家族と話し合いながら、自分が優先する「軸」を持つ――ライター・藤堂真衣さん
フリーランスで働きながら妊娠・出産・育児に向き合っている方への、不定期インタビュー連載。第2回目はライターのまいもんさんこと、藤堂真衣さんです。
まいもんさんには、彼女が編集者をしていた時代にお仕事をいただいたのが出会い。同い年、同じ関西出身ということもあり、交流が生まれました。その後まいもんさんもフリーランスのライターになり、いまではビジネス系のかっちり案件からアニメや漫画などのカルチャー案件まで、幅広く執筆されています。
彼女からは「夫は忙しいサラリーマン。なかなか子どもに踏み切れない……」という話を、しばしば聞いていました。そんななか、どうやって人生の舵を切ったのか? ぜひ伺ってみたくて取材をさせてもらったのが、妊娠中だった昨夏のことです。
お話してもらったのは、妊娠に踏み切るまでの葛藤、産後の仕事についての計画など。自分が何を大切にしたいか、どんな基準で仕事をしていきたいか考えている様子が、とても印象的でした。
10月に無事生まれた息子くん。取材はその数か月前にさかのぼります
「夫はどれくらい育児できるのか」を話し合った
――まいもんさんは、33歳で妊娠するまでにわりと長く検討期間があった印象です。妊娠・出産への不安要素は、おもに何でしたか?
結婚したのが2016年、妊活を始めたのが2019年だったので、確かに期間は長かったかもしれません。不安に感じていたのは、大きく分けると「仕事のこと」と「仕事以外のこと」ですね。フリーランスは不安定だから仕事で悩む方が多いと思うんですが、私はどちらかというと、そこではあんまり悩んでなくて。仕事が減るかもという不安はもちろんあったけど、むしろ社員として働くよりも融通がきくから、会社に退職を迫られるようなこともないし、自分でうまく休みながらやっていけばいいと考えていました。
――「仕事以外のこと」は?
子育ての分担やお金のこと。夫は忙しい人だから帰宅は早くて21時半、遅いと24時を過ぎたりするんですね。テレワークもいまいち浸透しきらない会社のようだし、このままだと完全にワンオペになっちゃうなと思って……いずれ子どもがほしいと思ってはいても、なかなか決心できなかったんです。
――そんな状態から、どうやって妊娠に踏み切ったんでしょうか。
さくらさんが2019年の夏に開催していたイベント「フリーランス×子育てのリアル」は、すごく大きいきっかけでした。あのときのスライドを夫に見せて、もしも妊娠したら夫はどれくらい育児ができるのか、聞いてみたんです。「育児のぶんの50パワーをどうやって賄う?」というところを、お互いどう考えているかすり合わせできたのは、大きな一歩になったと思います。
イベントのスライド
――そんなふうにスライドを活用してもらえてうれしい!
それまでは漠然と子どもがほしいと感じているだけで、現実的なコミュニケーションが足りていなかったなぁと思いました。でも、この機会に話し合った結果、我が家のリアルな家事育児の分担が想像できたんですよね。たとえば、家計のメインを担う夫に、収入を減らしてまで育児参加してほしいわけではないし、私はいっとき仕事を減らして育児をしてもいいと思っている。でも完全ワンオペはきついから、ひととおりのお世話ができる状態ではいてほしい。そのくらいのバランスなら、夫が激務でもなんとかやれるだろうと思えました。
――家事や育児、仕事をどうやって分担するかのバランスは、それぞれの夫婦の落としどころがありますもんね。まいもんさん家の場合は、育児はやや妻が多め、仕事はやや夫が多めのバランスだった、と。
そうですね。夫が仕事の忙しさを調整できなかったとしても、なんとか育児にも参加したいと考えてくれているのが伝わってきたから、不安が解消できました。でも、その話し合いのときに夫が「いまの生活をまったく変えたくない」「仕事はこのままやりたい」みたいなテンションだったら、妊娠には踏み切れなかったと思う。
――たしかに……その温度感、大事ですね。もうひとつ不安だった、お金のことはどうでした?
フリーランスという立場もあって、不安は不安のままだったんだけど……でも、何年もそんなことを考えている間に35歳が見えてきていたし、経済的な準備が整ったときには高齢出産の年齢になっているんじゃないか? と思ったんです。追い込まれないとできない性格だし(笑)、もしも授かったら自然に切り詰められるだろうと思って、解禁しました。いまでも、子どもの教育にいくらかかるのかみたいな見えない不安はあるけれど、問題が具体的にならないと結局行動できないから。
「夫と子どもと楽しく暮らす」ことが最優先
――授かったら自分の仕事はトーンダウンしてもいいと思っていたとはいえ、そこはフリーランス。ペースを落とすことで依頼がなくなるのでは……みたいな不安はありませんでしたか?
妊娠するまではあんまり考えてなかったけれど、実際授かったいまは、確かにありますね。コロナでいったん止まった案件も多いし、いつ仕事が戻ってくるかはわかりません。でも、一応自分のなかに基準があって。
――どんな基準?
妊娠・出産・育児のどこかで思うように働けなくなるタイミングが来るかもしれないけど、そうなったときにクライアントから「仕事を優先できないんですか?」みたいなことを言われたら、無理に続けるのはやめよう、という基準です。育児と両立する方法を探らせてもらえないなら、続けることで相手にもご迷惑をおかけしてしまうと思うし。だったら、そういう温度感が合う相手を見つけて仕事をするほうが、お互いにノーストレスですもんね。
――たしかに、モヤモヤしているのに無理するほうがお互いマイナスですね。でも、それで仕事がなくなっちゃったらと思うと、振り切れないかも……。
たぶん、仕事のウェイトがそこまで高くないんだと思います。夫の扶養に入って専業主婦をやってもいいと思った時期もあるし、子どもを育てながら、できる範囲で働ければいいなって。
――実際、妊娠してからの体調も含め、仕事の現状はいかがですか?(取材は昨夏)
コロナでおのずと仕事が減ったことが、体調的にありがたい感じになってます。妊娠5ヶ月ごろ、家でふと立ち上がったら視界が突然ブラックアウトしたことがあって。貧血だったんですけど、妊娠中はそういういろんなトラブルの発生条件がよくわからないから、怖くて外出しにくくなっちゃったんですよね。順調だとか安定期だとかいっても、やっぱり普通の人とまったく同じに動けないときはある。取材で立ちっぱなし……みたいな案件があったら厳しかっただろうなって思います。
――妊娠・出産期の身体って、何がダメで何がいけるのか探っているうちに次々変化していっちゃうんですよね。産後の仕事はどういう計画ですか?
基本的には「子ども軸」でいくつもりです。取材に行かなくても家で書けるような原稿を中心に、うまく内容をシフトしていければいいなと思ってます。保育園に入れるかどうかはちょっと悩んでいて……3歳まで家で見て幼稚園というのもいいなって思うんですよね。そもそも家の近くにはあんまり保育園もないし、フリーランスだから保活も厳しそう。実家が遠い核家族なので、ベビーシッターさんなどにうまく頼りながら、仕事と育児を両立していくことになると思います。……でも、人に預けてるときに我が子が初めて立ったりしたらどうする!? とかも考えちゃう(笑)。そのときどきで、自分の気持ちと相談かなって思います。
――いっとき生活を変えてもそれをずっと続けなきゃいけないわけじゃないし、自分や夫婦のかたちを見ながら、都度ベストを選んでいけるといいですね。
そうですね。ものすごく理想をいえば、仕事も子育ても同じくらいの比率でやりたいんです。でも、自分や夫の生活を守ることを考えたら、私が仕事をがっつりやるのはちょっと違う。「夫と楽しく子どもを育てながら暮らす」を優先した結果、私がひとまず仕事を減らす選択になっただけ。それはそれでアリだなって、ちゃんと思えています。
【エピローグ】出産4ヶ月になるいま、実際どんなふうに仕事をしているか最後に聞かせてください。
取材後の2020年10月に、長男を無事出産しました。仕事は妊娠前の半分ほどに減らしたけれど、11月から再開しています。取材時には「3歳まで自宅で……」と考えていましたが、子どもと二人っきりの状況は、思った以上に気が張り詰めて大変で(笑)。「メリハリをつけるのにも仕事をするのがいいだろう」という夫のすすめもあり、保育園を申し込み中です。預けられる体制が整えば、仕事のペースもさらに戻しやすくなるので、より理想のかたちに近づけられるのではとワクワクしています!
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