJ
カリフォルニアのDJ。アルバムの中ではブレイクビーツの曲が特によかったけれど、プレイリストに合わせてここではアンビエントをチョイスしてみた。
48.Is It Light Where You Are(1-800 Girls Remix)/Art School Girlfriend&1-800 Girls
UKのSSW、アート・スクール・ガールフレンドことポリー・マッキーの昨年リリース曲を極上の歌ものハウスに変換した大好きなリミックス。
49.Stormy Angel/Placid Angles
ほぼ毎回観ているDOMMUNEのヴァイナル講座のJet Set Records回で星川さんが紹介していた曲。ジョン・ベルトランの別名義。
50.Belfast(David Holmes Remix)/Orbital
オービタルの2人がデビュー時にベルファストを訪れたことがきっかけで生まれた曲を、30周年の節目の作品でベルファスト出身のデヴィッド・ホームズの手によって蘇らせるという友情に涙した1曲。
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コロナ以降ほとんど遊びに行けなかった期間の鬱憤を晴らすべく、2022年はライブにもたくさん足を運んた。ちょっと行き過ぎたくらいだった。ベストライブは11月24日代官山UnitのCrack Cloud。コロナで中止になった2020年4月の幻の初来日から約2年半、ついに彼らを生で観ることができた……!サックスやハープなど多様な楽器で自らの個性を表現するように躍動するメンバーと、それらを真ん中で司るドラム&ボーカルの存在感。タイトなリズムの高揚のうえに快楽、不安、解放、怒り……と、様々な感情を詰め込んで爆発させた肉体的でアヴァンギャルドなポストパンク。年間ベストどころか、ここ数年で観たアクトのなかで最も記憶に残る夜だったことは間違いない。
そんな胸が躍るほどの特別なライブを体験したというのに、周りにつられてスマホを掲げて一瞬だけ撮影をした自分自身に興醒めしてしまい、少し後悔をして、そこからなんとなくインスタをしばらくやめている。他人はともかく、自分は言葉で伝える努力を怠らないようにしようと誓った。
2022年の1曲を選ぶなら"変わる消える(feat. mei ehara)"。元々この曲は、2021年の7月にAmazon Musicのプロジェクトである短編映画の主題歌として限定配信されていたもので、直後のオリンピック開会式音楽担当の辞任騒動を受けて配信を停止し、2022年の夏の活動再始動の際にコーネリアスの新曲として新たに再配信された。抗えない時流に対して抱く喪失感と虚無感、その複雑な心情の多面性をシンプルかつ明瞭な言葉で表す坂本慎太郎と、有機的なサウンドで立体的に動かすコーネリアスと、淡い色と絶妙な温度をそっと足すように歌うmei ehara。複数の音楽の才能が重なり合うこの楽曲がきちんと正式にリリースされて再び日の目を見ることになる、そんな2022年が訪れて本当によかったと心から思う。
※この記事を仕上げている段階で、2023年2月22日にこの曲が12インチでリリースされるという朗報が!しかも小山田圭吾本人のヴォーカル・ヴァージョンも収録、そして2011年にsalyuxsalyuに提供した楽曲「続きを」のセルフ・カヴァーも収録とのこと。
最後にnoteのことなどを。
2021年が異常なほど読まれた年だったので、それと比べると通常通りでしたが、こんな感じでそこそこ頑張りました。
あまり多くは投稿できなかったけれど、特に後半は力を入れて頑張った気がします。
サブスクにはないので今回は残念ながら選べなかったけれどMikio KaminakamuraのEPはかなりよかったですね。
それと11月に記事を3本作りました。1ヶ月に新しい記事を3回も投稿したのは初めてのこと。先述のThe Oriellesのレビューと、父親が亡くなったことを書いておきたくて残したエッセイ(なんとなくポール・オースターの『ナショナル・ストーリー・プロジェクト』をイメージした)、それから敬愛するDavid Holmesについての記事、どれもアクセスは多くなかったものの、わりと力を入れて書いてみたのでよかったら読んでみてください。
いつもたくさんの人に読んでいただいて感謝です。直々にメッセージをくれる人、貴方達のおかげでモチベーションを保ててなんとか成り立っています。課金してくれるよくわからない人に至っては最高です。最高じゃなくてもぜんぜん構わないので、今年もよろしくお願いします。
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