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朝が近づいてくる。

気づけば日本を出発してから10日以上が経っていた。確実に時間の外にいる。

日本での暮らしを思うと、常に何かをしていなければ、何かを為さなければ価値のない人間になってしまうかもしれないと言うような焦燥感に時々かられてしまう。

それが、今全くないとは言い切れないけれど、何気ないこと一つに対して喜びを感じることができ、自分の「社会的価値」のようなことから一度離れて自分自身を俯瞰で観察するようなこの日々が、私にはとても面白い。

「なんのため」と問うことの必要性と裏腹に「なんのためでもない」「なんのためになるかはわからない」ことに夢中になりたい欲求の間で、これからの未来を想像したりする。思ったほど強く前向きなものでもなく、悲観的でもない。ただ、想像している。

日本を出る出発前夜に、たまたまついていたテレビで沢木耕太郎さんのインタビューを見た。この10日間、そのインタビューの内容をただなぞるように繰り返し思い出している。たぶん、この先何度も思い出すだろう。
深夜特急を読みかけていた程度の私は沢木耕太郎さんの姿を初めて拝見し、その聡明で紳士な佇まいと、優しい声色にのる美しく印象的な言葉使いに、荷造りの手を止め、すぐにテレビに向かった。

インタビュー終盤、インタビュワーに「沢木さんのこの先の展望は?」と聞かれると
「一つ謝らなければいけばいけれど、先の展望は何もない。目の前の仕事を一つずつ一生懸命やるだけ。一つ終わって、また鯨みたいに海面にふーっと息を吸いにあがって、また潜りたかったらもぐる。それだけ。」
(記憶の中の文字起こしで、違う部分があるかもしれません。ごめんなさい。)

というようなことをおっしゃっていて、なんだか、少し背中を押されたような気持ちになるのがふしぎだった。
最後に深夜特急の後書きの言葉を用い、メッセージとして「気をつけて。だけど、恐れずに。」と言った沢木さんの瞳が本物で、気付いたら涙が止まらなかった。旅立つ直前にこの言葉に出会えて、自分の不器用な生き方を笑える強さが心の底から湧いてくるようだった。

私にはまだ色んなことがわからない。世界の美しさも喜びも、憎しみや悲しみも、知りたいと思い一歩踏むたびに先が遠ざかるように感じる日もある。だからと言ってもう悲観的にもならない。すこしだけ心細くなる日があるだけ。心細くても、体も心もちゃんと次に向かって動いている。

デンマークの北部。冬はやっぱりとても寒く厳しいけれど、日に日に朝が近くなってくるのを感じると、それだけで少しうれしくなる。

月曜日からは授業がはじまる。あまり夜更かししないようにしなきゃな、と思いながら、日に日に寝るのが遅くなる。まだ1週間だけど、大丈夫かな。

すでにここの人たちと毎日笑い疲れするような日々。どうだろう。どんな5ヶ月になるかな。期待でも不安でもない。やるぞ、という思いがあるばかりです。








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