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『アンジュール』のススメ

大人になってから子どもの頃読んだ本を読み直すと、感情移入する対象が変わったり、ストーリーの後ろにある、作者の深い意図に気づけたりして、嬉しい発見と喜びがある。

この記事では、児童書担当の書店員が、大人になってから楽しむ子どもの本の素敵さを共有したい!という想いで、子どもの本の中から「推し」を紹介している。

今回紹介する本はこちら。
アンジュール ある犬の物語

54枚の、絵だけで構成された本。

車から投げ捨てられ、置き去りにされた犬のアンジュールの彷徨いを描いている。

白い紙に鉛筆のザクザクっとした線が乗っているだけのシンプルな画面。細かな描写は注意深く削り落とされている。それは作者が見ているものだけを描いているからだ。
ページの1枚、1枚は、アンジュールを目で追い続ける私たちの視界でもある。

あるページは、走り去る車を正面からとらえた構図になっていて、アンジュールは遠くの点にしか見えない。
それなのに、愛する人間に捨てられた犬の、痛切な悲しみと絶望がありありと見える。

上質の無音映画を観ているような贅沢な絵本。ぜひ、静かな夜に、お一人で楽しんでほしい。


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