「デスゲーム」のはなし
悲しいことがありました。聞いてください。
家の近所の図書館の棚をボーッと見ていると、「ハンガー・ゲーム」と「ハンガー・ゲーム2」の文庫本が合計4冊並んでいたんです(ハンガー・ゲームはそれぞれ上下巻構成)。映画版が結構好きで、原作もそのうち読もうと思っていた私は、何も考えずに並んでいた4冊借りたんです。
順調に1巻を読み終わり「映画ではわからなかった主人公の気持ちが!」なんて嬉しくなり、そのままの勢いで2巻の上巻を手に取りあっという間に読み終わり、そしてワクワクしながら下巻を手にとったら、なんと……
それも上巻だったんです……。
※調べたところ、近所の図書館の蔵書は「ハンガー・ゲーム2 上巻」が2冊でした。なんでだよwww
ということで、私が好きなデスゲームの話をします。
■バトルロワイヤルの系譜
「バトロワ系」と私が勝手に読んでいる作品群は、複数の登場人物が(多くの場合)閉鎖空間に閉じ込められ、その中で参加者同士の殺し合い・蹴落とし合いをするものです。しかしそれだけではなく、ディストピアSFみが強いものが特にバトロワっぽいな、と思われます。明確な定義ではないけれど、運営は「国家」や「権力」で、生き残れるのは1人だけというのもお約束。
ハンガー・ゲーム
「ハンガー・ゲーム」は多くの批評家から「バトルロワイヤルやん」と言われていたようです。
※個人的には「映画」→「原作」の順序がいいと思う。
ハンガー・ゲームは、荒廃してしまった未来のアメリカ大陸を舞台にした作品。12に分けられた地区それぞれから、少年少女を1人ずつ「贄」として差し出させ、ハンガー・ゲームに参加させます。ハンガー・ゲームのなかで贄たちは殺し合い、生き残った1人には一生を裕福に暮らしていける褒美が与えられるのです。
まさに筋だけ見れば、「バトロワやん」と思うのも致し方ない。日本人、みんな、そう思う。しかし映画を見た人ならばわかると思うのですが、尺のかなりの部分が「12の地区の中でも特に貧しい12地区から、贅沢の極みである首都・キャピタルに送り込まれた2人が、実際のゲーム開始までに首都の人々に様々な方法でPRする」という事前準備に占められているのです。ファッションデザイナーの手によって飾られ、オリンピック開会式さながらのショー・パレードをこなし、マスメディアの趣味の悪いインタビューに答え、豪華な食事をいただく。自分の地区ははあんなに貧しかったのに、キャピタルでは色んなごちそうを味わうために吐いたりもする!
もちろん、ゲームが始まってからも面白いんだけれど、原作が主人公・カットニスの一人称で描かれているために、圧倒的にゲームでの攻防の描写が減ってしまっているはご愛嬌。そのあたりが他のバトルロワイヤル系譜作品との大きな違いです。
また、ハンガー・ゲームは映画では4作品まであるシリーズ作品で、後半になるにつれてヤングアダルト向けディストピアSFになっていくのも特徴。
バトルロワイヤル
さてはて、何度も「バトルロワイヤル」と言及していますが、バトルロワイヤルはやっぱりデスゲームものとして最強に面白いです(原作に限る)。
先日久々に映画版を見た感想は「山本太郎、どうしてこうなった」と「BATSUのバトロワ制服、買っとけばよかった!!アタイのバカ!!」でした。(※当時、いまはなき「BATSU」というファッションブランドが映画バトロワとコラボした制服を出したのですが、学生には手が出ませんでした)
バトルロワイヤルは、某中学生の某クラスが修学旅行のバスのなかで突然睡眠ガスをかがされ、変な離島に隔離されたかと思えば、教師じみた男に「今日は皆さんに、ちょっと殺し合いをして貰います」と言われる、あのバトルロワイヤルです。流行りましたね、このセリフ。
中学生のクラスメイト同士が殺し合うというセンセーショナルな設定、描写のグロさから、これでもかという批判を浴び、映画はR-15指定となりました。
私は映画化前からこの作品を知っていて、リアル中学生の頃に友人に「お前は絶対これが好きだと思うから、読め」と言われたのがバトロワでした。彼女は私にどんなイメージを持っていたんだ。
もちろん最高に興奮し、ハチャメチャにハマりました。年齢がバレますが、ギリギリ映画を映画館で観られるようになったので、父にせがんで今はなき地元の小さな映画館に観に行ったのを覚えています。
どうでもいい話ですが、私の推しは瀬戸豊です。与えられた武器がフォークだったクラスのお調子者で、主要人物の三村と大親友。大変可愛らしいので、漫画版は未だに許していません(キャラデザ的な意味)。
好きなシーンは主人公・七原秋也が人を殺すところを見てしまって「七原絶対に信じられないマン」になってしまっていた女の子が、なんやかんやあって灯台から落ちそうになり、それを七原がギリギリのところで腕を掴んで助け、彼とそんな体勢のまま話をした結果「どうして信じられなかったんだろう。ちょっといいなって思った七原くんじゃない」って彼を信じ直しながら、自分で落ちていくところです。一番しんどい。
このあたり、私が「バトルロワイヤルは信じることを考える作品」だなあ、と思う所以でもあります。
死のロングウォーク
このバトルロワイヤル、突如日本に現れたセンセーショナル作品という印象が強いのですが、実は多大なる影響を与えた作品があります。それがあのスティーブン・キングが若かりし頃に別名で書いた「死のロングウォーク」です。
「すべてのホラーはスティーブン・キングがもうやったんだ!!」
そんな冗談はさておき。
「死のロングウォーク」は、そのタイトルの通り「めっちゃ歩く」作品です。ていうか歩くだけの作品です。近未来のアメリカで、毎年行われている「ロングウォーク」という競技。志願者の12から18歳の少年の中から、選ばれた100人だけが参加できるその競技は、ただひたすら一定のスピードで歩き続けるというもの。もちろん数十分、数時間で終わるものではありません。1日、2日……眠る時間も与えられず、歩き続け無ければなりません。指定の速度を下回ってしまった少年は、数度の警告の後に射殺されます。そして最後の1人に残った少年にだけ、褒美が与えられます。
この話なんですが、本当にただ歩いているだけなんですよね。それなのにめちゃくちゃ面白い。シンプルな筋なのに、なんでこんなに書けるんだ、すごいわ。デスゲームファンなら、ぜひ読んでおきたい作品。
■私の好きなデスゲーム
デスゲームが流行って等しい昨今ですが、漫画やネット小説での展開、あるいはデスゲームをメタ的に扱った作品が多く、実は一般小説ではそこまで多くないのが寂しいところです。
「全然殺伐としないデスゲーム」、良いよ。
「ウ”ィ”エ”」をアップされているチャンネルのこれもよかった。
そうじゃない。こういう話がしたいんじゃないんだ。
というわけで好きなデスゲーム小説をポンポン紹介していきます。
インシテミル
いいかい?インシテミルに映画版は存在しないよ、絶対だよ。
「インシテミル」はミステリ作家である米澤穂信の作品です。ということで、これはほとんど推理小説です!でもデスゲームなんだもん、ほんとだもん!とジタバタしてしまうほど大好きな作品です。
この物語は主人公である結城くんが時給11万2000円のバイトを見つけるところから始まります。バイクが欲しい彼は、おいしいバイトに参加することにします。そこには同じくアルバイト情報誌をみていたお嬢様含め十数人の男女。「ある人文科学的な実験」と言われ暗鬼館と呼ばれる館に1週間閉じ込められることになる。そこで行われるのは、あるゲーム。
基本給は時給11万2000円。しかし、報酬はそれで終わらない。
その他、暗鬼館で過ごすためのルールも存在し、そのルールに則りながら(もちろん)起きてしまう殺人事件を対処していく参加者たち。
他のデスゲームものが、力技で物語が展開することも多いのに反し、完全にミステリの文脈、クローズドサークルで起きる殺人事件として描かれるデスゲームは本当にめちゃくちゃ面白い。
もちろん小説としても面白くて、主人公が(以下ネタバレ)……
何度も読み返す大好きな作品ですが、映画版は存在しないよ。
クリムゾンの迷宮
冗談でもなく、人生で一番読み返してる作品かもしれない……。今となっては「悪の教典」や「新世界より」が有名な貴志祐介の初期作品(新世界よりも大好きです)。
あるときふと目覚めると、火星のような場所に寝かされていた主人公。見渡す限りの砂漠、周囲は深紅色の奇石が並ぶ。与えられたゲームボーイ然とした携帯ゲーム機(時代を感じる)には「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された」と――
ゲーム機に示されるままに進んでいくと、そこには自分と同じ状況らしい男女の姿が。そしてゲーム機には新たなメッセージが示される。食料を求めるなら南へ、武器を求めるなら西へ、サバイバルの道具を求めるなら東へ、情報を求めるなら北へ(違うかも)。それぞれ別れ、次のチェックポイントへ進む彼ら。彼らは果たしてすべてのチェックポイントをたどり、ゲームをクリアできるのだろうか?
クリムゾンの迷宮、本当に面白いんですよ。長期戦デスゲームあるあるのサバイバル要素もかなりしっかり描かれ、食糧不足でのやり取りなんかはもう完璧。積極的な殺し合いなんて起きなさそうなルールじゃないですか、これ。ゲーム機の案内に沿って進むスタンプラリーみたいなもんなんだから。いやいや、これがあれです。
この作品、 角 川 ホ ラ ー 文 庫 なんですよ。
あたしゃはじめて読んだとき、この作品がただのスタンプラリーから殺し合いゲームになることが確定したあの瞬間、もうゾクゾク怖くて仕方なかったですわ。貴志祐介初期作品の中で言えば「天使の囀り」かな、そのあたりに近い仕掛けですね(こっちも怖い)。
純粋にハチャメチャにグロくもあるので、ホラーやゴア耐性がない人は読んではいけないけど読んでくれ、面白いんだ。
でもでも!!あたし絶対いつかクリムゾンの迷宮やりたい!!!!!!
同じく貴志祐介の「ダークゾーン」もデスゲーム系の作品。
こちらは、疑似軍艦島を舞台に、将棋然としたゲームが繰り広げられます。実際に人間だった存在が姿を変え駒とさせられ、対局よろしく敵陣と争うことになります。といっても自由に動けるわけではなく、もちろん指し手的なサムシングである主人公の意思に従って。
もともと、現実世界で将棋の奨励会に所属していた主人公。その知識を活かしゲームを進めていくが……。
ミステリっぽさがなくなり、かなりゲームっぽい。ただいつも思うのは「ダークゾーン面白いけど、これジャンルはホラーなのか?ミステリ……ではないし、ファンタジー……いや、面白いけど……なんだ?」です。ホラーエンタメ、かな……。
■デスゲームへのこだわり
デスゲームと一口に言っても、いくつものパターンがあります。
・参加者同士が直に殺し合うもの
ーバトルロワイヤル系
・参加者同士が蹴落とし合い、擬似的に殺し合うもの
ーダンガンロンパ系
・失敗すると死ぬ装置、アトラクション
ーSAWシリーズ、CUBE系
・運営、仕掛け人などが殺していく系
ーパッと出てきたのは、神さまの言うとおり
あとはこの複合。人狼ゲーム群なんかは「蹴落とし合い+殺し合い」なので強い(強いとは)。
どのパターンも面白いですよね……。
これは行われるゲームの分類なのですが、実はもう一つ大きな分類があります。
デスゲームの仕掛け人/運営が明かされる(そして対峙する)か否か、です。
デスゲームの運営って、絶対めちゃくちゃ大変じゃないですか。すげー管理しなきゃいけないし、参加者は命がかかってるんだからまさに死ぬ気で運営に対抗するし。時には魔法じみた管理をしている運営もあるわけです。
我々読者がデスゲーム作品を読んで思うのは、「主人公が生き残ってよかった!で終わり……なわけないよね」でしょう。しかし、ここで大きな問題があります。
たいがいのデスゲーム作品、デスゲームの壮大さや夢のようなディズニーランドさに比較して、運営や仕掛け人が面白くない問題です。
そりゃそうだ、東京ディズニーランドだって裏にはスタッフルームがあるんです(知らんけど)。ハチャメチャに面白いゲームだって普通のオフィスで作ってるし、萌え萌えキュンなエロ漫画を描いているのはおじさんです。
ここのうまい処理が難しいんですよね。国家だったり、お金持ちの楽しみとしてのスナッフフィルムだったり、誰かの復讐だったり、超次元的存在だったり、死ぬ前の幻覚だったり。もう飽きたよ〜〜〜!!!!
その点ハンガー・ゲームなんかは、デスゲームデスゲーム言われているけれど、しっかりディストピアSFとして物語を広げていって良いなあと思うのです。1しかみていない人は、映画の続編も観てください。原作は……2の下巻をどこかで手に入れてきます……。
■おわりに
好きなデスゲーム動画を貼るのを忘れていたので貼っておきます。
面白い本の購入費用になります。