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【読書記録】アクアリウムの夜 稲生平太郎

稲生平太郎「アクアリウムの夜」を読みました。

角川スニーカー文庫で、古本価格が3000円~というびっくりプレミア本。現在はkindleで654円で購入可能。電子書籍って素晴らしい(私は図書館で借りました)。

春の土曜日の昼下がり、親友の高橋と行った奇妙な見世物、“カメラ・オブスキュラ”。そこに映し出された水族館には、絶対にあるはずのない、地下への階段が存在した。恋人の良子に誘われて試したこっくりさんは不気味に告げる―「チカニハイルナタレカヒトリハシヌ」!“霊界ラジオ”から聴こえてくる謎めいたメッセージに導かれ、ぼくたち3人のせつなく、残酷な1年が始まる。

「わあ、緒方剛志表紙の新しいラノベだ♡ 読んでみよ!」と気軽に手を出した若者にトラウマを与えまくる青春ホラー

私が読んだのは上記の角川スニーカー文庫版なのですが、表紙は「ブギーポップ」シリーズで有名な緒方剛志さんです。イラストに惹かれて書籍を手に取った人も多かったんだろうな、 2002年発売となると、まさにブギーポップが(当時の)ラノベ読みの中でマストみたいな時代だった記憶があります。「青春ホラー」と言われれば、「なるほど、たしかに青春ホラーとしか言いようがない」と思わなくもないのですが、ホラーというよりも幻想文学としての毛色が強い作品に感じました。

誤解を恐れずに言えば、私は読みながら「ああ、新興宗教オモイデ教を読んでいるときのような読書感覚だわ」と思っていました。

せつなく、残酷な1年

高校2年生の4月、主人公の「ギー」が、親友の高橋と奇妙な見世物、“カメラ・オブスキュラ”を見るところから物語は始まります。

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カメラ・オブスキュラを通じてみた水族館には、あるはずのない「地下への階段」が映し出されていたのです。物語はそこから始まります。

カメラ・オブスキュラ
こっくりさん
霊界ラジオ

それらから、ギーと高橋、そしてギーの彼女の良子はメッセージめいたものを受け取ります。
カメラ・オブスキュラからは水族館にあるはずのない地下の階段、こっくりさんからは「チカニハイルナタレカヒトリハシヌ」というメッセージ、そして霊界ラジオから聞こえるホワイト・ノイズに高橋は金星人からのメッセージを受け取ります。

都会でもない田舎の街にこつ然と存在する水族館は、良子の大伯父が道楽で(?)建てたものらしいが、その水族館について調べているうちに判明する、明治期の新興宗教白神様との関係。

ギーと良子、高橋の3人は現実なのか幻覚なのかわからない世界に、どんどん迷い込んでしまっていき――

4月から始まり、梅雨を経て夏休み、そして文化祭へと「学園の青春」らしい物語背景の中で進んでいく物語。ギーと高橋がバンドを組んでいるのも、THE・青春という感じで素晴らしいのに、その「青春らしさ」と「ホラー・オカルトストーリー」が同時に進行しているのが、何ともそら恐ろしいのです。全然怖くない話なはずなのに、そう、「そら恐ろしい」のです。

現実と幻想・幻覚の不安定さ

(どんどんバリバリにネタバレを含んでいきます、ご注意ください)

物語の中盤、霊界ラジオから金星人からのメッセージを受け取った高橋は、それが度を越して閉鎖病棟へ入院することになります。もちろんギーを含め主人公たちは、それを「幻覚」だと思うわけです。

読者である私たちも、あたりまえに「金星人からのメッセージという幻覚に狂ってしまった高橋」と「正気である主人公・読者」という視点で物語を読み進めています。

しかし、いちばん「アクアリウムの夜」で恐ろしいのは、その現実/幻覚が途中で不安定になるところにあるでしょう。

高橋が文化祭の最中に殺されたあと、主人公たちの行きつけの喫茶店の女主人は、学校の司書と高橋が一緒の車に乗っていたのを見たと言い、「昔ヤバい女」であったと語ります。司書の女は、白神様を今も信仰しているのではないかという疑惑が描かれます。

しかし、司書と対峙したときにギーは、喫茶店の女主人が高橋も入院していた丘の上の病院――精神病院に通っていることを告げられます。

誰が真実を言っているのでしょうか? 
どこに真実があるのでしょうか?
そもそも、すべて幻覚だったのでしょうか――カメラ・オブスキュラで見た、あの水族館の階段から。

最初のほうで「読書感がオモイデ教だわぁ」と書いたのですが、オモイデ教ではメグマというトンデモ理論があくまでもずっと「現実」であるのです。しかし、アクアリウムの夜では、水族館の階段も、こっくりさんのメッセージも、霊界ラジオも、何もかもが不安定な状態のまま物語が終わります。

最後まで読み終わったときに思ったのは「クリムゾンの迷宮かよ!」でした。(クリムゾンの迷宮も、なかなかのモヤモヤエンディングというか、なんというかなのです。それが良いとも思うんですけどね)

ライトノベルは素晴らしかった

ライトノベルを読んでいて、こんなトラウマ作品に出会ったらものすごい衝撃だったんだろうなあ、としみじみ思います。

最近はライトノベルは萌え(死語)キャラがたくさん出てくる異世界転生モノだとマーケティングで決められているような状況ですが、当時のライトノベルってヤングアダルトやジュブナイルのような懐の深さがあったんだなあとなんとなく思いました。

ついでに私が青春時代に大好きだったラノベ然としていないラノベを紹介して終わります。

鹿島翔香。高校2年生の平凡な少女。ある日、彼女は昨日の記憶を喪失している事に気づく。そして、彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えの無い文章があった。“あなたは今、混乱している。若松くんに相談なさい…”若松和彦。校内でもトップクラスの秀才。半信半疑ながらも、彼は翔香に何が起こっているのか調べ始める。だが、導き出された事実は、翔香を震撼させた。“そ、んな…嘘よ…”第1回電撃ゲーム小説大賞で金賞を受賞した高畑京一郎が組み上げる時間パズル。最後のピースが嵌る時、運命の秒針が動き出す―。



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