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Once in a blue moon / はるかとゆいさん

「ブルームーンっていっても、青くはないんだ」
 冬が近付いて、日暮れが早くなった。ベランダのカーテンを閉めようと窓際に立った時、ぽっかりと浮かぶまあるい月が見えた。そういえば今日は満月。ブルームーンというのだと聞いたのを思い出した私は独り言のように呟いた。
「青い月っていう意味じゃなくて、それくらい珍しいっていうことみたいだよ。2回満月がある月の、2回目の満月のことをブルームーンっていうってニュースに載ってた」
 カーテンを閉める手を止めて満月を眺める私の隣にやってきたゆいさんが、そう教えてくれた。
「そうなんだ」
 我が家にはテレビがない。なんとなく買いそびれたまま、なくても困らない事に気が付いてそのまま過ごしている。欲しい情報やニュースは今やネットを介して自分で集めることができる。
「月が綺麗ですね。」
 隣に並んで立つゆいさんの、長い髪が柔らかく揺れてどこか悪戯っ子のように笑った。私は少しだけ考えて口を開く。
「…死んでもいいわ。」
「……もう、それはこっちのセリフだわ。」
 私が返した言葉に驚いてから、嬉しそうに口にしたゆいさんがそっと肩を寄せる。こんな日常がしあわせだと思う。
「あ」
「なあに?」
「トリックオアトリート。今日はハロウィンでしょ?」
「そうね…お菓子もあげるけど悪戯もしていいわよ?」
 今度は驚かずに口にするゆいさんの、形の綺麗な唇が微笑む。
「そういうところ」
「なあに?」
「そういうところ、ずるいと思う」
 悔しそうにじとりと見つめると「ふふ」と楽しそうに笑って私の腕に自分の腕を絡ませるゆいさん。
「冷えてきたから戻りましょうか」
「はいはい」
 私は諦めて返事をしながらカーテンを閉めた。

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