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短編小説から見る社会

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菅原ゼミで読んだ短編小説の書評を順次掲載していきます。書評は全てゼミ生が書いています。授業期間中の毎週末ごろ更新です。  ※ネタバレありですので気になる方はお気をつけください。
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#目取真俊

目取真俊「水滴」書評(3)(評者:平山大晟)

目取真俊「水滴」書評(3)(評者:平山大晟)

目取真俊「水滴」(『現代小説クロニクル1995–1999』収録)

評者:平山大晟

 第二次世界大戦末期の1945年、沖縄を中心に連合国軍と日本軍の激しい戦いが勃発し、民間人を含め約20万人の犠牲者を出した。現在でも沖縄には当時の戦跡や大勢の死者の名前が刻まれた慰霊碑が数多く存在し、その悲惨さを物語っている。 
 本作「水滴」は、そんな沖縄戦から50年ほど経った沖縄を舞台にした作品である。沖縄戦

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目取真俊「水滴」書評(2)(評者:山口莉乃)

目取真俊「水滴」書評(2)(評者:山口莉乃)

目取真俊「水滴」(『現代小説クロニクル1995–1999』収録)

評者:山口莉乃

 生きていく中で、何か罪悪感や後ろめたい事があった時、その事を考えないようにして記憶から消し、日々を過ごしてしまう事はあるだろう。この物語の徳正もそうだった。
 沖縄に住む徳正は、とつぜん右足が冬瓜のように膨れ、親指から水が滴り落ちるようになった。寝たきりになった徳正の意識は正常だったが、言葉を発する事は出来

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目取真俊「水滴」書評(1)(評者:竹中菜南子)

目取真俊「水滴」書評(1)(評者:竹中菜南子)

目取真俊の芥川賞受賞作「水滴」の書評を3人の方に書いていただきました。まずは竹中菜南子さんです。

目取真俊「水滴」(『現代小説クロニクル1995–1999』収録)

評者:竹中菜南子

 七十六年前、日本人は戦争を経験した。数えきれない犠牲者を出した一方で、戦争のつらい記憶を残したまま生きている人もいる。私たちが戦争を知るには戦争経験者からそのつらい記憶を伝えてもらうしかない。現代の小学生は修学

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